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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
最終章3 ガードブレイク編
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第九百九十五話 結果を報告しよう

◎ウォンバードの街 竜船『新大和』 甲板


 天帝の塔のあるシュミ山より南、ミンシアナ王国内のウォンバードの街に魔力の川ナーガラインの流れより出た光の柱が下りていた。

 そして、それは停泊している竜船の甲板に注がれていて、その中に無数の人影が現れ、やがては光の柱が消滅すると、その場には風音や直樹たちが立っていた。

 途端、彼らは歓声に迎えられることとなる。


『え?』

「まあ、敵も一緒に連れてくるかもしれない状況だったしな」


 風音たちを取り囲んでいたのは大勢の冒険者であった。彼らは任務を終えた風音たちを拍手で出迎えたのだ。また、その中には風音のよく知る者達もいた。


「おお、レイブンソウルにライトニングの人に……あ、トンファーの人だ」

「アンガスだ。忘れんじゃねえぜ馬鹿弟子」


 そう言って一歩前に出たのは、かつて風音にトンファーの使い方を教えたトンファー使いのアンガスであった。それから彼の子分コンビが笑いながらアンガスに口を開く。


「大方、兄貴の偉大さに恐れをなして記憶が飛んでったんでしょうぜ。無駄にでかいっすから」

「あ、一応トンファーはもう燃やしておきましたぜ。粗相があったらまずいっすからね」

「おいおい、またかよ。仕方ねえヤツらだな。けど、今回は予備をたくさん用意しておいたからな。何も問題はないぜ!」

「そっちも燃やしましたぜ」

「バチバチいってやしたぜ。おっ母さんのお腹の中にいるみたいに暖かかった」

「なん……だと?」


 アンガスが愕然として膝を突く。ここまで数々のトンファーが燃やされ続けてきた彼だが、ここにきてその心がついに折れたのである。それを見て子分達がパーンと手を叩き合いながらやり遂げた男の顔をしていた。その表情が見たかったという感じである。

 そんないつもの彼らを無視して、風音が他の冒険者達と挨拶を交わしていく。

 斧魔人ゴーゴル、召喚師のカルティ、天使騎士団、悪魔狩りの面々、それにムータンメンバーなど風音がかつて出会った冒険者達も多く並んでいる。

 彼らは死んでいた風音がさらにチンマイ姿になって戻ってきたことに驚き、それから笑って出迎えてくれた。そして、ドスンドスンと振動音と共に、その場に巨大な黒いゴーレムと、ルイーズ、オロチがやってくる。


『彼らは悪魔との戦いに備えて結集したメンバーよ。国は活性化した魔物を相手にしていて動けないからね。だからこそ、この事態には彼らが選ばれた。私たちが、世界が生き残るために、全ての力を注ぐべく……ね』

『その声、ゆっこ姉!?』

『いいえ、私は仮面の女王ユーコー。ゴーレムの中に引きこもる悲しき四十代よ』


 でっかい岩のゴーレムが両手を上げて、そう返した。

 年月は人に残酷な事実を突きつける。ユーコーはついに四十代に突入していた。だが、今の彼女にはソレを自ら笑える余裕の若さがあった。

 横にいたルイーズがそのやり取りに「はいはい」という顔をして、前に出ると冒険者達がかしこまった。今の彼女は悪魔狩りの長であり、この場においての最高責任者であった。

 それから、ルイーズが風音をそっと抱きしめる。その以前よりも小さな身体はルイーズが軽く抱えられる程度のものだ。


「話には聞いていたのだけれどね。カザネ、あなたが戻ってきてくれたことは何よりの僥倖よ。一応、戦力を揃えてはいたのだけれど余計な虫もついていないようだしね」


 そう口にしたルイーズの視線が向けられた先にいるはジンライであった。

 対してジンライがコクンと頷いたことで、ルイーズは黒き一団たちへの労いの言葉をこの場でかけると、直樹とヨハン、それに風音を連れて、竜船内部の部屋へと案内する。状況は流動的だ。早急に報告と今後についての話をする必要があった。



◎ウォンバードの街 竜船『新大和』 作戦室


「ふう、やっぱり外がいいわね」


 そう言ってフレイムゴーレムの名で知られる巨大な岩石のゴーレムの中から、ゆっこ姉が出てきてノビをする。そのゆっこ姉の姿に風音が「おお!?」と驚いた顔をする。

 見た目こそ人間だが、その姿は二十代にまで若返り、またところどころ微妙に姿が透けているようにも見えた。


『ゆっこ姉、その姿どうしたの?』


 直樹やヨハンも訝しげな目で見ていることからも、彼らもゆっこ姉の今の状態のことを知らなかったようだった。対してゆっこ姉が笑いながら自分を指差し「スペリオル化よ」と答えた。


「レベルが100超えたんで選択が出てね。精霊種としての最上位のひとつ『炎の女王』になれたってわけ。外見年齢も全盛期に固定されたし、安定すればもう少し隠せるとは思うんだけどね」


