第百三十七話 素材をとろう
「おーい直樹ぃ」
馬車の中で直樹がぐったりとしていると、外から姉の声が聞こえてきた。
「……姉貴か」
直樹はゆっくりと顔を上げる。まだグワングワンと揺れる感覚は消えていない。どうにも地に足が着いていない、宙に浮いたような気分だったので、もはや自分は死んでいるのかも知れないと直樹は働かぬ頭で考えた。
「俺、死んじゃったのかなあ。なあ姉貴、生まれ変わったら俺たち結婚できるかなあ」
その直樹の妄言に風音は力強く首を横に振る。
「できないよ。身内じゃなかったら近付いたら通報するし、やりとりも弁護士を通じてだけだから会うこともなくなるよ」
「そっか。俺、姉貴の弟で良かったんだなぁ」
「でしょ?」
弟もひどいが姉も大概である。直樹も姉の言葉である程度のショックからは戻ってきたらしく、顔を窓から出した。もう二度と戦闘モードのサンダーチャリオットには乗るまいと思いながら。
「でーなんだよ?」
「おいナオキ、ナオキじゃねえか」
直樹が外に顔を向けるとそこには知り合いのヨークと呼ばれている冒険者がいた。
「あんたの知り合いだっていうから呼んだんだけど、知り合い?」
風音の言葉に直樹はヨークを見て(なんで涙目なんだろう?)と思いながら頷く。
「そいつはここから東にあるオルボアの街を中心に動いている冒険者だよ」
「そうなんだあ」
直樹の言葉に風音が納得し、ヨークはようやく(助かった)と心の奥底から安堵した。もし直樹が自分を知らないと言ったら間違いなく殺されると思っていたのだ。もちろんそんなことはないのだが、ヨークは人の縁にこれほど感謝したことはなかった。
「それでなんでお前がいるんだよ。地竜の群れがいたんだぞ。アブねえだろうが」
ヨークは直樹が以前にあったときよりも若干年頃の少年らしい雰囲気になったなと思いながら状況を話した。
実はヨークが行なっていたのは地竜の監視である。ある程度纏まって山を下りてきた地竜の群れを監視し、討伐部隊と連絡を取る係だ。討伐部隊と合流したら移動ポイントに爆破魔術を仕掛けて分断させ、数の少ない、或いは単独の地竜を狙うつもりだったとのだという。
「それを私たちが奪ってしまったと」
そう神妙そうに答える風音にヨークは「いやいや、全然そんなことないっすから」と答える。魔物は基本狩ったもの勝ちではあるし、そもそも群れの規模が大きくてヨークたちも対処に困っていたのである。
それを風音たちが散らし、しかもかなりの数を仕留めた。文句が出るはずもなかった。ちなみにヨーク以外にも何人か監視はいたが、それぞれ散った群れを追っているとのこと。
「それで、お前を雇っているのはドンゴルの街の冒険者ギルドでよいのか?」
風音の横にいたジンライの問いに「そうです」とヨークが応える。
「であれば、この地竜をどうにかしたいのだが人は呼べるか?」
ジンライの質問に「問題はありませんが」と言ってから少し考えた後に言葉を続けた。
「すべて換金するってんならドンゴルにゃあ素材保管人がいるんで、ただで運んでもらえそうですが、キープしたい素材があるんなら交渉の必要がありますよ」
その話を聞いたジンライが風音に「どうする?」と尋ねる。竜素材は黒岩竜のものがまだ不思議な倉庫に入っているし特に欲しいものではない。低級竜では竜の心臓もないし、ユッコネエに食べさせても能力は上がらないのだ。
「うーん。なんか素材として取っとくと良いものとかあるの?」
風音がそう尋ねるとヨークが「うーん」と唸って少し考えてから話し出した。
「確か地竜のコアも一部には竜の心臓に近いものになっているのがあると聞きますねえ。火を吐いたりはしないんで単純に力が上がるぐらいなんで見分けが付きにくいらしいけど」
それを聞いた風音は、無限の鍵を取り出しダウジングを開始する。そして並んでいる地竜の死骸の前をふらふらと進んでいく。
「あれ、何をしてるんだ?」
その様子を馬車から顔を出している直樹にヨークが尋ねる。
「ダウジングとかって言ってたな。調べてるんじゃないか?」
確か、廃都市でもああして地下室を見つけていたなと直樹は姉の後ろ姿を見ながら思い出していた。
「こいつかな」
そして風音が一体の地竜の前に止まり指さした。それは最初に轢いた、群れの中心にいた地竜だった。他の地竜に比べて若干サイズが大きい。
「ここで解体するのはちょっと難しいし、こいつだけマーキングしといてもらえる? その竜の心臓っぽいのがあったらもらうし、それ以外は換金でいいから」
「わっかりましたー。でもホントにこれがそうなんすか?」
風音のフレンドリーな雰囲気に当てられ、ヨークも口調は丁寧ながらも自分のノリを取り戻したように話す。
「どうだろね。まあ、そうだったらいいなってぐらいで見ておくよ」
そう風音は言って南の方を向く。叡智のサークレットの遠隔視でコテージの様子を見ていたのである。
(コテージは無事か。けどよく考えてみれば壊されても問題はなかったなぁ)
このままドンゴルの街に向かう予定である。今回は温泉地といって今みたいに地竜も通るような場所では危険すぎるし、野盗の溜まり場にでもなるとまずいのでそのまま解体することにした。そして風音たちはジンライに地竜の留守番を任せてドンゴルの街へと向かい、素材保管人を連れて再度戻ることとなる。さすがに16匹の地竜を一度に運ぶ不思議な倉庫は素材保管人も持っておらず、最終的に5度ほど往復して回収を果たした。その際にヒポ丸くんとサンダーチャリオットが活躍したのは言うまでもなかった。
