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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
最終章6 救世少女編

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第千五十話 世界を救おう

『やりました……かな?』

『フゥウウウ。いや、これはどういうこと?』


 大技を放った後の弓花だが、その表情は浮かない。倒したはずの相手の気配が消えていないと彼女は気が付いていた。


『キング!』

『はいっ』


 それからすぐさま上へと視線を向けると弓花は己のしもべを呼び、その言葉にキングも状況を把握し頷いた。敵の姿はないが、そこにある存在をキングもすぐさま察知できた。


『往生際が悪いですなぁ! その魂まで焦がし尽くせ我が雷よ!!』

『グァアアアア』


 そしてキングが掲げた片手斧から放たれた神の雷を受けて、何かが魔力光を発して燃えていくのが見えた。けれどもキングはそれを見て舌打ちする。


『拡散しすぎて、倒し切れませんな』

『ええ、面倒ね』


 ふたりはそう言い合い、その様子を見ていたガイエルが眉間にしわを寄せながら声を荒げる。


『テメェ。まだ性懲りもなく生きてやがるのかジルベール!』

『黙れ。神だぞ、それがしはッ。寄り代が消えたとしても、その存在がなくなることがあるはずもなかろう!』


 その声と共に空中に巨大な人の影が現れる。それは薄く引き伸ばされたアストラル体だったが、気配は確かに先ほどまで相対していたジルベールのものであった。その影に対して風音が尋ねる。


『で、そんな格好になってもまだ挑もうっての? こっちに勝てるつもりなの?』

『当然だ。それがしは逃げもしないし貴様らを逃がしもしない。ここで足止めさえできればそれがしの勝ちなのだ。このままそれがしが新世界の神となるためのいしずえと……な、なんだ!?』

『え、ちょっと!?』


 ジルベールが話している途中で眉をひそめ、風音たちが目を見開いた。その場に浮かんでいるジルベールの黒いアストラル体が徐々に上昇していくのが見えたのだ。


『馬鹿な。それがしの存在が薄れてゆくだと?』

『あんの馬鹿。自分の魂が喰われていることに気付いてねえぞ』


 ガイエルの言葉にジルベールが『なっ!?』と驚きの声を上げ、それから空を見上げてようやく己の状況に気が付いた。


『外でみんなが悪霊騎士を押さえてるのにやってくれるね。弓花、すぐに帰還の楔リターナーズ・ステイカーで脱出を。もう猶予がない』

『駄目だ風音。もう遅え。塔の周囲の壁が崩れていく』


 ガイエルの言葉の通り、塔を覆っていた黒き光でできた壁が崩れ始めていた。それは護りの意味がなくなったことを示していた。つまりは、アヴァドンの召喚は完成してしまったのだ。


『馬鹿な。それがしは創造神になる……のというのに』


 その間にもジルベールの気配は薄れていく。もはや抵抗する力すらもないのだろう。目の前のよこしまなる神の気配が消えていくのが風音にも分かった。


『止め……ぉ』


 そして薄れた魂の最後も吸い込まれると、門の内側から巨大な腕が出てきて、その扉をゆっくりとこじ開け始めたのが見えた。


『最後の最後でやってくれたな。あの疫病神め』


 ガイエルが怒りに震える。ジルベールは倒し、外の悪霊騎士の魂の供給も減少していた。この場を去るのも間に合ったはずだったのだ。だが、ジルベールの魂により召喚は『完成して』しまった。もはや彼らがその場を離脱しようとアヴァドンの復活は成ってしまう。その様子に弓花の背に乗ったキングが口元をひくつかせながら声を上げる。


『す、凄まじい力を感じます。主様、あんな化け物がこの世界にいるのですか!?』

『いるんじゃないわ。これから現れるのよキング。何しろ、ジーククラス100人で挑むような相手なんでしょ。どうしよう風音。アーチふたり呼ぶ? 合わせればカンストひとり分にはなるかな?』

『絶対止めて。弓花の今回の一番のお手柄はアーチを喚んでないことなんだから』


 英霊召喚の指輪ふたつを見せる弓花に、風音が真剣な顔で首を横に振った。

 もっともどうであるにせよ、このままの状態でまともに戦って勝てる相手ではないのはこの場の全員が分かっている。それからガイエルが風音へと視線を向けて口を開いた。


『風音。実際にあれに勝つ方法があるのか? 俺やお前、それに弓花やジンライはレベル300の英霊と戦力的にそこまでの相違はない。しかし、そこに俺やお前の英霊、お前の仲間の英霊を加えても、ちょっとどうにかなる戦力差じゃないぞ?』


