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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
最終章6 救世少女編

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第千三十七話 師匠と向き合おう

『はっは、やるねえ弓花のお姉ちゃん』


 エイジがそう口にして槍を突き出すが、その表情には余裕がない。わずかな隙間を縫うように、まるで蛇が獲物を襲うように弓花の槍はエイジの槍をすり抜けて迫ってくる。それをどうにか避けながらエイジが眉をひそめる。 


『それにしても出がかりが見えない!? これってどういう?』


 エイジが苦い顔をしながら弓花の突きを避ける。続いての攻撃も避けることはできたが、攻勢に出ることができない。弓花の攻撃は止まず、反撃の糸口が掴めない。


『あーもう、しつこいよ』


 エイジが叫ぶが止まらない。今の弓花は己の種族が仙族に変わったことを生かすため、仙人になるために必要な心得のひとつ呼吸法の究極である『胎息』を扱えるまでになっていた。

 元々は菊那の伝手で指導を受けた仙人より『調息』と呼ばれる呼吸法を教えてもらっただけではあったのだが、弓花は夢の修行の過程で『胎息』に至っていたのである。それは不老長寿にもなれる術でもあったのだが、常に使えるわけではない弓花は戦闘における呼吸法のひとつとして使用していた。そこに至ることで弓花は、呼吸の継ぎ目が極めて薄くなり、隙が消え、力を溜めることなく流れるように繰り出し続ける無拍の極致に到達していたのだ。

 その弓花を前にエイジは、ジンライの力でどうにか攻撃を耐えることしかできないでいた。


『ズルいよ。なんだよ、それ。そろそろ僕のターンだろ!?』


 エイジが顔をヒクつかせながらそう返すが、弓花は無心で槍を突き続ける。

 二槍となったことで、攻撃からさらに隙が消えているのだ。変化は獣人化止まりだが、それでも人間よりもその能力は相当に高い。故にエイジは防戦一方となり、攻めあぐね続けている。


『けど、僕の、ジンライの槍が当たりさえすれば、一発でひっくり返せるんだ。まだまだ』


 その言葉に間違いはないのだろうが、目の前の弓花に対して当たらないどころか、エイジは突くことさえ許されない。


『クソッ、どうしてだよ。そんな、重そうな鎧を着てるのに、なんで動きが鈍くもならないのさ?』


 焦る声は次第に大きくなっていくが、残念ながら弓花の装備している神狼の甲冑は、主の意思に応えて自らを羽のような軽さにも変えていた。動きが鈍るはずもないのだ。

 さらには振るう槍のどちらもが神槍。右腕に当たるのだけは阻止せねば、エイジの存在が消し飛ぶ。今のエイジは本体ではなく、魂の欠片でしかない。いわばゴーレムとして目覚めた風音に近く、直に魂を分けた存在であるためにウィンドウこそ使えるようだが、ジンライが弱っている今だからこそ乗っ取れた程度の弱々しい存在でもあった。エイジにとってももうチャンスはない。


『チィッ』


 エイジが一歩を踏み出し槍を振るうと、それを弓花が受け止める。そして、ようやく弓花の猛攻を止められたエイジジンライが笑う。


『はっは、捕まえた。まだ獣人の姿なんだね。あの化け物狼にはならないの?』

「必要ないわ」


 その返しにエイジの顔がさらに歪む。


『もう、舐めすぎじゃないかなぁ、お姉ちゃんさあ!』


 エイジがいきり立って叫ぶが、弓花とて別に舐めてるわけではないのだ。

 力は双方の神槍より得ており、己は制御のみで良いのが今の弓花だ。

 少なくとも対人においてはこれがベスト。解放神狼リバティフェンリル化などは確かに強大なパワーが手に入るが身体制御も甘くなる。今の弓花の姿こそが、現状で最も最適の状態であった。


「ふっ!」


 その次の瞬間には弓花が体内の神気を爆発させて、一瞬だけ強力な腕力で槍を押し出すとエイジの取り憑いたジンライの身体が吹き飛んだ。


『うわぁああああっ』


 そして、エイジがゴロゴロと転がっていく。


『まったく、本当にゴリラだよ弓花のお姉ちゃん』


 それからエイジはすぐさま態勢を立て直して構えるが、弓花はその隙を突こうともせず先ほどと同じ場所に立っていた。それから槍を持った手でクイクイと指を動かし、来いと挑発までして見せた。


『ああああ、腹が立つ。なんなのさ。だったらもう遊びは良いよ。これでッ』


 そう叫んだエイジが両腕のそれぞれの槍を構えて、自分の目の前にスキルリストを表示させる。


『お終いだお姉ちゃん。スキル・三種の神器トリニティエヴォルブ』


 そして、エイジが発動させたのはオールドジンライの見せた奥義『三種の神器トリニティ』の完成形だ。スキルリストに入っているその技をエイジは音声入力で発動させたのである。


