第百十二話 竜船を探索しよう
竜船とはゼクシアハーツ内でも移動手段として使用されていた空を飛ぶ船である。浮遊には風音たちが最初に入ったシグナ遺跡などで作成した浮遊石を使っており、移動自体はドラゴンの飛空魔法を応用したものを、そして細かい制御については飛竜翼と呼ばれるマッスルクレイを使用した人工の翼を使って行なっている。
動力はダンジョンの心臓球や竜の心臓、チャイルドストーンと同系統の動力石を使用しており、風音の狙いはその予備となる動力石(小)である。これは現在考案中の風音のビッグタツヨシくん計画における最大の難関、動力の確保に適した素材なのだ。
現状ではたとえビッグタツヨシくんを作成しても風音の魔力だけでは長時間の運用はできないし、かといってビッグタツヨシくんに堪えられるだけのチャイルドストーンは持っていない。
なお、実はチャイルドストーンは併用して使えないという問題がある。確かに術者の魔力を生成はするのだが、それは『術者が行使した魔術への魔力供給を代用できる程度』の純度の魔力を生成できるという意味であり、自前の魔力をチャイルドストーンと併用して使うようなことは拒絶反応が起こってしまいできない。例えばタツヨシくんドラグーンはチャイルドストーン起動中に風音の魔力を上乗せはできないので一旦チャイルドストーンから切り替える必要があるのだ。
それを解決するものこそが動力石(小)なのであり、風音が今欲するアイテムであった。
「さてさてー。待っててねえ。動力石ちゅわーん」
そして気持ち悪い方の笑顔を浮かべながら風音はカンカンカンと通路を走っていく。さて、慎重に事を進めるために1人で探索することを決意していたのは誰だったのか。しかし、そんな謙虚な少女はすでに死んでいるのだ。今目の前にいるのは自分の願望を叶えるべく走る暴走機関車だった。
「おっと、この角を曲がった先だったよねえ」
風音はそう言ってタンッと曲がって、そして扉の前に立った。ここは厳重にロックされているエリアだが無限の鍵の前では意味を為さない。風音が何もない空間に無限の鍵を差し、ロックを解除するとガコンガコンと開き始める。
「うーん、雰囲気あるなあ」
周囲を見渡すと、確かに千年の月日を感じさせるように古くなっている。だが明らかに最近手をかけたと思われる箇所も存在していた。それを行なった存在の正体は風音の足下をさきほどからチョロチョロと動き回っている円盤状の物体である。これはイシュタリア大陸に存在していたとされる古代文明の遺産、機械人形の類である。
(無理やり入ったりすると攻撃されるんだよねえ)
だが風音は無限の鍵使用とはいえ、形の上では正規の手続きで入っているため、攻撃は受けない。
「そんでえ、これか」
風音は、動力炉の中心に設置され稼働中の直径1メートルほどの丸い球ではなく、その横に置かれているサッカーボールほどの動力球をひとつ取る。残り4つほど予備はあるので、まあ大丈夫だろうと風音は考え、動力球をアイテムボックスに入れると他のものには触らずにその場を去った。ヒュイーと円盤が風音の横を通り過ぎる。
その後、めぼしいものはないかと風音は客室や倉庫などを探索。武器防具の類は見つからなかったが、予備用で用意されていた人1人浮かせるぐらいの浮遊石をひとつとヒポ丸くん一頭分のマッスルクレイを手に入れた。
そして操縦席などは触らぬように中を覗くだけ見ておいて、風音は元来た道を戻って甲板へと上がっていった。
「あれ、カ、カザネ?」
そして甲板に上がって隠密系スキルを解いたところで、風音はそこにミナカがいたことに気付いた。地上を観ないように精神を集中していたせいで匂いにも気付かなかったらしい。
「ミナカさん?」
風音はそのミナカからムワッと香るものを感じる。
見ればミナカの顔は紅潮し、呼吸は荒く、声は上擦っていた。その服装も乱れに乱れて肩もはだけて肌が露出されており興奮のためか赤く染まっている。その肌からは玉のような汗が出ていて淫靡さを強調していた。
「え、ええとぉ」
風音も顔を赤くしてミナカを見ざるを得ない。女である風音が動揺するほどにミナカから発せられる色香がヤバかった。だが問題だったのはその横にいる女性だ。
「あら、カザネじゃない?」
それはルイーズ・キャンサーその人である。
「ひゃんッ、お姉さま、いきなり離さないで」
ミナカの肩にかけていた手を離して風音に「ハーイ」と手を振るルイーズにミナカが、しなだれかかる。その接触にさえ、ミナカはビクンビクンと動き、身悶えする。その姿がなんとも艶めかしい。どうも全身が激しく敏感になっているようだった。
「ええと、なにしてんの?」
風音はどうして良いのか分からないような顔でルイーズに尋ねる。ミナカが自分の股をルイーズにすり付け始めるが、それをルイーズが「マッサージだけって言ってるでしょう」とバチンとミナカの桃尻を叩く。「ひぐうっ」と桃色の悲鳴が上がった。
「マッサージ?」
風音が疑問を口にする。
「ほら、まだ若い子にイケナイことなんてさせられないでしょう。だから健全にマッサージだけをして悪霊退治をしてあげてるの」
そう言ってルイーズはミナカの肌を揉み上げる。ミナカからは「ひぅっ、ぁ、ああん」と大変淫靡な鳴き声がこぼれるが見た感じでは確かに普通にマッサージをしているだけだ。
「大体ね。武を極めようなんて口にする人間が悪魔の甘言に乗せられちゃうなんてのが甘っちょろいのよ」
「ぁああああ、あん。ごめんなさいお姉さま。私、強くなりたくて。あん、ああん」
おかしい。なんで肩を揉んでるだけであんな顔になるのだろうか。あのロング黒髪で大和撫子を体現したような感じの、あんなにも貞淑そうに見えたミナカが涎を垂らしてアヘ顔をしている。なおピースはしてない。