 その問いに風音が難しい顔をしながら、言葉を返す。


『オロチさんはすでにひめ蛇子を出しちゃってるんだよね。悪霊騎士の魂をアヴァドンに取られないためにはプレイヤーが魂を吸収するのが一番だから』


 今塔の外ではフリフリの衣装を纏った場違いな少女が悪霊騎士を相手に無双しているのである。それは英霊アーチのような自称アイドル志望のひとりよがりな姿ではなく、その仕草も声も口調も含めて完成されているネットアイドルそのものだった。冒険者たちの熱視線を受けながら笑顔を振りまき、際どいカットを決めつつもスカートの中身は決して見せない鉄壁さを誇っている。

 弓花では到達しえない遥か高みにいるひめ蛇子は確かにレベル300のカンストキャラではあるが、活動限界をもうまもなく迎えようとしている。だから戦力にはもう加えられない。それから風音がガイエルに尋ねる。


『そういやガイエルさんもまだ英霊使ってなかったんだっけ』

『ま、アレは俺の意志なしでは出せねえからな。ジルベールも手を出せなかったってわけだ。で、どうする?』

『うーん。最大の攻撃をぶち込むには……龍神を……使って、けど……見習い解除を再度出すにはレベルが足りないからなぁ』

『レベル?』


 首を傾げるガイエルに風音が頷く。


『私が龍神の形態を取って初撃をしのげれば、どうにかできると思う。あれで一気に振るい落とされるから……それさえ防げれば勝機はある。けど、竜と獣統べる天魔之王になる必要があるし、それには見習いを解除しないといけない」

『すればいいんじゃねえの……ってわけにはいかないってことか?』

『うん。こっちに来て三号の魂を得て一度レベルアップしてるけど、さっきみんなを各国に送り届けるのに使っちゃってるからね。もう一度使用するにはレベルアップが必要なんだよ。けど』


 風音が塔の外で戦っている冒険者たちへと視線を向ける。


『外で戦ってる二号三号の経験値も入ってきてるけどまだレベルアップには達してないし、ジルベールもアヴァドンに取られた。だから手段がもう限られてる』


 風音が悔しそうな顔をしながら一歩を踏み出した。

 下の悪霊騎士を今から殲滅して間に合うのかと己の内で自問するが、アヴァドンの攻撃で全滅する方が早いだろうと風音の頭の中ではすでに結論が出ている。

 ゲームのアヴァドンはまず初手の一撃こそが試練であった。低レベルのキャラはそこで根こそぎ落とされる。その一撃だけでも現状の風音たちですら生き残れる保証はないのだ。カンストレベルのキャラが死屍累々の山を積み重ねてどうにか倒せるか全滅するかという相手なのだ。

 塔の外にいる冒険者たちが生き残れるとも思えない。だが……と、風音が言葉を飲み込む。それでも挑むしかないと悲壮な覚悟を決めて一歩を踏み出したところに……


『つまりはだ。お前がレベルアップすりゃあいいんだろ?』


 ガイエルから声がかかった。その言葉に風音が戸惑いながらも『そうだけど』と返すと、ガイエルは頭をかきむしりながら舌打ちした。


『クソッ。ようやく、自由になれたってのにな。けど、しゃーねえ。おい。カザネ』

『何? 今は時間がないから話してる余裕なんて』

『俺を殺せ』

『は?』


 風音が目を見開いて、ガイエルの顔を見た。それには弓花やキングも驚きの顔をしたが、ガイエルの表情は至極真面目なものだった。


『なんで? 今更勇者を倒したところでどうにもなんないってのはガイエルさんも知ってるでしょ?』

『そうじゃねえよ』


 ガイエルが首を横に振る。それから自分のステータスウィンドウを見せた。


『見ろよ。俺の現在のレベルは300。分かるか。俺を倒せば、多分だがお前のレベルも上がるはずだ。で、レベルが上がればその見習い解除ってのができるってわけだろ』

『そうだけど……けど、なんで? テイムでもそこまでは強制できないはずだよ』

『アホか。テイムの問題じゃあねえ。純然たる俺の意志だ』

『それに言っておくけど私の魂を乗っ取るとかは無理だよ?』


 通常のプレイヤー同士でならば魂の強度の差で悪魔化して肉体を乗っ取れるかも知れない。けれども、一度大神にまで至った風音の魂に勝つことはあり得ない。だが、ガイエルが眉をひそめながら『止せ』と口にしてから肩をすくめる。


『んな気はねえよ。二度に渡ってチンチクリンになるなんて冗談じゃあねえしなぁ』


 そう言って笑い、それから周囲を、塔の天辺から世界を眺めながらこう口にした。


『この世界をぶっ壊されるのが許せねえってだけだ。お前らのためじゃない。俺がこの世界を護るためにやるってだけの話さ』


 その言葉には弓花が眉をひそめる。それは、かつて大陸全土を戦乱に巻き込み、さらには悪魔の手先として世界を破滅させようとしていた男のものとは到底思えなかった。


『だったら、なんで世界を支配しようなんて考えたのよ。悪魔にだって手を貸してたし』

『あん? なんでって、悪魔はあれだ。中からぶっ壊す機会を伺っただけだぜ? 世界を支配する理由なんて、全部俺のモノにしたかったからに決まってんだろ。大地も、人間も、魔物も、全部俺のもんにしたかった。好きだったから手に入れようと思った。当たり前の考えだろう? この世界は俺の宝物なんだからよ』


