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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
まのわアフター

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アフターデイズ編 幼竜と少女の未来地図

※後日談開始!

『ふむ、トウキョウか。カザネの故郷だ。さぞ賑やかな都なのだろうな』

『はい、父上。人がまるで波のように流れている街です。サンダーチャリオットのような馬なしの馬車が街を蹂躙し、四角いお城が所狭しと並べられ、何より魔物もいません。でも犬と猫と鳥はおりました。ユッコネエ、クロマルやポッポさんとは違い、愛想は良くないようですね』

『ふむ。普通のそれらは我らを畏れるからな。仕方あるまい』


 ナーガの言葉にタツオがくわーっと悲しそうに鳴いた。

 本日は、大竜御殿の神竜帝の間において久々にタツオとナーガの父子水入らずの対面である。先日には風音もいたのだが、現在は北大陸横断の旅に戻っていた。タツオもまた後で合流する予定ではあるが、ともあれ一週間は大竜御殿に滞在することとなっていたのである。


『それだけタツオの竜気が大きくなっているということでもある。悲観する必要はないぞ。竜族にとって力とは価値なのだ。弱きものを従え、強きものも従え、すべてに君臨することこそが我らが覇道。そなたはその道をしかと歩み続けているのだ』


 ナーガの言葉にタツオが感銘を受け、くわーっと歓喜の声を上げる。

 あまり会わない父親に褒められることはタツオにとっては母親に褒められるのと同じくらいに嬉しいものであった。

 また風音より第六天魔王の血珠と呼ばれるコアを埋め込まれてからナーガは以前よりも若く、よりワイルドに、威圧感を増してきている。それはタツオに言わせればカッコ良いというものであり、なおさらそんな父親に褒められたのだからタツオは嬉しくてくわーくわーっと鳴かざるを得なかった。

 それからタツオはそんな父を見上げてから、くわーっと鳴きながら自分を見た。


『けれども覇道を歩む身として、父上はこう大きく偉大だというのに、私はちっとも変わっておりません。背もほとんど伸びておりませんし』


 タツオの言葉にナーガが『ふむ』と口にして息子を見た。

 タツオももう生まれてから2年近が経っている。幼竜とはいえ、人の頭に乗れるサイズのままというのは確かに普通ではない。もっとも体躯以外は外見も中身も確かに大きく成長しているのだ。デミクリスタルドラゴンというゴーレムを操り、水晶角には神気をも宿し、幼竜でありながら成竜を超えた神竜と呼ばれる存在に到達しているのが今のタツオだ。

 並のドラゴン相手であれば現時点でも単独で打ち倒すことすらも可能であろうタツオは竜族の中でも突出した存在であり、己を超えるにふさわしい存在でなろうとナーガは贔屓目ではなく考えている。


『まあ、そなたの成長についてはまだしばし様子を見るのがよかろう。我ら竜族の成長には個体差があり、成長速度もそれぞれだ。それに旅に支障があるわけではないのだろう?』

『はい、父上。それについてはむしろ助かっています』


 タツオが頷く。それこそ父親ほどの体躯になってしまえば、風音と共に気軽に旅するのは難しくなる。街の中を今のように一緒に回ることなど不可能であろう。

 そして、ドラゴンとは環境に合わせて成長する種族でもあるのだ。火山にあれば火竜に、海の中にあれば水竜に、寒さと共にあるために氷竜と化す。であればタツオは……


『それもまた、成長のひとつか。そして我もまだその過程ではあるのだろうな』


 ナーガがぼそりと口にする。

 ナーガの脳裏に浮かび上がったのはあのアヴァドンとの最終決戦のときのことだ。風音と融合し一刻いっときではあるが龍神となった経験は、ナーガにとってあまりにも眩いものだった。あの姿こそが己の目指す未来であろうと思えるほどに、鮮烈な体験であった。


『大丈夫だ。そなたも、そして我も辿り着く道に向かって進んではおるはずだ。我が妃は、我らをどこまでも導いてくれるのだからな』

『母上ですか? 母上は凄いですからね!』


 タツオは言葉の意味は分からなかったようだが、ナーガに同意してくわーっと鳴いた。


『ああ、そうだな。アレは大した妃であろう』


 そう言って、ナーガが爪の先でタツオを撫でるとタツオがくわーっと鳴いた。

 息子を撫でながら、ナーガはすでに決めていた。いずれは己自身の力であの龍神の姿に至ろうと。そのための道筋はすでに定めてもいる。しかし、今はまだそのときではないのだ。

