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まのわ ~魔物倒す・能力奪う・私強くなる~  作者: 紫炎
最終章2 希望の目覚め編

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第九百七十六話 ふたつに分けよう

「あっちの世界に行こうって、元の世界だよな?」


 直樹の言葉に風音が『うん』と頷く。


『話を聞いてるだけじゃあやっぱり分からないしね。オリジナルの私はともかく、弓花が死んだって話だけ聞いても私は納得しないし、タツオたちは死んでるとも言われてないんでしょ。というか、私がタツオを殺させるわけないんだから生きてるだろうし』

「それは……」


 直樹が何かを言おうとしたが、風音はそれを聞かずに『だけど』と続けた。


『何をどうするにせよ、あっちに行かないことには始まらないもの。だから私はあっちの世界に行くよ』


 その風音の言葉に直樹が苦い顔をしながら言葉を返す。


「姉貴。知の神アナハスの神官たちから、こちらとあちらの世界は断絶されてるって言われているんだ。状況的に考えれば悪魔によって妨害されてるんだと思う。どうやってるのかは分からないけどな」

『となると繋がってる別のダンジョンを探ってみるだけじゃあダメってこと?』


 風音の問いに直樹に、ナーガやスザも共に頷いた。

 その反応に風音は「だったら」と口にする。


『悪魔の方もどうにかしないと駄目ってことか』

「どうにかって……アイツらは今アバドンって化け物を喚ぼうとしてるんだ。だから俺たちは、あいつらと戦っているんだよ」

『え、それを最初に言ってよ?』

「あ、ごめん」


 直樹は続けて説明をするつもりであったのだが、それを遮ってあっちに行くと言ったのは風音だった。だが、弟は姉の横暴をグッと飲み込んで堪えた。大人の対応である。


『うん。けど、弓花やタツオを助けるためにも必要なことだものね。なんだ。やることはやってるじゃんね、直樹も』


 そういってバシバシと背中を叩く風音に、直樹が、それからナーガが少しだけバツの悪そうな顔をする。

 実際、そうした気持ちがゼロだったかというとそういうわけではない。だが、彼らがほとんど諦めていたのは事実であった。それだけ風音と弓花の死が絶対的な宣告であるように彼らは感じていたのだ。だから動機の大部分を彼らは仇討ちに寄せていた。その思いは、今の風音の反応に対して後ろめたくもあった。


「俺たちは……いや、そうだな。あいつらを助けるために……そのために悪魔を倒そうとしないと駄目なんだよな。ああ、本当にその通りだ」

『くく。あははははははは』


 頷く直樹に続いてナーガが笑い始めた。その反応に風音が首を傾げると、ナーガは『さすが我が后だな』と口にする。


『そうだ。そうであった。我は何を呆けていたのか。そのまなこを曇らせすぎていたわ。なるほど。であれば、スザよ。あれを出せ。手早くな』

『は、はい。承知いたしました』


 ナーガの言葉にスザが慌てて部屋を出ていく。

 その様子に風音と直樹の双方がどういうことだろうかという顔をしたが、ナーガは『しばし待て』とだけ口にしてスザの帰りを待つように促し、それから十分ほどが過ぎてようやくスザが戻ってきた。そして、その手には一本の剣を携えていた。


『剣?』


 風音の見る限り、スザが持っているのは紅色の透明な刃を備えた剣であった。また、その剣から発せられる強烈な気配は、今風音たちの前にいるナーガと全く同じように感じられた。


「ナーガ様。お持ちいたしました。見事に力も安定しております」

『うむ。上手くできあがっておるな。相も変わらず見事な腕よなスザ』


 剣を爪と爪で挟んで受け取ったナーガの賞賛の言葉に、スザが頭を下げる。それからナーガは、風音たちへと視線を落として口を開いた。


『見よ。これは神竜帝の剣ナーガスという。我が水晶角の一本を折って力を注ぎ込み、それをスザが打った至高の一本だ』

「ナーガ様の力が注がれた剣……ああ、すごい魔剣だ。見るだけで震えが来るほどだな」


 直樹が冷や汗を手で拭いながら、そう口にした。

 その剣を造り上げることこそがナーガがここ最近集中して行っていたことだった。里を離れられぬ己の代わりにその剣を託そうとしていたのだ。そして、『魔剣の支配者』をさらに進化させたスキル『魔剣と合一せし者』により、直樹には神竜帝の剣が持つ力の強大さが否が応にも理解できていた。


