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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
まのわアフター

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夢落之章 弓花地獄変

※2017 エイプリルフール企画

「そして、少女の冒険はまだまだ続くのであった」


 そう言って私は本を閉じる。

 目の前には、私の話を聞いて目を輝かせている孫娘のユーミがいて、私の言葉に続いて「続くのであった」と繰り返していた。それからユーミは私の手元にある『まのわ』と書かれた本へと視線を向けながら、私に尋ねる。


「ねえ、お婆ちゃん。それで、それでまのわちゃんはどうなったの? 結局勇者にはならなかったの?」

「そうねえ。続きのお話には書いてあるんだけどね。最終的には、名誉勇者っていう実質的に勇者と変わらない称号をもらえたのよ。後でこっそりとだけど」


 そう言って私が笑うと、孫娘も一緒に笑う。


「まのわちゃんはいつもそんなのだよねえ」

「そうね。人生はままならないものなの」


 私は過去を懐かしみながら、そう言って微笑んだ。そう、ままならないのだ。あのときはみんなでミンシアナ王国を脱出したものの、結局は温泉街に残っていた三号が半神霊化して色々と問題になったし、ゆっこ姉に担がれた勇者ジローが私たちを追いかけてきて予想外の奮闘をしてきたり、天使教とムータンの暴走を止めるために動いたりと、本当に色んなことがあった。

 そのことをひとつひとつ思い出しながら私はつい物思いにふけってしまったが、ユーミは気付かずに、目を輝かせながら続きを尋ねてくる。


「ねえねえ。お婆ちゃん。それで、どうなったの? そこからまのわちゃんはまたどんなことをしちゃったの? やらかしたの?」

「そうねえ。色々とやらかしたわよ。何しろそこからもっともっと旅をしていって、いっぱい笑って、ときどき泣いて、それでもあの子はずっと元気だったし、今もどこかで冒険の日々を送っているはずじゃあないかしらね」


 そう言って私はユーミの頭を撫でた。

 私はもう引退してしまったけれど、あの子は今も確かに冒険を続けているのだ。メールも毎日のように届いているし、あの頃と変わらぬあの子のままで私とやり取りをしている。


「じゃあ、そのお話聞かせてよユミカお婆ちゃん」

「そうね。ふふ、けれどもそれは明日にしましょう。今日はもう遅いから、これ以上はエリザに叱られてしまうわ」

「駄目だよユミカお婆ちゃん。ちゃんと現実を直視しないと」

「え?」


 突如として天使のような孫が私の手を取って、力任せに本をめくらせようとしてきたのだ。これはどういうことだろう?


「何をするのユーミ。もう寝る時間でしょう。続きは明日よ」

「駄目だよ。ほらほら、お婆ちゃん。私もっとお話読むの。ほら、これなんて面白そう」

「え?」


 驚く私の前でユーミがページをめくると、そこには私が書いたことのないはずの私の物語が書かれている。それは敢えて省いていたはずの、忘れようとしていた物語だ。


「ほら、見てよお婆ちゃん。お婆ちゃんはさ。勇二くんと付き合ったときが女としてピークだったんだよね。迫られたってことは女の子として見られてたってことなんだから。大人の階段登っちゃえば良かったかなーって、ずっと思ってたよね。具体的に言うと三十代ぐらいからお酒飲んでる時の愚痴のレパートリーになってたよね」

「待ちなさいユーミ。どうしてそのことを知っているの?」


 焦り始めたあの頃のことはもう思い出したくない。でも、なんでそんなことが書かれているのかも分からない。


「次を読んでみなよお婆ちゃん。直樹くんとの破局の状況がすっごくよく書かれているよ。原因はまのわちゃんのパンツなんだよね? まのわちゃんの」

「止めて。パンツのことなんて知らないわ。ユーミ、お婆ちゃんを苦しめないで。あんな悪夢はもう思い出したくないの」


 黒歴史を開かないで。もう止めてユーミ!?


「駄目だよ。こっちに来てからも散々だったよね。スバルくんとツバサくんがいてくれたら良かったのに。でも、ムータンのメンバーがお食事ですと言って簀巻きにした美少年を運んできたときには少しだけ魔が差したよね。いっそ食っちゃえばいいんじゃないかって思ったよね」

「勘違いよ。あれは違うの。ちょっとだけ、ちょっとだけ、魔が差しただけなの。でも手は出さなかったのよ。本当よ。写真に撮ったけど、ヤバイと思ってすぐに燃やしたわ」

「ドン引きだよユミカお婆ちゃん」

「ごめんなさい。こんなお婆ちゃんでごめんなさい」


 孫にこんなことを知られるなんて、師匠。助けて師匠。


『土下座れ。土下座るのだ弓花よ』


 ああ、師匠。それは良い考えです。さすがです。泣いていいですか?


「うーん、じゃあ生々しいの嫌だから、次のこれはどうかな? ほらユミカお婆ちゃんが三十代のときに企画した第二十八回目のアイドルプロジェクト。三十代でももう一度頑張りたいって言ったときにはまのわちゃんもビックリしたよね。まのわちゃんの絶句した顔ってレアだもんね。なのに、若くないんだからもうやめなよって言われたのに頑張っちゃっ……」

「止めて。三十代はまだ若い。そう思っていた頃がありました。違うの。止めて。ああ、なんでこんなものが。全部没カットしたはずなのに。編集さんにマジ切れして外したのに……なんで、ここにあるのよ!」