 目の前の小さき我が子を見守り、いずれ神竜帝を継ぐに相応しい存在となったときこそが……そう考えながら、ナーガは同時にこの場に近づく小さき人の気配にも気付いていた。


『タツオよ。どうやら、そなたの友人が来たようだぞ』

『おや、レームですね。作業は済んだのですか?』


 ナーガの声を聞いたタツオが後ろを振り向くと、そこにはレームが「よお」と手を上げて立っていた。


「タツオのオヤジさんもどうも。いやー、スザさんが張り切ってさ。ゴレムスキャノンの改修が早く終わったんだけど……まだ話してるんなら、後でもいいんだぜ?」

『いえ。私も楽しみだったのです。父上、それではまた後で戻ってきますので』

『ああ、そのときにはスザが手を加えたあの人形のことも教えておくれ』


 ナーガの言葉にタツオが頷き、そしてふたりがその場を去っていくのをナーガは眩そうに眺めていた。


(或いは、タツオ自身が望んでおるのやもしれんなぁ)


 レームの頭の上に乗っているタツオの嬉しそうな顔を見て、ナーガはそう感じざるを得なかった。

 ドラゴンとは環境に合わせて成長する種族でもあるのだ。火山にあれば火竜に、海の中にあれば水竜に、寒さと共にあるために氷竜と化す。であればタツオは、もしかすると今の自分を望んでいるのかもしれない……とナーガは考えていた。


『まあ、それはそれで今は良いのかもしれんな。それがあの子の望みであれば……しばらくは見守り続けるのも親の役割ではあるか』


 そうひとり頷いて、ナーガはその場にゆっくりと身を沈めた。

 タツオにしても、ナーガ自身にしても、未来は未だ不透明で、しかし希望に満ちていた。慌てる必要はないのだ。ドラゴンという種族の寿命はとても長いのだから。




  **********




「しっかし、あいかわらずお前のオヤジさん、おっかないなぁ」

『当然です。それが強者です。父上なのです。けれど、多分レームは母上の次に父上に物怖じしていないと思いますけどね』


 タツオがくわーっと鳴いた。

 実のところ、このタツオの友人であるレームは何故かナーガの受けが良かった。

 ナーガにしてみればタツオの友人というだけで人界の王などよりもはるかに得難い存在であるのだから当然で、要するにただの親バカなのだが、それは周囲にはとても分かり辛いことであった。

 ちなみに今回、レームが大竜御殿に留まっているのはゴレムスキャノンの改修をスザにお願いしていたためだ。新世界で複座型に改修されたゴレムスキャノンはフューチャーズウォーの兵器を無数に装着させて重装化されている反面、魔術的な攻守が弱い面もあった。故に今回、ロクテンくん制作の実績もあるスザを頼り、レームはタツオと共にこの東の竜の里ゼーガンに残っていたのである。


「強いと言っても、お前のオヤジさんだぜ。コエーだけじゃねえのは分かってるから、不必要にビビったりはしねえよ。にしてもさ。私の頭に乗ってるお前もいずれああなるのかね?」

『なります。父上のような偉大なドラゴンになることこそが私の望みです』


 タツオがレームの頭の上でぐっと拳を握り、そう宣言する。その瞳は燃えていた。


「ま、お前は頑張ってるからな。いずれは辿り着けるさ。けど、あれぐらいになったときか。そうだな。そうなった頃には私は生きてはいないだろうなぁ」

『おや、生きていませんかね?』


 タツオがくわーっと鳴いて、首を傾げる。その言葉にレームが「そりゃあ、そうだろ?」と返す。


「だってお前の親父は千年以上は生きてるって話だぜ?」


 その言葉にくわーと鳴いてタツオが頷く。神竜帝ナーガは、千年前の大戦期の時点で竜たちの長としてあった。実際には千年どころか、もっと長くを生きた数少ない古竜のひとりだ。


「だったらよ。辿り着くんなら……きっと同じくらいの時間が必要なんじゃないか? お前が目指すのはそういうところなんだろ」

『ぬぬ、確かにそうかもしれません。ということは、私が立派なドラゴンになる頃にはまさか母上も!?』

「あーいや、どうだろうな。カザネは……なんか生きてそうだけどな」

『そうですね。母上ですから』


 タツオがくわーっと鳴いて頷いた。レームもタツオを悲しませないために……と思って口にした言葉であったが、口にしながら普通に生きていそうな気がしてきていた。


『ですが、そこにレームがいないのは寂しいですね。ずっと一緒がいいです。一緒に成長しましょう。大丈夫、気合いでなんとかなると思います!』

「気合いねえ」


 そうレームが呟いてから「そうだな」と返して笑った。


「まあ、気合いで行けるところまでは……付き合ってやるよ相棒」


 レームがタツオの頭を撫で、タツオがくわーっと鳴いた。

 そうして、数奇な運命により共に旅するふたりは今日も一緒に歩き続けている。人と竜の命の時間には大きな開きがあり、やがては別れる道もあるのだろう。けれども……とレームは考える。女王という分不相応な立場を強要され、檻に閉じ込められていた自分が今は自らの足で道を歩いている。であればいずれなどと考えず、タツオのいう通りに気合いで跳ね返すくらいの気持ちでいこうじゃないかと。


 そして、少女と幼竜の物語はまだまだ続いていく。未来を恐れることなく、止まることもなく、彼女らは今日も一歩を踏み出し続けていた。

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