後で聞いた話では風音たちによって分断された地竜の群れは別のドラゴンハンターたちが4匹ほど討伐できたらしいとのこと。そして街に着いた後の解体で風音が指定した地竜からはかなり純度の高い竜の心臓が出てきたのだった。
◎ドンゴルの街 倉庫
「おお、ちゃんと竜の心臓になってるねえ」
風音は赤い結晶体を手にとり眺めていた。たった今取り出した地竜の竜の心臓である。そして今風音がいるのは素材保管人が借りているドンゴルの街の外れにある倉庫であった。
「またあなたにはやられましたねえ」
地竜を解体しその結晶体を風音に手渡した素材保管人が苦笑いしながらそう言った。実はこの人、オルドロックの時に会った素材保管人だったのである。風音もその顔には確かに見覚えがあった。
「確かに地竜からはまれに竜の心臓が出るんですが、今回のように100匹ぐらいの群れのリーダーからだと高確率で竜の心臓が手にはいるんですよ」
「横からかすめ取ったみたいでゴメンねえ」
悔しそうに解説する素材保管人に風音があやまる。だが素材保管人は首を横に振った。
「いいえ。あなたがたが実力で戦って仕留めたものです。かすめ取られたなんてとても言えませんよ」
そう素材管理人は肩をすくめておどけてみせた。口では言えないが悔しいことは悔しいようであった。
(ま、チャイルドストーンもあるし、使い道は別に考えるかなあ)
そう考えながら風音は竜の心臓をアイテムボックスの中にしまい込む。
「ところで、カザネさんたちは今回はどうしてこちらに? もしかしてクリスタルドラゴン討伐ですか?」
「え? なにそれ?」
風音は素材管理人の言葉にピクッと反応して尋ねる。クリスタルドラゴンとはなんとも興味を惹かれる名前だった。
「おや、知りませんでしたか。カザネさんたちはドラゴンスレイヤーの称号持ちですし、てっきりそれで呼ばれたのかと思ったんですが」
素材保管人は意外そうな顔でそう返した。
「たまたまだよ。近くに温泉があったから寄ったら地竜の群れに襲われそうだったんで仕方なく戦ったんだよ」
その言葉に「好きですねえ、温泉」と素材保管人と言った。
「その地竜の群れにも関連したことですが、モロゴ山にクリスタルドラゴンが現れましてね。地竜たちはそれに反応して下山してたんですよ」
「そのクリスタルドラゴンってなに?」
「ドラゴンの死骸をベースに生まれるゴーレムの一種です。体の一部がまんま水晶なんですよ」
「竜じゃないの?」
「分類は竜ですね。竜気を持ってますし竜の心臓も形成されてます。ただ同族喰らいでもありますので地竜などが主食です。人間も食べますが」
「そうなんだあ。この街の冒険者だけじゃあ厳しい感じなの?」
「現状、この街では通常の地竜、飛竜を退治するような冒険者の方々はおられますが、そこまで高レベルのドラゴン相手だとやはり厳しいですね。実際一度挑んで返り討ちだったらしいです」
戦ってはみたらしい。
「そうした場合には外からランクSの冒険者やドラゴンスレイヤーの人とかを呼ぶのが一般的なんですよ。あの黒岩竜を倒したカザネさんたちならばやれない相手ではないと思いますが」
「んー、考えてみるよ」
「よろしくお願いします。あれが退治されれば私も仕事が終えられますし」
どうもこの素材保管人は大物専門の人らしく、今回もクリスタルドラゴン用に滞在しているとのことだ。
「けどクリスタルドラゴンか。かなり硬そうだよね」
「硬いですよ。通常は竜の心臓を破壊してしとめます。まあゴーレムのコアストーンと同じですね」
「ゴーレムと同じってことは竜の心臓を取り出せたらかなりレアってこと?」
風音はコンラッドの街のグレイゴーレム狩りを思い出した。
「ええ、クリスタルドラゴンの竜の心臓は普通の竜の心臓と違って赤ではなく七色に光っているんですよ。レインボーハートと言ってレア中のレア素材です」
その言葉に風音は「おおっ」とテンションが上がった。だが素材保管人は続けてこう口にした。
「とはいえ取り出すのは至難です。ゴーレム同様扱いが難しいし、大きな欠片が手には入れば大喜びって感じですよ。まあ今回の地竜だけでも儲けさせていただいてますから、あまり贅沢は言いませんが、こちらとしては欠片の一部でも換金させていただけたらなあと思います」
とか言っていた。無論風音としては完全な形での回収の予定である。そして風音はすぐさま倉庫を出て情報収集へと向かっていったのだった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:30
体力:107
魔力:181+420
筋力:52+10
俊敏力:43+4
持久力:29
知力:57
器用さ:38
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『頑丈な歯』
弓花「全身宝石みたいなドラゴンよね」
風音「うん。ゲーム中ではイベント戦闘でしか出てこなかったから、ブレスがやばいって事くらいしか記憶に残ってないなあ」




