表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
まのわアフター

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1113/1136

アフターデイズ編 新人教育3

◎旧ダインス王国領 エンデーアの街近隣の丘


「ふむ。アイツとアレ、それにあのデカイのもそうであろうな」


 ジンライがそう口にしながら、街の地図にメモをつけていく。

 そのジンライの左右にはライノクスとシップーがいて、背後の少し離れた場所には旧ダインス王国軍の軍勢や、ミンシアナ、ツヴァーラ両王国から助力として派遣された王国軍、さらには周辺の冒険者ギルドに呼びかけて雇った冒険者たちがいる。彼らは共にエンデーアの街のすぐそばにある丘に待機していた。そして、それらがダインス天使騎士団の団長であるモーリアが指揮するエンデーア解放軍であり、これより奪還作戦を開始しようという間際が今であった。


「召喚鳥の斥候の情報は確かではあるのだろうが、やはりこういうのは慣れておらんと分からんことも多いからな。ふむ、これは待機しているのではなく、幼体の世話であろうよ」


 すでに突撃の準備を終えた軍隊の前で、ジンライは風音に用意してもらった自分用のコマンドゴーグルのズーム機能を使って内部の状況を解析していた。

 フューチャーズウォーというゲームのアイテムを現実化したゴーグルに映し出された映像には、各種センサーにより建物内部の状況がある程度は識別できるように調整されている。さらにジンライはそこに己の知識と勘を加えることでより正確に内部の状況を調べることが可能であった。


「アレは抑えて一本化させるか」

「ジンライ殿、どうでしょう?」


 未だひとり唸っているジンライへと近付いてきたモーリアが少しだけ焦れた顔で尋ねてきた。

 これはモーリア自身が夢にまで見た祖国奪還の第一歩だ。またランクSS冒険者である猫騎士ジンライの名は知れ渡ってはいるが、実際にその実力を体感していない者たちにとっては、たったひとりの準備のために待たされていることに苛立ちを覚えている者も少なくはない。軍隊ふたつ分の実力という、曖昧な説明では納得しろというのも無理な話なのだ。

 ともあれ、ジンライは特に気にした風もなく、己のメモを付け加えた地図をモーリアに手渡して口を開く。


「そちらの斥候鳥の調べと違う点を記述しておいた。それと現場指揮らしき魔物も何体か確認したのでな。それらを先に潰して指揮系統を単純化させ、ヤツらの動きを読みやすくすれば良かろう。出陣の準備は整っておるようだな?」

「はあ、これは……なるほど。準備というと今はジンライ殿を待っている状態ですが……ん、先に潰すですか?」


 地図に書かれた注意点に感心しつつも、モーリアはジンライに対して首を傾げた。

 戦いはこれよりすぐに開始される予定だが、その前に先に出向いて潰すつもりなのだろうか……と疑問に思ったモーリアの問いには応えず、ジンライは己の愛猫シップーへと手を伸ばした。


「相手は蜘蛛系統のアラクネワイヤード。以前に対峙した相手だ。あのとき倒したのはカザネだがな。建物の奥におるのまでは確実に仕留め切れるかは微妙だが、潰せれば良い程度に考えておくか。シップーやるぞ」

「なー」


 ジンライの言葉に鳴いて返したシップーの背に装着されていた義手改めて巨猫用砲台と化したシンディが変形して、その場で三つの砲台が出現した。

 それをそばで見ていたライノクスが「いいなあ」という顔で眺め、先ほどのジンライの言葉の意味を察したモーリアも「おお」と声を上げた。


「以前よりも砲が増えてますな。これで先制攻撃をということですか?」


 モーリアの問いに、ジンライがニヤリと笑う。


「ああ。これはカザネに頼んで強化してもらったものでな。三連続で撃てる。つまり火力が三倍になったということだな。じゃあ始めるぞ」


 そうジンライが声を上げると、ジンライの内から赤黒いアストラル体の腕が伸び、さらにはジンライ自身の両腕のアストラル体も体内から出現していく。ジンライは以前からさらに修行を積み、霊体化させた三つすべての腕を雷神砲レールガンへと接続することが可能となっていた。なお「俺も撃ちたいなあ」とブツブツいうライノクスは弾詰めをしている。


「モーリア総団長。予定の時間は過ぎておりますが、如何いたしましょ……うか?」


 その合間にモーリアの戻りを待っていた副官のラオンが近付いてきたが、モーリアは少しだけ冷や汗をかきながらラオンへと視線を向けて口を開いた。


「あ、ああ。ラオン、これより盛大に先制攻撃を行う。我らはそれに併せて出陣だ。ジンライ殿もそれでよろしいな?」

「ああ、建物の多少の被害は大目に見よ」


 その言葉の後にその場で雷鳴の如き轟音がみっつ響き渡り、兵たちの間でも悲鳴のような声が発せられた。それから少しだけ遅れて街の中でみっつの大爆発が起きたのが丘から確認が取れると、ライノクスが怪訝な顔をしてジンライを見た。


「おいジンライ、多少か、アレ?」

「強力なのをと思って爆炎球入りのヤツを持ってきたのだが、カザネの試作品であったからな。まあ、余計に倒せておるようだしよかろう。ワハハハハハ」


 そう言ってジンライが高笑いしながらさらに撃ち始めると、放心状態であったモーリアがようやく正気を取り戻して全軍に声をかけ、及び腰のままのエンデーア解放軍による奪還作戦が開始されたのであった。



