第千三十四話 圧倒をしよう
『馬鹿な……あんな巨大な物体を一瞬でだと!?』
トールが驚きを露わにしながら、そう口にする。
風音の発動させた『天之岩戸』というスキルは、大型格納スペースの上位スキルであった。再度出し入れするには一度中のものを出す必要はあったが、収納力は非常に高く、出し入れの時間はほぼノータイムで行われる。さらにはアイテムボックスの類いでは不可能だった人間などもまとめて収納できるのである。
スキルの由来を考えればその能力は至極当然ではあるが、外の音だけは響いてくる仕様でもあった。
そして、出現した移動要塞ビットブレンのブリッジ内では人間の頭ほどの大きさのひよこによる気合の入った指示が次々と飛ばされていた。
「ピヨ、ピヨピヨォォオオオオ」
「問題ありません艦長!」
「ピヨヨォォ」
「はい艦長。全砲門、オートモードでセットしてあります」
「ピヨッ」
「予定通りです艦長。マシンナーズソルジャー、第一部隊から第五部隊まで正常に稼働中。第九までは待機させてあります」
「ピヨピヨッ」
「バッチリですよ艦長。斉射後、マシンナーズブッチャー部隊も投下します。この艦に連中は近付くことさえできないでしょう」
「ピヨーーーー!」
ならば良しとの艦長の言葉にその場の全員が「ハッ!」と規律正しく返事だけをして、作業を続行していく。なお、移動要塞ビットブレンを操作しているのは十騎士ローランと銀狼将軍を慕う自衛隊の面々であった。
艦長ローランの流れ出るように繰り出す指示を、正確に受け取った隊員たちが移動要塞ビットブレンを操作していたのだ。ここまでの訓練により醸成された彼らの連携はまるで十年来のチームのように機能し、キメラとブラックドラゴンたちを次々と葬っていく。
そんな銃弾と砲弾が吹き荒れる光景を前にして、顔色が青を通りこして白くなっているトールに対して、風音が口を開く。
「どう? 弾丸には属性なんてものはないからね。純物理攻撃だから魔力抵抗なんて意味もないし、二十発に一発ぐらいの割合で私のスキル爆裂鉄鋼弾や魔術を付与した弾丸も織り混ぜてあるから、物理防御に耐性があっても抜けちゃうんだよね」
『クッ、なんという理不尽な。あり得ない!?』
トールがそう叫ぶが戦いの砲火は止むことを知らず、彼の戦力を崩し続けている。そんな中で風音が一歩を踏み出しながら、トールに尋ねる。
「で、まあ……これだけで終わるんじゃあ味気ないし、トールさんも納得いかないかもしれないと思ってさ」
『!?』
ビットブレンの攻撃による惨状からトールが風音へと視線を戻すと、そのまま睨みつけた。対して風音は両手を広げて「私と勝負しようか?」と返した。
『傲慢な。まるで本当に魔王ですね?』
「今のカテゴリーは大魔王らしいよ? で、どうするの? このまま、うちの要塞に撃ち殺されて終わる? それでも私は構わないけど」
『つくづく、腹立たしいお子様だ。いいでしょう。ならば、プレイヤーらしく、ここで大魔王を討ち取ってくれましょう。そして私のことを勇者トールとでも呼んでもらいましょうか?』
「ふざけんな。姉貴も止せ。調子に乗ってないで確実に倒さないと危険だ。あいつは油断できない相手だぞ」
「直樹、これは調子に乗ってるんじゃないよ。彼我の実力差ってやつを教えようという……そう、例えるなら教育的指導なんだよ」
「ドヤ顔で言うな!?」
そんな直樹の言葉も無視して風音がさらに一歩を踏み込むと、そこにトールは全身を震わせて枝や葉を一斉に撃ち放った。それは先ほどのゴーレム風音を串刺しにしたときよりも十倍の射出数だったが、風音の周囲を吹き荒れる暴風がそれらを弾いていく。
「おやおや、冷静じゃあないねトールさん。忘れちゃったの?」
『暴風の加護でしょう。ですが、それも確実ではないはず』
風の流れを用いて矢などの攻撃を弾く『暴風の加護』。それは完全防御ではないが故に、抜けて内部に届くこともある。実際にわずかに抜けた枝の矢と葉の手裏剣はあったが、それを『直感』で感じた風音が『マテリアルシールド』を放って防いでしまう。
「ま、無駄だけど」
『ぐぬぅぅう!?』
トールが唸る。それから風音は続けてゴーレム人形の崩れた砂山へと手を伸ばすと「旦那様、来て!」と口にした。
そして、風音の言葉に反応して砂山の中から指輪がふたつ飛び出すと、それらは空中で神竜帝の護剣と護盾の姿へと戻り、さらには融合して一本の剣へと変わっていく。
『今度はなんですか?』
「あれは大竜御殿で見た神竜帝の剣ナーガス。姉貴、アレを元の姿に戻したのかよ!?」
見覚えのある剣を見て直樹が声を上げる。
それは竜族が一丸となって鍛え上げた、直樹が受け取るはずだった悪魔との決戦用の剣であった。結局、神竜帝ナーガはその剣を直樹に渡さず、ゴーレム人形となった風音のため、ふたつに割って小さな剣と盾にして手渡していた。
それが今再び元の剣へと戻り、風音の手の中に収まったのだ。
「よしよし。上手くいったね。ああ、ああ、聞こえてる旦那様?」
それから風音が剣に話しかける。すると剣は魔力の川とわずかに繋がり、刃より立ち昇る竜気をドラゴンの形へと変えて、口を開かせた。
『ぬ。突然の心話かと思えば……ほぉ、カザネか。その剣を元に戻したか。どうやら小さきカザネも今は共にいるようだな。もしやタツオも?』