「分かったわ」


 対して弓花は慌てることもなく、まったく同じ技を繰り出していく。それもウィンドウのスキル発動ではなく己の力のみでだ。


『嘘だろっ』


 それにはエイジも悲鳴を上げた。

 バーンズ流奥義『反鏡』の力で加速された闘気の円刃『斬玉』同士がぶつかり合って砕け、続けて放たれた『七閃』もすべて相殺される。


『うわぁあああああっ』


 その衝撃にエイジが吹き飛ばされるが、弓花はその場で踏み止まっている。

 衝撃が来ることは分かっていたのだから、弓花が吹き飛ぶような無様を晒すわけもない。そもそも弓花にはジンライを傷付けぬために力を抑えて相殺に止めるほどの余裕すらあった。


「じゃあお終いね」

『クッソォォォオオオオオ』


 弓花の言葉にエイジが叫び、次の瞬間には雷と風を纏った槍が放たれてエイジジンライの肩口を貫き、千切れた黒い右腕が宙を舞った。そして、エイジジンライの背後の壁に大きなクレーターを生み出して投擲された槍が止まった。


「ハァ、全然ダメ。落第点。正直言って、師匠の足元にも及ばなかったわ。スキルを使うだけでは本当の強さは得られない。そこで留まればね。プレイヤーは限界に行き着いてしまうのよ」


 弓花が風の闘気を纏った神槍ムータンを握りながら、そう口にする。

 だからこそ弓花は槍の腕を鍛え続け、ゆっこ姉は魔術を研鑽し続けた。スキルの数で勝負する風音であっても、それぞれのスキルを創意工夫で利用して、さらなる強さを引き出している。

 けれども、エイジにはそれがない。ただ、ジンライの性能とスキルを使っただけに過ぎず、それが決定的に勝敗を分けていた。

 それから壁に突き刺さった槍が元の姿に戻り、狼の姿のクロマルが雷火を咥えて戻ってくるのを見ると、弓花の視線は床に落ちた黒い右腕に向けられた。


「で、まだ意識はあるんでしょう? けど、もう師匠は狙わせないわよ」

『チックショウ。嫌だ。まだ、僕はこんなところで……』

「いいや。終わりだ愚か者。好き勝手しおって」


 その次の瞬間、ドスッと黒い右腕に聖一角獣セントユニコーンの槍の槍が突き刺さり、右腕から悲鳴と共に一気に黒い瘴気が噴き出していった。


「哀れな子供ではあったが、もはや悪霊の類となってはな。こうするしかあるまい」

「あ。師匠、意識を取り戻したんですね!」


 弓花の言葉に、ジンライが「油断したわい。まったく」と言いながら上半身を起こして頭をかいている。


「うむ。弓花よ。今回は助けられたな。何故お前が生きているのかも気になるが……最後の技、あれはなんだ?」


 その言葉に弓花が戻ってきて横に寄り添ったクロマルの頭を撫でながら「新技ですよ」と返した。


「投擲技である雷神槍に、風神槍の勢いすべてを乗せて高速で撃ち出す技です。二段ロケットみたいなものですね。名付けてシルキーアタック! です。私の技の中では多分最速です」

「し、シルキーアタック……か。しかし……いや、まあ良いか。お前が編み出したものなのだからな。ワシが口出すことでもあるまい」


 ネーミングに何か言いたげなジンライだったが、それを抑えて頷いた。

 それから弓花が視線を聖一角獣セントユニコーンの槍が突き刺さっている右腕に向ける。


「けど、助かりました。エイジの扱いはどうしようかと思っていたんで」

「いや。苛立ち紛れにやってしまっただけなのだが……倒せばお前の経験値にはなっていたのだろう。済まないことをしたと謝ろうと思っていたのだが」


 申し訳なさそうなジンライに、弓花が首を横に振る。


「いいえ。プレイヤー同士で殺し合うと、戦って倒しても最悪魂を乗っ取られることもあるそうなんで、私だと封印するか誰かに倒してもらうしかなかったんです。けど、今度こそ終わったみたいですね」


 落ちている右腕はすでに黒くなく、禍々しい気配も消えていた。エイジの魂の欠片も聖一角獣セントユニコーンの槍の浄化能力に消滅したようであった。その右腕をジンライがヒョイと摘まむ。


「では、くっ付けてみるか」

「え、付けるんですか?」


 目を丸くする弓花の前で、迷わず右腕を繋げたジンライが「付いたな」と口にする。


「いやいや、それはさすがにデタラメ過ぎません?」

「すでにまともな腕ではないからな。まあ、それでもこれも鍛え上げたワシ自身なのだ。ワシから離れた後もずっと強くあろうとしてきた自らの腕を捨て置くことなどできんよ」


 そう言って、ジンライが己の右腕をマジマジと見る。

 肘や肩から魔生石が生えてはいるが、先ほどとは違い、別の気配はない。確かにジンライの腕として機能しているようだと弓花も感じていた。


「それに魔生石付きだ。魔力も上がり、一角獣ユニコーンと二槍の両方を極められる。ふふふ、何も問題はない」


 本音がチラリと見えた呟きに弓花が訝しげな視線を向けると、ジンライがゴホンと咳払いをしてから己の愛弟子を見た。ジンライには、伝えなければならないことがあったのだ。


「それとな。ずっと見ておったよ、先ほどの戦いをな。見事であった」

「えっと師匠……いや、その」


 その言葉に少しだけくすぐったそうな顔をした弓花だが、それからすぐに顔を赤くして俯いた。

 ずっと見ていた。それはつまり、自分がジンライに対して告白めいた言葉を口にしていたのも見られていたのだと気付いたのだ。その弓花の頭に、ジンライはスッと手を乗せて撫でる。