 何のてらいもなくガイエルはそう答える。

 それが竜帝ガイエルの原点だった。彼はただ欲しいから手に入れようとした。

 そして、その言葉を聞いた風音の眼が細められる。己の前にいるのは、方向性こそ違うモノの、ある意味では自分と同種の人間なのだろうと風音は気付いた。


『ハァ、達良くんとは気が合いそうな気もするけどね』

『うるせえよ。あいつにゃ何度か声かけたけどフラれてんだよ。ま、それで今があるんだ。結局は奴が正しかったってことなんだろう。けど、まあいい。それはもういいさ』


 それからガイエルが笑って風音を見た。


『ともかくよ。ここが俺の世界なんだ。護らせろ風音』


 その言葉を聞いて、風音は己の視線をガイエルへ、続けて空の召喚門へ、さらには親友と己の剣へと向けてから、最後に再びガイエルへと向け直した。


 外での戦いでもレベルはまだ上がらない。時間ももうない。

 今この場の決断が世界の命運を決めるのだと、風音も正しく理解していた。であれば、やることはひとつだけだ。


 それから風音はロクテンくんの中から出て、ロクテンくんに握られた黄金剣を解除してコアにしていた竜帝の剣ナーガスを手にするとガイエルの前に立った。

 その姿に少女人形が笑う。情けない顔でもしていたら喝のひとつでもしてやるかとガイエルは思っていた。けれども降りてきたチンチクリンの瞳に迷いはなかった。それがガイエルには眩しく感じられた。


『いい顔してやがるな。たくよぉ』


 そう言ってガイエルは風音を、風音はガイエルを見て、それから意を決した顔の風音が剣を構えるとガイエルに対して頷いた。


「じゃあ、護ろう。一緒に」

「おう、世界を救おうぜチンチクリン」


 その言葉のやり取りを終えてすぐである。少女の一歩が踏み出され、その剣がコアを貫いたのは。


 そして光がその場を覆い、白き光の奔流の中から巨大なる龍の神が出現した。

 それは塔の頂上より翼を広げて天へと飛び立ち、世界を滅ぼさんとする大魔王へ向けて上昇していったのである。

名前:由比浜 風音

職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者リベレイター・守護者


装備:竜帝の剣ナーガス・鬼皇の竜鎧・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩(柩に飾るローゼ)・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・金翅鳥の腕輪・プラチナケープ・守護天使の聖金貨・金色の蓄魔器


レベル:67

体力:227+35

魔力:725+950

筋力:164+70

俊敏力:212+80

持久力:113+40

知力:165+10

器用さ:158+10


スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』『テレポート』『カイザーサンダーバード』


スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[9]』『光輪:Lv2』『進化の手[6]』『キックの悪魔:Lv2』『怒りの波動』『蹴斬波』『爆神掌』『コンセントレーション:Lv3』『ゾーン』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv6』『イージスシールド:Lv2』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス:Lv2』『インビジブルナイツ』『タイガーアイ』『Wall Run』『直感:Lv3』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv3』『情報連携:Lv4』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv5[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv4』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv3[竜系統]』『魔王の威圧:Lv3』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv3』『真・空間拡張:Lv2』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv5』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『神猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス:Lv2』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収:Lv3』『白金体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚:Lv2』『カルラ炎』『魔物創造』『ウィングスライサー』『フェザーアタック』『ビースティング』『弾力』『イーグルアイ:Lv2』『ソードレイン:Lv4』『空中跳び[竜系統]』『暴風の加護:Lv2』『最速ゼンラー』『ソルダード流王剣術・極』『タイタンウェーブ:Lv2』『宝石化』『ハウリングボイス:Lv2』『影世界の住人』『知恵の実』『死体ごっこ』『ハイパーバックダッシュ』『ドリル化:Lv3』『毛根殺し』『ハイパータートルネック』『爆裂鉄鋼弾』『ウィングアーム』『Roach Vitality』『黒曜角[竜系統]』『空身[竜系統]』『神の雷:Lv5』『雷神の盾:Lv5』『Inflammable Gas』『神速の着脱』『触手パラダイス:Lv2』『ハイライダー』『リーヴレント化:Lv3』『DXひよこライダー召喚+:Lv5』『ミラーシールド』『由比浜 風音:Lv4』『硬化』『極限耐性』『ダンジョンメーカー:Lv4』『神之眼』『明鏡止水』『お供え物を強要する能力』『後光』『お賽銭箱』『天之岩戸』『ゴーレム守護兵装カザネハート』『共生進化』『覇王の威圧』


風音「さあ、さくっと世界を救っちゃおう弓花」

弓花「ええ、行こう風音。これで終わりよ」

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