『神竜帝ナーガ!? それも本物の……』
その声を聞いてトールの顔がさらに歪む。神竜帝の剣ナーガスは魔力の川を通じて、遠く離れた東の竜の里ゼーガンにいるドラゴンの長とこの場を繋いだのだ。それにトールは歪んだ表情を固めたまま崩せなくなっていたが、その間にもナーガと風音の会話は続いていく。
「ん。『どっちの私』もここにいるよ。タツオは別のところで戦ってくれてる。あの子も今じゃあ随分と強くなってるよ。そんで旦那様、せっかくだから一緒に戦おう!」
起伏のない胸に手を置きながら風音がそう口にすると、神竜帝ナーガからはすぐさま『任せよ』との返事が返ってきた。
その声には圧倒的な喜びの感情が満ち溢れていた。ただ護って終わることをナーガも良しとはしていなかったのだ。何より己が風音と共に戦えることにナーガは至上の喜びを感じていた。そんな中、離れた場所で倒れていた直樹が驚きの声を上げる。
「小さきって、まさかいるのかよ、姉貴の中にゴーレムの姉貴も?」
「え、今更何を言ってんの直樹? だからさっき私言ったよね。大丈夫だから、心配ないからって私伝えたよね? お姉ちゃんの言葉聞いてなかった?」
首を傾げながらの風音の返しに直樹が「ハッ!?」という顔をする。
まさか、先ほどのやり取りが、本当に言葉通りに大丈夫だから、心配ないから泣く必要はありませんよという意味だったとは、さすがの直樹も予測できるはずもなかった。
けれども、ゴーレム風音はアキハバラスカイツリーがこの場に突撃する前の時点で本体風音と繋がっていて、連絡を取り合って対応を決めていたのだ。
だからこちらに到着後すぐに事情も把握していて迅速な対応ができていたし、ゴーレム風音はこの場でアキハバラスカイツリーが来るまでの時間稼ぎをしていれば良かったのだ。必勝であるはずの万能奥義による平和的な時間稼ぎができなかったので、ゴーレム風音は仕方なく身体を張っていただけなのである。
だが、その言葉に納得がいかないのはトールであった。
『そんな馬鹿な。あのゴーレムの風音さんを倒したのは私でしょう? だったら倒した時点で私に経験値が、魂が手に入るはずなのに……なんであなたに? おかしいじゃあないですか!?』
「べっつに、私はトールさんに負けたわけではないしね。もうそばに本体がいたわけだから、倒されてもゴーレムの私の魂は回収されるの決まってたし。合流したら、あっちで魂と融合したときと同じく5レベル上がったし……って。あ、これはこっちの話ね」
『何を言っているのか分かりませんよ!』
その言葉に混乱し続けるトールに対し、風音の虹杖を左手に持ち替え、神竜帝の剣ナーガスを右手に持って構えると、次の瞬間に『神の雷』を神竜帝の剣ナーガスに宿し、虹杖を中心に『雷神の盾』を物質化させていった。
突如として現れた白き武具にトールが驚愕の表情を浮かべる前で、さらに風音は『神之眼』というスキルを発動させて額に三つめの瞳を出現させる。
『額に第三の目? なんです、それは?』
「あっちで手に入れたスキルだよ。これ、便利なんだよねえ。魔力の川を通せば、遠くまで座標も測れるし、こうやってこの空間の全部を把握できるし。って……へえ」
グンッと第三の目が見開かれて、風音は周辺の情報を習得していく。
「コアは……やっぱり露出している上半身にはないね。やっぱり、いつでも逃げ出せるように根元に隠していたんだ。セッコいなぁ」
その言葉にトールがギョッとした顔をする。風音が間違いなく己のコアの位置を把握しているのが本人であるトールには理解できたのだ。
「けど、これなら問題ないや。狂い鬼お願い。やっちゃって」
それから風音は狂い鬼をその場で召喚させると、顕現した狂い鬼はすぐさま侵食結界を張った。
「ウガァアアアアアア!」
咆哮と共に周囲の壁が臓腑と骨の塊と化し、血臭漂う恐怖空間へと変わっていく。それは風音の僕である狂い鬼のボス空間であった。
『そんな、空間が閉じられた? これでは!?』
慌てる様子のトールに風音がドヤ顔で頷く。
「そゆこと。逃げられません。さあ、どうするトールさん? 大火力で結界を破壊しようとすれば壊せるかもしれないけど、これから攻撃を開始する私がそれを許すと思う? それにトールさん、言っちゃったものね。自分は大魔王を相手にする勇者なんだって」
『それは!?』
「なら分かっているでしょう? RPGのお約束、ボス戦からは』
『に、逃げられない……』
その己の言葉にハッとしながら、トールが叫ぶ。
『ふざけたことばかりを言うな!』
そして、根を床から引き抜きながら大木が動き出した。逃げられぬのだからとトールは機動性を重視する戦い方へとすぐさま切り替えたのだ。無数の根を触手として動かし、巨大な木の全身を唸らせて走り、風音に対して向かっていく。
「そんじゃ、旦那様。お願い!」
『おぉぉおおおおお、神と竜の光を喰らうが良い!』
対する風音の第一射は剣に宿った神竜帝ナーガの一撃だ。
クリスタルドラゴンのセブンス・レイに『神の雷』を交えて放った技の名は『ヘブンズ・レイ』。無属性の強力な一撃が、それぞれの属性を宿した葉の盾の効力をも無視して、大木に直撃する。
『ギャァアアアアアアアアア!?』