「弓花。そうだ、弓花だ。弓に花……ユミカの名にはそういう意味があったのだな」

「……師匠?」

「先ほどエイジの意識が入った。お前たちの世界でのお前の名の意味も、なんとなくだが理解できた。弓花、良い名だ」

「ありがとう……ございます」


 それからジンライが弓花に尋ねる。


「弓花よ。お前はワシを好いてくれている。男として。そうだな?」

「はい」


 この後に及んでは言い逃れもできない。弓花はその場で素直に頷く。


「だが、ワシにはシンディがいる。そこは埋まっておるのだ。女としてお前を見ることはできん」

「はい」


 弓花の瞳から涙がこぼれ落ちる。それは分かっていた結果だった。だから、秘めたまま口にするつもりもない恋だった。それから涙を流す弓花にジンライが言葉を重ねていく。


「だがな。ワシにとってお前はこの世でもっとも大切な……最愛の弟子なのだ。お前よりも大切な者などこの世にはおらんのもまた事実だ」

「師匠……私は……」


 弓花の瞳から止め処なく涙が溢れ出てくる。フラれたことはとても悲しく、けれども心から必要とされていることは伝わって嬉しい気持ちも涙とともに溢れていく。弓花が流す涙にはふたつの想いが込められていた。


「だから……お前の気持ちには応えられんが、ワシのそばにはずっといて欲しいとも思っておる。お前の槍と共に生きていきたい。それがワシの本音だ」

「えっと……その、も、もう頭ん中グチャグチャでよく分からないけど、多分ひどいこと言ってますよ師匠」

「すまんな『弓花』。こういう男なのだ。ワシは」


 そして、泣き続ける弓花をジンライは優しく抱きしめて謝る。それが、少女が迎えた何度目かの失恋の瞬間だった。

名前:由比浜 風音

職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)

称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者リベレイター・守護者


装備:風音の虹杖・ドラグホーントンファー×2・鬼皇の竜鎧・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩(柩に飾るローゼ)・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・金翅鳥の腕輪・プラチナケープ・守護天使の聖金貨・金色の蓄魔器


レベル:66

体力:225+35

魔力:722+950

筋力:162+70

俊敏力:210+80

持久力:109+40

知力:155+10

器用さ:151+10


スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』『テレポート』『カイザーサンダーバード』


スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[8]』『光輪:Lv2』『進化の手[5]』『キックの悪魔:Lv2』『怒りの波動』『蹴斬波』『爆神掌』『コンセントレーション:Lv3』『ゾーン』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv6』『イージスシールド:Lv2』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス:Lv2』『インビジブルナイツ』『タイガーアイ』『Wall Run』『直感:Lv3』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv3』『情報連携:Lv4』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv5[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv4』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv3[竜系統]』『魔王の威圧:Lv3』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv3』『真・空間拡張:Lv2』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv5』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『神猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス:Lv2』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収:Lv3』『白金体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚:Lv2』『カルラ炎』『魔物創造』『ウィングスライサー』『フェザーアタック』『ビースティング』『弾力』『イーグルアイ:Lv2』『ソードレイン:Lv4』『空中跳び[竜系統]』『暴風の加護:Lv2』『最速ゼンラー』『ソルダード流王剣術・極』『タイタンウェーブ:Lv2』『宝石化』『ハウリングボイス:Lv2』『影世界の住人』『知恵の実』『死体ごっこ』『ハイパーバックダッシュ』『ドリル化:Lv3』『毛根殺し』『ハイパータートルネック』『爆裂鉄鋼弾』『ウィングアーム』『Roach Vitality』『黒曜角[竜系統]』『空身[竜系統]』『神の雷:Lv5』『雷神の盾:Lv5』『Inflammable Gas』『神速の着脱』『触手パラダイス:Lv2』『ハイライダー』『リーヴレント化:Lv3』『DXひよこライダー召喚+:Lv5』『ミラーシールド』『由比浜 風音:Lv4』『硬化』『極限耐性』『ダンジョンメーカー:Lv4』『神之眼』『明鏡止水』『お供え物を強要する能力』『後光』『お賽銭箱』『天之岩戸』『ゴーレム守護兵装カザネハート』『共生進化』


風音「うーん、ジンライさんってやっぱり……」

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