◎エンデーアの街 旧地下貯水場


 そして、エンデーア奪還軍が進行を開始したのと同時刻、地下にまで響き渡った轟音と震動を感じながらソレは己が根城に篭っていた。

 巨大な蜘蛛の身体に、頭部に位置する場所に人間の女性らしき上半身をつけた魔物アラクネワイヤード。糸を通じて子供達であるマッドスパイダーたちが騒いでいる。巣の管理を任せているマドネススパイダーが一瞬で殺されたのだと訴えている。ここへと多くの人間たちが迫っているのも彼女は理解していた。

 明らかに状況は危険だ。かつての巣を闇の森の魔物たちに蹂躙され、ここまで逃げ延び、他の魔物を退けて、ようやくこの街を安住の地としたのがアラクネワイヤードだった。

 それ故にエンデーアの街(己の巣)に対しての執着を当然アラクネワイヤードは持っていたが、それ以上の脅威が近付いてくる気配も彼女は察していた。

 逃げろと本能が訴えているのだ。そして闇の森から逃げ延びた己の感覚をアラクネワイヤードは信じていた。だからすぐさま撤退の準備を図ろうとして……


「良し。ワシが雑魚を片付ける。今回は譲ってやろう」

「上から目線が気に入らないが、新人とはそういうのも飲み込まねばならんらしいからな。引き受けた」

「なー」


 彼女の想像以上の化け物の存在が、逃げるという選択肢をも排除する。

 声は頭上から響いていた。この貯水場は地面より下にあり、つまり声の主は地上からの侵入者であった。もっとも敵がここにまで到着する時間があまりにも速かった。先の爆発音から、人間の集団が動き出してからまだそう経っていないというのに、彼らはもうアラクネワイヤードの元へと辿り着いていた。

 アラクネワイヤードは当然知らぬことだが、彼女の巣を襲っている人間たちは街の構造など元から把握していたし、空を駆ける猫を飛行能力のない彼女の子供たちが捉えることができず、空から最短で彼らはこの場まで辿り着いていたのである。


「ワシが撃った後に混成軍が正面から、漏れを冒険者たちが、ワシらは突撃して頭を叩く。ふむ。完璧な作戦だな」

「建物を壊し過ぎたのは大丈夫なのか? モーリアの顔が少し青ざめていたようだったが」

「闘いに犠牲は付き物だ。その犠牲が命でなかったのだから僥倖であろうよ」

「そうか。まあいいが、とりあえずは決めた通りにヤツは俺がもらうぞ」

「ああ、ワシが周囲を押さえておくさ。たまには手柄を新人に譲るのも先輩の務めだからな」


 そんなことを呑気に話しながら人間ふたりと巨大な猫はアラクネワイヤードを護るマッドスパイダーたちを蹴散らして近付いていく。


 ギュレァアアアアアアアア


 アラクネワイヤードが彼らに吠えた。だがその威嚇の叫びも彼らには届かない。

 アラクネワイヤードは焦っていた。

 近付いてくる人間たちはどちらも美味そうだが、同時に脅威を感じる。また巨猫の方も己と同等以上の圧力があった。であれば、あの巨猫がボスかともアラクネワイヤードは考えたが、ここまで接近された以上は、もはや彼女に残された選択肢は戦うことだけだ。

 そして一斉にアラクネワイヤードの子供であるマッドスパイダーたちが、迫る人間たちへと飛びかかり、彼女の護衛であるマドネススパイダーも一緒に戦闘に参加していく。護りに転じて殺されるという予感がアラクネワイヤードにはあった。


「では、任せたぞ」

「任された」


 人間のひとりが真正面から突撃してくる。

 彼女の子供たちから一斉に蜘蛛の糸が吐き出されて人間へと降り注いだが、人間の持つ槍からは雷と炎が飛び出し、迫る糸をすべて燃やし尽くしていく。


 アレは危険だ。


 アラクネワイヤードはそう理解し、己も糸のカッターを放った。己の子ごと斬り裂くように放った一撃であったが、真っ二つになったのはマッドスパイダーのみで、人間はその場で炎となってかき消えた。

 その次の瞬間に、アラクネワイヤードの足が一本宙を舞う。

 いつの間にやら接近していた人間によって切り飛ばされたのだ。咄嗟の判断で足を前に出して盾にしたことで致命傷は避けられたが、気付かなければ頭を貫かれて死んでいたはずだった。


「チッ、勘のいいやつ」


 人間が何かを口にしながら再度攻撃を仕掛けてくる。

 槍を振るいながら己の炎の分身を出現させていく相手に対してアラクネワイヤードは驚愕しながら残りの足で攻撃を行うが、彼女の攻撃はかすりもしない。足の爪が貫いたのはすべて槍が生み出す炎の残像だった。もう通り過ぎた後に残された残像なのだから当たるはずもなかった。


「便利ではあるんだがなあ、この槍」


 また人間が何かを口にしながら攻撃を続け、アラクネワイヤードの足を斬り飛ばしていく。さらには巨猫ともうひとりの人間も凄まじい速さでアラクネワイヤードの子たちを殲滅していた。もはや怒りは起きず、アラクネワイヤードの中にあるのはただ恐怖のみ。

 故に必死に反撃をするが、力の差は如何ともし難く、そして次の瞬間には……


「風神槍!」


 人間の放った炎と雷を纏った竜巻の槍によってアラクネワイヤードはコアを抉られ、絶命してその場に崩れ落ちたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