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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
幕間

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叛逆・上

 その日、神託は再び下された。

 大魔王の復活。それが早まることが神々より伝えられ、日に増していく魔物の襲撃に怯える人々に世界の終わりを予感させた。終末の言葉が口々に語られ、街々ではどんよりとした雰囲気が漂っていた。

 一方でその事態を懸念するだけではなく、現実的に対処しようとする者たちはより一層行動を早め、また大魔王アヴァドンを復活させんとする悪魔たちにとっては、それは現状を揺るがしかねない問題となっていた。

 そして、レイベル亡国領の北にあるシュミ山のさらに上空にある天帝の塔では、今まさにその状況についての話し合いが悪魔たちの間で行われていたのであった。



◎天帝の塔 天帝の間


「大魔王の早期復活を告げる神託。神々が我らの行動を良しとせぬと見ているのやもしれませんね」


 玉座に座る悪魔王ユキトの横で、周囲を取り囲む悪魔たちに対してトールがそう口にする。

 その場にいるのはオールドジンライ、ジルベール、ガイエルに、その他上位悪魔たちという悪魔王ユキトに集う面々だ。そして、この場の誰も彼もが、トールの言葉に考え込んでいた。その多くは、言ってみれば当てが外れたという顔をしているようだった。


『それは神に妨害されるかもしれねえってことか?』


 その中で少女の姿をしたかつての竜帝、今やふたりしかいない七つの大罪のひとりである暴食グラのガイエルが眉をひそめながらトールに尋ねた。


『その可能性はある。或いはこちらの世界の神ではないかもしれない』


 対して答えたのはトールではなく、同じく七つの大罪のひとりである憤怒イラのジルベールだった。破損した鎧姿でその場にはいるが、放たれる黒き神気は以前よりも強まっていた。

 半年前に風音の二番目の英霊と戦った際、ジルベールは己の存在を揺るがすほどの大きな傷を受けた。最終的にはソルダードの地を管理しきれなくなったために、エルバロンの名を捨て、ただのジルベールとしてこの天帝の塔へと彼は退却していた。ソルダードは今やジルベールの管理下ではなくなっていたのだ。

 もっともここ数ヶ月間、魔力の川ナーガラインからの魔力を受け続けたことにより、ジルベールも魔力は以前に近いレベルにまで戻っている。今ではこのレイベル亡国領の神として、彼はこの場に在った。

 そして、ジルベールが神であることを知っているこの場の悪魔たちに動揺が走る。ここ数百年の長きに渡り根を張った結果、人間たちの抵抗にもかかわらず、彼らはここまでことを成し遂げられていた。だが、それは神の介入がないことが前提としたものではあった。それが覆される言葉が神の一柱より出たことで、問題はますます重いものとなった。

 その中で、好々爺といった姿の悪魔が一歩前に出て尋ねた。


「それで、大丈夫なのでしょうな?」

『レイモン、大丈夫とはどういうことか?』


 ジルベールの問い返しに、レイモンと呼ばれた悪魔が眉をひそめる。


「我らは新世界に移住し、若き魂を喰らうべく、ここに集った。悪魔王ユキトの元で……ですが、それが叶わぬのであれば、話は違うということです」


 分の悪い賭けには乗れぬと、レイモンの目が言っている。だが、その言葉には「問題は……ない」と悪魔王ユキトが返した。

 そこにあるのは惚けた顔ではあるが、ユキトの瞳は決して空虚なものではなかった。

 かつての自国領の民の魂を喰らい続けた結果、もはや意識をまともに保てぬまでになってしまった悪魔の成れの果て。だが、その絶大な力は健在であり、知性が完全に失われているわけではないのは、彼のこの数百年の行動を見れば明らかであった。

 現在、彼の意志伝達をする英霊たちは顕現しておらぬが、ユキトの瞳の奥を見れば、その言葉が噓偽りないということが、この場の誰にも理解できた。或いは『強制的に』理解させられた。だが、レイモンはさらに尋ねる。