堪らず悲鳴を上げるトールだが、木の身体は生存本能に則り、迫る敵へと攻撃を始めた。『暴風の加護』により遠距離攻撃も効かぬ相手であれば、接近戦で手数で攻めるしかないとソレは選択していたのだ。枝を鋭く伸ばして振るい、前面の根の触手を風音へと伸ばしていく。
『効かないねえ』
だが、風音はそれらを左手の雷神の盾を肥大化させて受け止め、接触した枝や根が逆に破壊されていく。
『嘘だ。私がこんな……』
その光景を見たトールが呻く前で、風音は弾丸のようにスキル『ブースト』を用いて加速し突撃する。『神猿の剛腕』によって得た怪力で伸びる枝や根を切り裂き、さらにはトールに『後光』を発動させて目をくらませた。神の畏敬は人には光として映り、その輝きを前にしては目を合わせることも叶わない。あちらの日本で荒神から手に入れていたスキルを風音は見事に使いこなしていく。
「これで終わりだぁあ!」
そして、あちらの世界でスキルレベル5にまで鍛え上げた『神の雷』を乗せた刃を振るって、風音は巨大な大木を白き雷の刃で真っ二つに切り裂いたのであった。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:風音の虹杖・ドラグホーントンファー×2・鬼皇の竜鎧・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩(柩に飾るローゼ)・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・金翅鳥の腕輪・プラチナケープ・守護天使の聖金貨・金色の蓄魔器
レベル:66
体力:225+35
魔力:722+950
筋力:162+70
俊敏力:210+80
持久力:109+40
知力:155+10
器用さ:151+10
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』『テレポート』『カイザーサンダーバード』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[8]』『光輪:Lv2』『進化の手[5]』『キックの悪魔:Lv2』『怒りの波動』『蹴斬波』『爆神掌』『コンセントレーション:Lv3』『ゾーン』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv6』『イージスシールド:Lv2』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス:Lv2』『インビジブルナイツ』『タイガーアイ』『Wall Run』『直感:Lv3』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv3』『情報連携:Lv4』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv5[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv4』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv3[竜系統]』『魔王の威圧:Lv3』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv3』『真・空間拡張:Lv2』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv5』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『神猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス:Lv2』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収:Lv3』『白金体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚:Lv2』『カルラ炎』『魔物創造』『ウィングスライサー』『フェザーアタック』『ビースティング』『弾力』『イーグルアイ:Lv2』『ソードレイン:Lv4』『空中跳び[竜系統]』『暴風の加護:Lv2』『最速ゼンラー』『ソルダード流王剣術・極』『タイタンウェーブ:Lv2』『宝石化』『ハウリングボイス:Lv2』『影世界の住人』『知恵の実』『死体ごっこ』『ハイパーバックダッシュ』『ドリル化:Lv3』『毛根殺し』『ハイパータートルネック』『爆裂鉄鋼弾』『ウィングアーム』『Roach Vitality』『黒曜角[竜系統]』『空身[竜系統]』『神の雷:Lv5』『雷神の盾:Lv5』『Inflammable Gas』『神速の着脱』『触手パラダイス:Lv2』『ハイライダー』『リーヴレント化:Lv3』『DXひよこライダー召喚+:Lv5』『ミラーシールド』『由比浜 風音:Lv4』『硬化』『極限耐性』『ダンジョンメーカー:Lv4』『神之眼』『明鏡止水』『お供え物を強要する能力』『後光』『お賽銭箱』『天之岩戸』『ゴーレム守護兵装カザネハート』
弓花「あははははははは!」
風音「あははははははは!」