 ゆっこ姉が肩をすくめながら、自分の手のひらを見る。傍目には普通の人間なのだが、わずかに薄く、炎の赤色が出てくることがあった。それはもうゆっこ姉が人間を超え、恐らくは数千年の長き刻を生きることになる上位種となった証だ。

 それからゆっこ姉が風音のそばに寄って抱きしめる。


「それよりも風音、私よりもあなたよ。よく無事で……とは言い難いけど、また会えて嬉しいわ。最初は直樹の妄想かと思ってたけど、本当に風音なのね」


 その言葉に「え、妄想?」と直樹が心外な顔をするが、風音は『えへへ』と笑った後『本人かはいまいち自信はないけどね』と返した。それからルイーズが口を開く。


「あたしも、話に聞いたときにはちょっと信じられなかったけど……でも、その姿が見れただけでも嬉しいわ」


 そう言ってルイーズが涙ぐんでいた。それはゆっこ姉も同様だ。

 風音にとっては、突然目覚めての状況で実感はないが、彼女らにとっては奪われたものが戻ってきた奇跡がそこにはあったのだ。

 現在の様々な悪化する状況において、それはもっとも明るい話であった。それから風音がゆっこ姉の腕輪や首輪など様々なところから伸びてる魔導線が気に

なったのかちょいと摘んで、その先を見た。魔導線が繋がっているのは、ひざまずいている黒いゴーレムであった。


『これ、なんでゴーレムに繋がってるの?』

「姉貴。ゆっこ姉は今、蓄魔器に繋がってるんだよ」


 直樹の言葉に風音が「え?」という顔をしてからゆっこ姉を見た。


『まさかずっと! どんだけため込んでるの?』

「今なら守護兵装付きの都市を複数落とすのも難しくはないでしょうね」


 そう言ってゆっこ姉が笑うと、ルイーズが涙を拭いながらつられて笑みを浮かべた。


「あたしのジャッジメントボルトと違って、ロスなしで貯めまくってるからとんでもないわよ。当然、シュミ山で使う用のものだけどね。ソレで首尾はどうだったのかしらナオキ?」


 その問いに直樹がすこしだけ悔しそうに口を開く。


「ああ、神螺の斬剣の一本だけは結界を破壊できた。すぐにユキトに奪われたけどな」


 神螺の斬剣。それが、最後に直樹が飛ばした魔剣の名であった。それを聞いてゆっこ姉が頷く。


「なるほど。あの系統なら、やすちゃんに連絡して至急打って貰えば一週間程度で行けるわね。けど、ユキトが出たって……よく無事だったわね?」

『直樹がブチ切れて飛び出しそうだったから、危なかったよ』


 ヨハンの言葉に直樹が「演技だ、演技」と返す。

 もっとも、それを知っているのは直樹とヨハンだけだ。ふたりは事前に予備の剣が用意できることを知っていたために、あの場はああいう対応をしていた。

 その横で風音がふくれっ面になっていたのはそのことを知らなかったので、荒ぶる直樹の頬をはたいて「冷静になれ」だのと説教めいたことを口にしていた。恥ずかしくて死にたい気分であった。

 それからルイーズが口元に手を当てて、ボソリと問う。


「けど、相手はその剣を手に入れたのだったら、それが結界を通ることを理解しているのでしょう? 事前に対策されないかしら?」


 それにゆっこ姉が「どうかしらねぇ」と返す。


「あれだけ巨大な物体を覆うものだから、早々変えられないとは思うけど。まあ今回の結界破りが何かしらの仕込みの可能性も否定できないけどね。この作戦も漏れていたみたいだし、剣の一本を特定して同調させたなんてこともあるかも?」


 その言葉にルイーズが苦い顔を浮かべる。

 悪魔狩り内部だけではなく、様々な組織の中で悪魔のスパイの影がチラついているため、回りくどい対応に走らざるをえなかったのだ。だが、直樹は「どのみち問題はないですよ」と言いながら、アイテムボックスから剣を取り出した。

 それは先ほど使用した二十本の魔剣のうちの、ハズレの一本であった。

 そして、直樹が力を込めるとその剣がバキバキと割れて、中から風音も良く知る剣が出てきた。


『あ、私が上げたヤツだ』


 それは魔法殺しの剣であった。

 かつて死霊都市でデュラハンロードから手に入れたものであり、それは紆余曲折して風音から直樹に渡されたものであり、さらにはかつての東の竜の里の襲撃の際に悪魔の結界を抜けたものでもあった。


「本命も成功したようね」

「ああ、結界を崩せはしないが、抜けるのは確認した。剣先わずかにだが、連中にも気付かれていないと思う」


 それこそが彼らの真の切り札だった。そして、悪魔の居城に攻め込むためのすべてのピースがここに揃ったのである。

>圏外です


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