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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
最終章3 ガードブレイク編

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第九百九十二話 修羅たちと狂宴しよう

 竜帝ガイエルと共に六百年前の人竜戦争を引き起こした邪悪なるドラゴン、黒竜ハガス。今その場にいるのは、ハガスの素材から造り出された武具より生まれた分身体だ。それはオールドジンライと共に成長し続け、今やかつてのハガスに迫る力を持つに至っていた。

 対するは人竜戦争を生き抜き、西の竜の里を復興し、別大陸では蒼竜王などとも呼ばれている蒼炎のアオ。西の竜の里ラグナの番人である灼岩竜アカ。東の竜の里ゼーガンの守り手である護剣の四竜の南赤候スザ。いずれも名のある強力なドラゴンたちであった。

 それらが一斉にブレスを放ち、空中では巨大な爆発が起きた。

 その様子を見ながら風音が口を開く。それは、つい先ほど勢いよく声を上げた弟に対しての問いである。


『倒してみせるさって……え、あんたは参加しないよね? 無理だよね?』

「そこ突っ込むの? いや、待ってくれよ姉貴。連れてきただけでもなんかこー頑張ったと思うんだけど」


 ハガスとアオたちの戦闘が開始されている前で、冷静に尋ねる風音に直樹がそう返す。緊張感の欠片もないが、風音がそう思うのも当然ではあった。以前の風音ならばともかく、今の自分や直樹があんな化物どもの戦いに参戦できるはずもない。

 今の直樹の実力から言えば頑張れば一応の戦力にはなるのだが、直樹もあえて言い返さない。勢いで飛び込むには目の前で起きているドラゴン同士の戦いは苛烈過ぎたのだ。


「よぉ。少しかかったんじゃないか。ヨハンから連絡はあったんだろ?」


 その直樹に、後ろから手にビーコンを握っているジローが近付いてきて声をかけた。直樹たちはそのビーコンの座標に従い、長距離転移装置ポータルを使ってここまでやってきたのだ。

 ジローが持つビーコンは、ジンライがとっさに不思議な強靭袋の中に入れたもので、直樹への連絡はヨハンがメールで飛ばしていたのである。

 元より頂上付近で直樹を呼ぶ予定ではあったし、ビーコンが入っているのを見たジローはすぐにでも直樹が来ると考えていたから、オールドジンライを相手にしていてもまだ諦めていなかったのだ。けれども、直樹がここにやってきたのはギリギリのタイミングであった。それから、直樹が苦笑いを浮かべながら「悪いな」と返す。


「この場所、転移装置ポータルが繋がりにくかったんだよ。あの浮遊島か、魔力の川ナーガラインの流れが強すぎるせいか分からないけどな。どうにか調整して、最速で飛んで今だったんだ」

『ふーむ。受信アンテナが一本になってそうな場所ってことだね』


 風音の例えに直樹が「そんな感じ」と返すが、ジローには意味がわからなかった。


「けど、間に合って良かった。もう帰還の楔リターナーズ・ステイカーで行こうかとも思ったんだけど、そっちは最後の手段だしな。このまま……」

『なるほど。お前がこの作戦の要というわけだな』

「なっ?」


 直樹が話している途中で、突然老人の声と共に空からドサリと落ちてきた物体があった。風音たちが一斉に視線を向けたが、そこには膝をついて着地している魔生石化オールドジンライがいた。それからオールドジンライはゆっくりと立ち上がると、直樹を睨みつける。


帰還の楔リターナーズ・ステイカー、厄介な力よ。お前という緊急脱出手段があるからこそ、悪魔の本拠地にも少人数で乗り込めたわけだな。であれば、それを断つことこそこの流れを断ち切ることにもなろう』


 オールドジンライの言葉に直樹の顔がこわばる。

 直樹は己がオールドジンライの標的になったのだと理解したのだ。

 その様子に慌てた風音が後ろで戦うハガスたちを指差した。


『えっと……ほら、ジンライさん。あっちに参加していいんだよ? 私たち、観戦組だから』

『いいや。この場でお前たちを放置する方が危険だ。だからここで』

「ワシが」『倒す!』


 オールドジンライが駈け出すと同時に、風音たちの背後からメカジンライとシップーに乗ったジンライが飛び出した。そのままジンライとメカジンライの突きに対してオールドジンライが『ぐぬぅ』とうめきながら二槍で受け止め、その勢いを利用してとっさに後ろへと跳び下がった。


