第十三話 お仕事をしよう
◎コンラッドの街周辺
「スキル・ゴーレムメーカー・ヒッポーくん」
風音が河原の横にある自分の身長ほどもある岩に手を当てスキルを発動した。そして風音の手から放出される魔力によって岩はガラガラと崩れながら一つにまとまり、四本足の生き物を模して形作られていく。
「おおおぉおおおお!!!」
そうしてその場でできた石の馬に弓花は驚きの声をあげた。
「くっくっく、これがゴーレムメーカーの真の力よ」
天に両手を掲げ何かを呟いている風音は放っておき、弓花は馬型のゴーレムをしげしげと眺める。
「よくできてるなあ、これ」
その弓花の声に風音も声を弾ませて答える。
「ゴーレムの中でも持続力と移動力に絞って設定してるからね。馬に近い速度で走っていられるんだよ」
(なるほど。このこがニヤつくわけだ)
ゴーレムメーカーのスキルを取った後の風音のテンションが異様に高かったので若干引いていたがこれならばと弓花も頷く。
「これってどれくらい持つの? 確か山で作ったのは戦闘後にすぐ壊れたよね?」
「ヒッポーくんは魔力を補充しなくても四時間は持つよ。補充し続ければ半永久的かな。その代わり耐久力は最低にしてるから魔物のダメージを食らうと一撃で崩壊するけどね」
ゴーレムメーカーとは文字通りゴーレムを作成するスキル。形状・耐久性・持続力などを調節し変えることで様々な用途で使用が可能だ。
「実際に試してみると壮観だねえ。くっくっくっく」
(また奇妙な笑い方してる)
「これ、普通のゴーレムだけじゃなくてこういう馬型や騎士型、手だけのヤツやゴーレム化が解けても使える簡易コテージなんかにもなるんだよね」
「至れり尽くせりじゃない。こんな術があるなんて全然知らなかったわ」
「覚えるのが中盤以降で習得できる職業も限られてるし。まあ覚えた頃にはテントも余ってるし移動手段もそろってるから実質死にスキルなんだけどねえ」
「あーなるほど」
(確かに私もシルキーに乗ってたらこいつは使わないわなー)
ちなみにシルキーとはゲーム中に弓花が購入して愛用していた移動用巨大ツノウサギのことである。
「けどこうして二周目序盤とかで手にはいると超絶便利なんだよ」
そう言いながらも風音の顔はだらしなく笑みで歪んでいる。
「きゃっほーい」
浮かれポンチだ。浮かれポンチがいる…と弓花は目の前の風音を見て思った。
浮かれてスキップしたり、さらにゴーレムを作ろうとしたり、オリジナルゴーレムを今から設計しようとしたりする風音を「どうどう」と抑え、弓花は風音に質問する。
「それで今日はどうするの? もうお開きにするならゴーレム作りを止めないし私帰るけど?」
「うう、自重します。魔物とか狩りたいです」
「ああ、そう。それでその馬を作ったってことは、そいつに乗ってくってこと?」
「うん。そのつもり。ヒッポーくんと『犬の嗅覚』があれば適度な数の魔物を探し出して狩れるしね」
「了解。じゃあさっさと行こうじゃない。もう昼に差し掛かってるしね」
◎クォン草原
「はいよーヒッポーくん!!」
コンラッドの街から出てすぐのクォン草原は広く、沼地なども少ない。その中を石の馬とそれに乗る少女二人が駆けていく。
(思ったより揺れないな。そこらヘんの制御はよく利いてるわけか)
乗馬経験のある弓花だがこの石馬の乗り心地は想像以上のものだった。前に跨がっている風音も終始ご機嫌で(誰だろう、この陽気な奴?)と弓花も思ったものだった。
「む、変な臭い発見!」
そうしていくらか草原を進んだところで風音が声を上げた。
「数は?」
『犬の嗅覚』スキルのことを理解している弓花は余計な疑問を挟まず、率直に質問する。
「レイダードッグの死体だと思うんだけどそれに群がってるのが3ついる。レイダードッグやホーンドラビットとは違う臭いだから多分チルチルヒかも」
「あれか」
弓花はゲェという顔で返事をした。
「どうする? このまま避けて通ることもできるよ」
だが苦手だからと避けるのもよろしくないと弓花は考える。郷に入っては郷に従えともいう。自分たちの好き嫌いで判断すると手痛い目に遭うかもしれない…と。
「いや、戦って経験積んでた方がいいと思うし、やろう」
「それじゃあ、降りよっか」
ドサッと風音と弓花が草原に降り立つ。
「ヒッポーくんはどうするの?」
「生命反応はないから巻き添え食わなければ魔物も手を出してこないはずなんだ。だからそのままにしとくの」
「なるほどねえ」
馬だと魔物に食われたり誰かに盗まれる場合もある。それらの心配がないばかりか仮に壊れてもすぐに作り直せる。便利なものだと弓花は思う。
(あれ、でもヒッポーくんって、というかゴーレムってここで作れるのかな?)
