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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
まのわアフター

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アフターデイズ編 風音さんと愉快な仲間たち1

◎東京都 由比浜邸 玄関


「ハンカチ持った?」

「オッケー」

「ティッシュは?」

「バッチグー」

「バナナは」

「おやつに入りません」

「「うえーい」」


 東京の一角に建っている由比浜邸の玄関で、ふたりのチンチクリンがパーンと手を叩き合う光景があった。

 それは直樹がその場にいれば悶絶しかねないものであったが、幸いなことに愚弟はその場には居らず、悶絶していたのは風音の父、直久ひとりであった。

 息絶え絶えに「可愛い。娘、可愛い」などとのたまわっている辺りはさすが直樹の父親といったご貫禄。息子との関係が年々殺伐としたものになっていくのも、ある意味では必然であると言えた。

 なおこの場には風音1号、2号と風音の両親、それに少し前に無事出産された風音の妹の渚以外に弓花とゆっこ姉がいた。そしてここにいるゆっこ姉は四十代に突入したオバさんの姿ではなく、弓花たちが異世界に来る前とほとんど変わらぬ二十才前後の姿であった。そのゆっこ姉を弓花はジト目で見ながら口を開く。


「いや、それにしてもゆっこ姉。若々しいのはいいんだけど……いつからこっちで普通に暮らしてたのよ? 私、まったく聞いてなかったんだけど」


 弓花はここに来るまでゆっこ姉が来るということを知らされていなかった。その上にこちらの世界で暮らしていると聞かされたので、頭の中が?でいっぱいになってもいた。


「一度こちらに戻って、達良ちゃんからこっちの私の魂をもらってからあっちで訓練して……大体三ヶ月前くらいに分離ができてね。今はこっちでも暮らしているのよ。女王と普通の女の子の二重生活というわけね。落ち着いたらと思っていたんだけど、まあこうして伝えるまでに結構経っちゃったわね。ごめんなさい弓花」

「いや、いいけどさ。その身体は召喚体ってわけか。器用な真似するわねゆっこ姉」


 弓花が感心した顔でゆっこ姉を見る。制御力の高さから並みの魔術師でも気付けぬレベルではあるが、弓花はゆっこ姉の身から出ている微弱な炎属性の魔力を感知していた。


「思ったよりも上手くできたしね。この姿もこっちの年齢に合わせて変えているし、大学に入り直してお勉強をやり直すことにしたのよ。今はその準備というところ」

「なるほどねえ。にしても風音にゆっこ姉とポンポン増えていくわよね。まさか直樹も増えてたりしないわよね?」

「あの子も分裂してどっちの姉にも付いていきたいとか言い出しそうだけど、さすがに増えてはいないわよ。でも弓花、それを言ったらあなたの師匠も増えているじゃない。ロボットヴァージョンにオールドヴァージョンでしょ。私たちだけみたいに言うのは心外だわ」


 そのゆっこ姉の返しには弓花も「ウッ!?」となったが、少し考えてから「し、師匠は特別だし」と答えた。師匠は特別枠。それは弓花の中での確定事項だ。


「まあ弓花も精霊族になれば分裂できるんじゃないかしら。アストラル体の種族なら魂がふたつあれば難しいことではないわよ」

「いや……ゆっこ姉。そのハードルは高すぎるから。まず種族変更とか普通無理だし」


 そう返した弓花も実のところ仙族というエルフの一種ではあるのだがそれは人の範疇であり、もはや人の域にはない精霊族とはさすがに違う。ともあれ、続くゆっこ姉の説明によれば、召喚体のベースは眷属精霊である『紅蓮のクリムゾン戦乙女ヴァルキュリア』で、そこに己の魂の片方を入れて第二の自分としたとのことであった。

 つまりゆっこ姉は自らの魂をスキル化して、召喚体として自身を生み出している風音と同じことを自力で行い、あちらの世界で女王をしている自分とこちらで大学に復学しようとしている自分のふたりを同時に存在させているのである。

 また、そんなやり取りをしている弓花たちの前で、琴音は風音の片方へと見て眉をひそめていた。


「それで風音。こっちの風音と違って、あなたは本当に一緒に行かなくていいの? ずっと家の中にいるよりもいいと思うんだけれど」

「いや、そっちの私が行けば問題ないし。いってらー」


 風音2号がそう言って手をブンブンと振っている。その姿からは今すぐにでも己の自室に戻りたいオーラが湧き上がっていた。一方で、すでに靴も履いて出かける気満々の風音1号が「まあまあ、お母さん」と口にしている。


「あっちの私とは後で記憶を統合するし、あっちはあっちでオールナイトサンタ狩りがあるから忙しいんだよ。クリスマスまでにどれだけサンタさんの首塚を積み上げられるかが勝負なんだから!」


 そう言いながらグッと拳を握る風音1号とうんうんと頷いている風音2号に、琴音は「そ、そうなの」と言いながらなんともいえない顔をする。

 琴音は当然知らぬことだが、風音2号が遊んでいるオルブラ(オールドブラッド・キルゼムオール)は只今、サンタクロゥスオーガ、ケイオスサンタドラゴン、ケルサンタベロス、サンタノカッコウヲシタオジサンなどを狩って、その首を集めてレアアイテムをゲットするクリスマスイベントの真っ最中なのである。


「ハァ。まったく、年頃の娘はよく分からないわね」


 その琴音の言葉には、弓花もゆっこ姉も(それは年頃の娘だからではないけど)と思ったが、あえて口にはしなかった。口にしたところで解決する話ではないのだ。それから風音1号が琴音の後ろに回って、グッグッと背中を押し始めた。


「ほらほら、お母さんもそっちの私のことは気にせずさっさと行くよ。あっちでみんな待ってるんだし、待たせたままじゃあ悪いよ」


 その風音の言葉に琴音も「そうねえ」と渋々頷くと、渚を抱き抱えながら風音と共に長距離転移装置ポータルのある庭先へと向かい、そこに弓花にゆっこ姉、直久が続いていき、風音2号が見送る前で転移の光と共に消えていった。


「ふぅ、行った行った。そんじゃあ私は続きしよっと」


 そして、それを見届けた風音2号はすぐさま踵を返し、ゲームを再開するために自室へと戻って行った。クリスマスを迎える前にどれだけの首を積み上げられるかが勝負の分かれ目なのだ。

 一方で由比浜邸より転移した風音1号たちが向かった先は以前に税金対策で購入した島のひとつ、第八カザーネサマー島であった。そこは今や冬真っ只中な日本と違い、一年中暖かい南の島で、そこには先に到着した多くの仲間が風音たちの到着を待っていたのである。

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