『ジンライさんッ!』


 喜びをあらわにした風音に、ジンライは振り向くことなく「遅くなったな」と返す。メカジンライと共に構えている槍はオールドジンライに向けたまま、視線も一切逸らさない。油断できぬ相手だとはジンライ自身が一番分かっているのだ。


『来たかワシよ。ガイエルはどうした?』

「ああ、アレなら多少小突いただけで尻尾巻いて逃げおったわ。おかげで他の悪魔どももさっさと倒せた」


 そう口にするジンライの後ろからヨハンとマーゴ、それにハイヴァーン騎士団が近付いてくるのが見えていた。それを、目を細めて眺めながらオールドジンライが『なるほど』と頷く。


『かつて大陸を手中に収めかけたとはいえ、所詮は王であっても戦士ではなかったというわけか。まあ、良いか』

『うるせぇっ、逃げてねぇよ』


 オールドジンライが構えたところで、上空から少女の可憐な声と共に無数のミサイルが落ちてくる。それに対してジンライは動かず「ナオキ」と声を上げた。

 そして、直樹はすでに神滅竜殺の骸魔剣エクスを構え、その場で剣の魔物を大量に召喚していたのだ。


「分かってますよジンライ師匠。やれエクス!」

「ガカカカカカカッ」


 直樹の頭上から一斉に飛び出していくソードレインが、空から飛んできたミサイルを次々と落とし、空中で無数の爆発が起きていく。その爆煙の中をガイエルが突っ切ってくる。その姿は先ほどに比べ、より両手足の装備はゴツく、ランドセルはさらに大型化していた。


『その男を殺しきれねえから、装備を変えてきただけだ』

『あなたなのですかガイエル!』


 だが、そのガイエルに向かって突撃してくるドラゴンがいた。その青い姿を見て、ガイエルが目を細める。それは彼にとっても良く知る者だった。


『お前、アオか。そういや、てめえも生きてたんだったっけなぁああ』

『六百年前の戦いの続き、ここで決着を付けてあげます!』

『お前程度がかッ。舐められたもんだな、そりゃあ』


 そう言い合いながらガイエルも方向転換し、迫るアオと空中で激突し合い、そのまま空中戦に入っていく。


「まあ、アオ様は六百年前の戦いを乗り越えたお方。ガイエルは宿敵であろうから無理もないか」


 ジンライがそう口にして、オールドジンライへとにじり寄る。対するオールドジンライもまたジンライとメカジンライを標的に定めていた。


「ジロー。役目を果たせよ」


 そしてメカジンライとジンライの乗ったシップーが一斉に駆け出し、オールドジンライとの戦いを開始した。それから声をかけられたジローが「仕方無えな」と口にしながら、不思議な強靭袋を開く。


「こっちはこっちで仕事するぞ。まあ、このまま決着付くかもしれないけどな」

「いいえ、それは無理よ」


 封印解除の魔法具を取り出しながらジローが呟いた希望的観測を、山を登ってきたマーゴがあっさりと否定した。


『マーゴさんたちも無事だったんだね』

「ジンライさんのおかげでね。それよりも上を見なさいな」

『浮遊島の端に相当な数の悪魔が集まっているんです。もう今すぐにでも下りてきそうで』


 合流したヨハンとマーゴの言葉を聞いて、風音たちが空を見上げると確かに悪魔らしき者たちが、浮遊島の端に集結しつつあるようだった。それから直樹が苦い顔をしながら口を挟む。


「こりゃ、上からだけじゃあないな。山の下の方からも黒い魔物がかなりの数登ってきてるみたいだ。姉貴たち、よくあれを抜けられたな」


 遠見のイヤリングを使って遠隔視をしながら直樹がそう口にする。上空の悪魔を観察しようとした結果、登ってくる魔物たちにも気が付いたようである。


『うーん。ここに来るまでに悪魔とは登山口くらいでしか遭遇してなかったんだけどね。もしかしてヨハンさんのルート、完全に成功だったのかも?』

『かもしれませんね』


 風音の言葉にヨハンが頷いた。

 攻略サイトを運営していたオロチによって導き出された洞窟ルート。それは悪魔たちの裏をかき、目的地で待ち伏せしていたガイエル以外をすべてスルーしていたようであった。ともあれ、状況は切迫している。上としたからの軍勢がくれば、さすがに対処しきれない。


『急ごう。あれらが到着したら均衡が破られるよ』


 風音の言葉に全員が頷くと、彼らは当初の目的通りに浮遊島の結界を破るべく動き出した。そして、ドラゴン同士の、かつての因縁同士の、ジンライ同士の戦いとともに、風音たちは時間との勝負に入ったのであった。

>圏外です


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