「この地の支配はジルベールが行っており、他の地の神が手を出すことはできませんでしょうが、そうではない神々も多くおります。彼らが動いては、さしものジルベール様とて厳しかろうと思いますが」


 それらは概念を司る神たち。浄化の聖神アトモス、闘神デイモン、知性の賢神アナハス等々。特に悪魔たちが恐れているのは、この世界の創造神カルナシュガルが顕現し、すべてを御破談とすることだった。だがその懸念に対し、ジルベールは首を横に振る。


『カルナシュガルは我が試みを止めはせん。他も同じく。あれらはより深く食い込んだ世界の歯車だ。そして、今世に執着もしておらぬ。それがしらが世界を壊そうとも、アレらは次の世界で歯車を回すのみ。カルナシュガルはそれがしに従属する形となろうがな』


 愉悦の含んだ笑い声がジルベールから漏れる。

 このジルベール、或いはエルバロンという神は、かつて人であった頃の意識を保ちながら神で在り続けている。その有り様をさらに昇華するべく、王の魂を奪いながら今まで存在し続けてきた。そのジルベールの言葉に、トールが少しばかり目を細める。


「さて。果たして……可能なのですかね」


 そう呟いた言葉は、この場の誰にも気付かれることはなかった。

 トールは、ジルベールが創造神としての器であるとは思ってはいない。

 ただの歯車と化すか、カルナシュガルに吸収されるか、だが世界の形を定める際に機能しているユキトたちには問題がないし、トールにとってはジルベールが成功しようが失敗しようがあまり関係のないことではあった。

 だから、どうでも良いかとばかりに軽く肩をすくめてからトールは周囲を見渡しつつ、再度口を開く。


「ともあれ、どこからか妙な行動に出られる前にスケジュールを繰り上げます。世界の外の繋がりの回復が早まった気配もありますので、何かをされる前に我々は目的を完遂する。大魔王アヴァドンを喚んで世界を破壊し、そして新たなる創造神と世界の記憶と共に我らの新世界を生み出す」


 その言葉に悪魔たちから歓喜の声が上がる。

 すでに計画は最終段階だ。人間たちがいかに足掻こうが、状況は覆せない。

 神々の横槍が入る前に、すべてを終わらせるのだと彼らは昂ぶっていた。

 だが、この場でただひとりそれに賛同せぬという顔をしている者がいた。

 それは少女の姿をした人形。竜帝ガイエルである。

 その様子を見たトールは心の中に大きな不安がこみ上げてきた。破裂する爆弾を前にしているような奇妙な感覚があった。そして、ゴクリと喉を鳴らしたトールが「何か言いたいことでも」と口にしたと同時だった。ガイエルが口を開いたのは。


『頃合いかねえ』


 次の瞬間にはその場の悪魔たちが一斉に聖なる光によって灼かれ、また天帝の塔の至る所で爆発らしきものが起きている音が響いた。そのことに目を見開いたトールは、己の体が熱いと感じた。否、それは錯覚だった。感じた部分はもう存在していない。彼の胴にはもう何もない。


「ガイ……エ……」


 胸に大きな穴を開けて崩れ落ちたトールの前で、ガイエルが笑う。その大穴はガイエルの腕のドリルが抉ったために開いたものだ。そのドリルを振るい、鮮血が散らしながらガイエルが悪魔王ユキトの前に出る。

 対してジルベールが間に入って、ガイエルを睨みつけた。


『ガイエル。貴様……』

『ハッ、意外そうな顔すんなよジルベール。俺がずっとこうしたいと考えてたのは、知っていたはずだろう?』


 そう言いながらガイエルが己の胸を手刀で貫き、その中から呪印の刻まれたリングを取り出した。

 そのまま無造作に破壊されるソレが制約ギアスの魔法具であることを知っているジルベールが唸り、その様子を小気味良さそうにガイエルが笑った。彼は今、自由だった。

 その場は混沌となり、悪魔たちが聖なる光でなすすべも無く殺されていく中で、少女の形をした怪物が一言告げた。


『この世界は俺が支配する。だからさ。壊されるのは困るんだよ』

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