 私がうろたえている間にも、ユーミが次々と本を広げていく。なんでだろう。どれもこれも見覚えがある。

 うん。ムータンは大きくなったよね。ええ、脅して平和になるなら、まあそれはそれでなんて思ったこともあったわ。けど……違うの。そうじゃないのよ。


「ユーミ。お婆ちゃんは、それでも一生懸命やってきたの」

「でもお婆ちゃんはボウリョクでシハイして、キョウフでヒトをシタガわせてるんでしょう?」

「ユーミ、もう止めて!?」


 確かに結果的にはそうなっていることが多かったけど、そうじゃないのよ。私はいつだって歌って踊れてみんなに希望を振りまいて、イケメンをゲットしたかった。でも、世間はいつだって私に厳しかった。私は悪くない。私の理想を実現するには人類はまだ幼すぎただけなのよ。だからユーミ、そんなことを言わないで。


「ん? ユーミって、誰のことかな?」

「ゆ、ユーミ?」


 唐突な冷たい言葉と共に、ベリベリとユーミの顔が剥がれていく。

 違う。これはユーミじゃない。それに中から出てきたのは……私?


「ふふふふふ。ユーミ? 孫? 結婚? 幸せな老後? 残念、私でした」

「夢、幻……まさか、すべては」


 理想的な結婚。理想的な旦那さま。理想的な老後。そんなものが本当に私にあるとでも? そうだ。すべて『理解した』。


「そうか。これは妄想……」

「そう。真実に辿り着いたわね弓花()。三十代はお肌の曲がり角。結婚など幻想。幸せな家庭などハリボテ。旦那は外で浮気をしている。だから悔しくない。リア充は死ね。死ねばいい。世界中のカップルが爆発して死ねばいいのに。そんな嘘で塗り固められた虚構をあなたは求めようとしていたのよ」


 そうだ。何もかもが分かった。私はすべてを知った。否、知っていたのだ。最初から。この世界は、あの結末は、すべては……


「ああ、すべては我が戯言ざれごとなり!」




  **********




「はっ、夢?」


 唐突に意識が覚醒した。

 何か恐ろしい夢を見ていたような気がする。幸せという堕落の麻薬が支配した世界にズッポリと浸かっていたような……なんとも恐ろしい夢だった。


「あれ、弓花。目が覚めたの?」

「風音か。そうね、私少し怖い夢見てて」


 ああ、いつも通りそばには風音がいた。なるほど、やはり先ほどのは夢。まったく疲れているのね、私は。


「もう歳なんだから、無理しちゃ駄目だよ」

「は? 年?」


 その風音の言葉に私は素になって言葉を返したけど……そうなんだ。私ババアだったんだ。もう、そんな年だった。そして思い出してきた。私には孫なんていない。結婚もしてない。私を全肯定して、私を全部愛してくれる旦那さまなんていなかった。そうだった。いい人なんで存在しない。あと風音が若いままなのは理不尽だ。まあ、私も種族が変わって若い頃が長かったけどね。

 けど、そうか。そんな夢を見ていたんだ。あれ、涙が……


ばぶーばぶばぶー(大丈夫か弓花?)

「あ、いえ師匠。なぜ赤ちゃんに……いいえ、そうでしたね。ミルク、飲みます?」

ばぶー(後で頼む)


 師匠はそう言って、キリッとした顔をした。赤さんでもかっこいいです、師匠。けど、もういい加減にしてください。なんでまた若返ったんですか。


「ハァ、ジンライさんも仕方ないよね。だから止めてとけって言ったのに。宇宙食用の濃縮デラックスビスケットは遊びじゃないんだよ。うまみ成分が通常の2万倍、体感で30万倍は感じちゃう麻薬に等しいものなんだよ。ていうか死ぬよね、普通?」

ばぶー(美味かった!)

「満足げな顔しない。美味しいだけで若返っちゃうジンライさんにはまだ早過ぎたんだよ」


 宇宙? ああ、それも思い出した。

 ここがどこか、それは月面実験都市だ。サンダーチャリオットシャトルに乗って私たちは宇宙に出てここまでやってきた。なぜなら私たちの地球はもうひとつの地球によって消滅しようとしていたからだ。

 それは大破壊の前に造られた旧文明の遺産。地球が破壊されたときのバックアップとして造られていたセカンドアース計画の要である星産みの機械種を倒すために。


ばぶぶ(ふふふ)ばぶぶばー(古の地球で生まれた)ばーぶーぶぶー(機械種なる怪物)ばぶばぶばぶ(それと戦えるとは)ばぶぶぶぶー(腕がなるわい)ばぶっぶぶふー(のぉ、シップーよ)

「なー」


 師匠がメカジンライマークトリプルXに乗ってそう言うと、今や老猫となったシップーも頷いた。その貫禄は老師といった感じだ。ある意味、師匠よりも師匠っぽい。


『やれやれ。僕はずっと眠っていたかったんだけどね。よりによって、あの子の身内相手に起こされるとは』

『さて、8000年ぶりの目覚め。久々に騒がしくて何よりです』


 それに、この月で仲間になった猫型ロボットのミケと治療ロボットのミランダも今は一緒にいる。道中での出会いと別れ。発見の喜び。それこそが冒険者の本懐。ああ、そうだ。結婚なんて夢だ。結婚なんて人生の墓場。そんなものを私は求めていない。齢百三十を超えてなお槍に生きる。そう、私はね!


「あ、来たよ、弓花。いつものやっちゃってよ!」

「任せなさい!」


 そして私は咆哮しながら巨大な狼となって、この先からやってくる機械の化け物へと立ち向かっていく。旅は続いていく。風音と共に地球を越え、月を超え、やがて宇宙最強となる私の物語は続いていく。私たちの女坂はまだ登り始めたばかりなのだ!



まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~


ネバーエンド!

「ていう、夢を見たのよ」

「夢かぁ」

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