そう弓花の中で疑問が浮かんだが、風音がさっさと進んでいくのを見て弓花も浮かんだ疑問を捨ててついていく。
なお、この場でもゴーレムを作成することは可能ではある。ただしできるのはクレイゴーレム(泥人形)。そんなものに乗ったら全身が泥だらけになってしまうのであまりオススメはできない。
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チルチルヒ。
名前からは想像付かないがようは巨大なミミズの化け物のことである。名前の由来は不明だがチルチルっと動くからなどという俗説があるとかないとか。そんな話を弓花は昔掲示板で読んだな~と思い出していた。
「いた」
風音の声とともに弓花は過去に思いを馳せ逃避していた現実に引き戻される。
「ウゲェエ」
弓花の前にうねうねとしていた三本の触手があった。
「レイダードッグを捕食中…だね」
風音も顔をしかめる。
(さすがに風音もこれはダメなんだ)
だが敵の注意が食事に向けられているのはチャンスでもある。
「弓花、私右行くから左のお願い」
風音は素早く判断し弓花に指示を出す。食事がいつ終わるかも分からない。ならば迅速に不意を打つべきである。
「了解。3匹目はどうする?」
「早い者勝ちで」
弓花が頷いたところで、二人は同時に駆ける。
「スキル・突進!!」
走りながら風音がホーンドラビットから手に入れたスキルを発動させる。
一時的なリミッター解除による身体能力の強化を設定。
(よしっ)
風音はまるで一筋の閃光のように加速し、そのあまりの速度にチルチルヒは反応すら見せられずにコアを一刀両断されてしまう。
コア。
グレイゴーレムのストーンコアと同様に全ての魔物にはコアと呼ばれるものが存在している。いや正しくはコアを持つものが魔物と分類されていると言うべきだろう。
チルチルヒのそれは頭部よりやや下あたりに存在しているが身体が透けているので比較的狙うのはたやすい。そして風音に一瞬でコアを破壊されたその個体は絶命する。
突然の襲撃に反応の遅れた他の個体だが、どちらも襲ってきた風音に気を取られたため、さらにもう一人の存在の接近を容易に許してしまう。
「いやぁあああああああああ!!」
気合いの掛け声とともに一閃。容赦のない一撃はチルチルヒのコアを破壊し、そしてその後ろにいたもう一匹までをも貫く。
「チッ」
弓花が舌打ちをする。さすがに二匹目のコアまでは正確には突けなかったためだが、それも大した問題ではあるまい。
弓花はそのまま槍を抉り、刃先をコアの位置に向けると薙いで破壊した。
戦闘後。
「うぅわぁあ。すごいね弓花。2体一緒とか…」
「う、うん。風音こそ、突進だったっけ? ぜんぜん追いつけなかった…よ?」
素材入手のための作業だがまずチルチルヒの体内からは微量のマジッククレイが取れるので体を裂いて、中身からマジッククレイを取り分けて袋に詰める必要がある。それと指定魔物討伐の鑑定用に頭部を3つ拾ってこれも保存、指で摘まんでアイテムボックスに投げ入れる。また食われていたレイダードッグから毛皮をはぎ取ることができた(チルチルヒは口などから体内に入り込み肉を吸うので外側のダメージは少なかった)のでこれも指定魔物討伐報酬として入手。
という一連の作業を涙目になりながら行い、その過程で気を逸らすために互いを褒め合っていたので両者ともその内容はほとんど耳に入らなかった。
が、どちらも口にした言葉自体は嘘ではなく、実際に彼女らの行動は新人の冒険者とは思えないほど手際の良いものだった。
ちなみに、帰りにギルドの受付でチルチルヒの頭部を提出したところプランに「女捨ててるねぇ。あたしなら死んでもやんねーわ」と言われて二人は愕然とすることとなる。異世界でも嫌なものは嫌らしい。
名前:由比浜 風音
職業:冒険者
装備:鋼鉄の両手剣・レザージャケット・鉄の小手・布の服・皮のズボン・革の靴・ポーチ
レベル:16
体力:45
魔力:68
筋力:17
俊敏力:12
持久力:13
知力:24
器用さ:12
スペル:『フライ』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー』『突進』
風音「レベル上がったよ。ボーナスポイントはレベル16からは2ポイントもらえるので魔力(体力魔力に降るとボーナス1に対して+5)と筋力に振ったんだ」
弓花「うーん、巨大ミミズと戦闘なんて現役女子高生がやるもんじゃないわよね」
風音「うん。巨大ミミズの解体も女子高生のやるもんじゃないよね」