「ほーらピースピース。カザネに元気ですよーってアピールしないと」
「ふ、ふわい」
この女、ピースさせやがった。
「ええと、結局どういうことなの?」
風音の質問にルイーズは肩をすくめて答える。
「どうもこうも、この子ったら淫魔に憑かれてたらしくてねえ。淫魔と契約して強くなってもたかがしれてるってのにね」
「そんな……こと……うぁ」
「あら、まだ言うの」
ルイーズがぐいっと力を込めるとミナカはまたあえぐ声しか出せなくなる。今揉んでいるのは肩だけなのに何故だろうか。
「そんで淫魔に魂が従属しかかってたから、より強力な快楽を与えて、その意識を私に従属させ直させたのよ。私が悪魔ならもう魂奪えているわ。ほーら、お客さんこってますねえ」
ルイーズがそう言って、今度はミナカの手足を揉み始める。桃色の悲鳴が響き渡った。
「えーと、じゃあ後で結果報告だけ教えてね」
風音の言葉にルイーズはにっこりと頷く。
「ご、ごゆっくり」
「ちょっと、ちょっと待って。これ以上やったら私もう……」
去ろうとする風音にミナカが手を伸ばして声を上げるが、ルイーズが耳元で「止めていいの?」と呟くと、ミナカは惚けたような顔でルイーズを見て、顔を赤らめながら目をつぶってポロポロ涙を流し「やだぁ」と言って首を横に振る。そして観念したように上げていた手をゆっくりと下ろした。
重ねて言うが、行われているのは比喩ではなく普通にマッサージである。念のためにもう一度書いておく。ただのマッサージである。
そして風音はルイーズには決してマッサージは頼むまいと心に決めて馬車に戻っていった。なお、周囲で就寝していた男性たちは響きわたるミナカの声に悶々としてまったく眠れなかったようで、翌朝に目に隈ができてボーっとしているのが何人もいたのを風音は後で目撃した。
◎竜船甲板 朝
「ふぁああー」
風音は早朝訓練の後のジンライに呼び起こされて、甲板前に来ていた。
「ちゃんと起きてないと落ちるぞ」
ジンライが心配そうにそう忠告する。風音は「はーい」と答えて、頬をパシパシと叩いた。
「確か今日の昼にはリザレクトの街に着くんだよね?」
「そうだな。まあ、今お前を起こしたのはここ辺りで面白いものが見れるからだ」
そうジンライが口にする。
「面白いもの?」
風音はそう言って竜船の外を見る。山と平野、それに遠く離れたところには海が見える。ミンシアナ王国領はすでに越えて、二国ほどは過ぎたらしい。
「どっかにデカい遺跡でもあるとか?」
「まあ間違ってはいないが。ほら、あれだ」
ジンライが指を指した先には雲の塊があった。稲光も見える。
「雷雲?」
風音がそう疑問を口にするが、雲の中に何かしらの建物が見えた気がしたので叡智のサークレットを起動して、遠隔視でその場所を見た。するとそこにはいくつかの建物が見える。
「建物があるね。もしかして浮いてるの? 島なの?」
風音はその様子を見て次第にその正体に気づき始めた。あの建物がある島はこの世界でも珍しい浮遊島であった。
「エルスタの浮遊王国と言ってな。まあ王国とは名ばかりなのだが。空を飛べる方法を持つわずかな人間しかたどり着けない、未だ人の手がほとんど及んでおらぬ文字通り秘境と呼ばれる場所だ」
「それは……冒険心をくすぐられる場所だね」
風音の言葉にジンライが頷く。
(私ならいける…か)
そう風音は考える。フライの魔術では届くか微妙だが竜体化ならばパーティ全員を連れて行けるだろう。
「あれにたどり着くのが幼い頃よりのワシの夢でな」
ジンライは遠い目をしてそう口にする。ジンライの故郷は、このハイヴァーンの領内のエルスタの浮遊王国の見える地方だった。子供の頃からずっと浮遊王国を眺めていつかは……とジンライも考えていたのである。
実際それが竜騎士になる動機の人間も多いのだが、竜騎士は国家管理の職業であり、好き勝手に竜を使うことは許されない。故にあの場所にたどり着くにはフリーの竜使いに頼むなどの狭き道となる。だが、周辺にいる飛空系の魔物のレベルは高く、浮遊王国内の魔物も総じて強い。なかなかに挑める者のいない場所なのだ。
「そっか、じゃあ帰りによってみようか」
「頼めるのか?」
そう言うジンライの顔が期待に満ちあふれていた。そこまで期待されてはいかないわけにもいかんだろうと風音は頷いた。
(うーん。けど、あれって多分鳥人族の浮遊島だよねぇ)
背に翼を持つ鳥人族が生み出した浮遊島。ゼクシアハーツの時点ですでにほとんどの鳥人族は死に絶え、残された鳥人たちがわずかに暮らす場所だったはずだ。位置はもっと北だったと記憶しているが、この千年で場所を移動しているのかもしれない。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:29
体力:101
魔力:170+420
筋力:49+10
俊敏力:40+4
持久力:29
知力:55
器用さ:33
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv2』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv2』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『背後の気配』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』
弓花「マッサージ?」
風音「イエーッス、マッサージ!!」