『これを我は直樹に与えようと考えていた』


 ナーガの言葉に、思わず直樹の鼓動が高鳴った。

 だが、果たしてその剣を己が扱いきれるのかが直樹には分からない。そのあまりにも強力な気配に自分の身体が耐えられるのか……そのことを考えて、それから己の内の恐怖を抑え、覚悟を決めた男の顔をした直樹がナーガへと向き合う……その次の瞬間だった。


『これを、こうだ』


 魔剣をナーガが目の前であっさりと折ったのだ。


「ぁあああああああああああああ!?」


 唐突な状況に直樹が絶叫する。

 なんてことしやがるッ、俺にくれるんじゃないのかよ……という気持ちをナーガへと直樹は向けたが、ナーガはそんな直樹の様子など気にもせずに風音へと口を開いた。


『これは我が半身とでも言うべき剣だ。さあ、カザネよ』

『何? 旦那様』


 問う風音の前に、折れた刃と残された柄がそれぞれ浮遊しながら下りてくる。


『今のそなたの身体は、それなりに強化はされているにせよ、ただの水晶ゴーレムだ。コアはベビーコアそのものとなりつつあるようだが』

『ああ、出力できる魔力が高いとは思ってたんだけど、そうなってるんだね』


 風音が己の起伏のない胸を見て、そう口にする。風音ちゃん人形にしては、出力されている魔力が余りにも桁が違うと風音も思っていたのだ。


『そうだ。我には見える。その内にある、かつてのベビーコアの欠片が今では真球となって脈付いておる。原因は分からぬが、恐らくそうなったからこそ、そなたは動き出せるようになったのだ』


 その言葉に風音が『へぇ』と言いながら、己の内のコアを改めて感覚的に探ってみた。言われてみれば、確かに欠片という感じはしない。丸いと言われれば、そのようにも思えた。


『それでも今のそなたの力だけでは悪魔に対抗するには心許ない。だからこそ、これを託す。ウジウジしている男にはもったいないシロモノであるからな』


 その言葉に直樹が肩を落として横にいたスザが慰めるが、ナーガは気にしない。

 それから折れた刃が小さな剣に、装飾の多かった柄が小振りの盾へと今の風音のサイズに合わせて変化していき、そのまま風音の手の中に収まった。


『うん。旦那様の力を感じるね。盾の方からは出会った頃の旦那様の力が流れてくるし、剣からは今の旦那様の力を感じる』

『ああ、そうだ。刃には魔王の核を得た我が力を凝縮し、盾には砕けた我の核、レインボーハートの欠片を宿らせておる。そなたに贈った指輪と同様のな。名はそうだな。神竜帝の護剣と神竜帝の護盾と付けようか』


 その言葉を聞いて、風音が嬉しそうに剣と盾を眺めた。その武具には包み込むような暖かさがあった。


『力こそひとつであったときよりも弱くはなっておるが、それならばそなたの力にもなろう。止めてもそなたは自ら悪魔との戦いに身を投じるであろうからな。我からのせめてもの手向けよ。そして、ナオキよ。そなたもいじけておるでない。そなたにとっても、これがもっとも良い選択のはずだ』

「いや……確かに。けど、俺にくれるって言っといてすぐさま折るってのはヒデェよナーガ様」

「まあまあ、ナオキのために私の方でいくつか魔剣を用意してありますので、それで気を鎮めてください」


 スザの言葉に「だったらいいけどさぁ」と直樹が口を尖らせながら言うが、


『小さき男よな』

『まったくだよ』


 続けてのナーガと風音の言葉にさらに肩を落とした。それから直樹がガバッと顔を上げる。


「あーもう。うるせえよ。で、姉貴。悪魔をどうにかするって言うけどさ。当然どうすればいいかなんて分かってないよな?」

『うん。根城にしている可能性のある天帝の塔を探せば良いとは思うけど、それ以上はノープランだね。けど、そこらへんは直樹がどうにかしてくれてるんでしょ?』


 その風音の言葉に、直樹が頭をかきながらニヤリと笑う。言われるまでもなく、直樹は今日までずっと準備してきた。後ろ向きな動機だとしても、ここまでの行動は直樹にとって誇れるものだったと自負している。


「当然だろ。天帝の塔の場所なら分かってる。シュミ山の上、ようするに元あった場所にまだあるらしいんだ。ゆっこ姉が見つけたんだけどな」

『元ある場所? ゆっこ姉が? てことは、もしかして天帝の塔って移動せずに隠されてただけってこと?』


 風音の目をぐるぐると動かしながらそう口にするが、その認識は概ね正解であった。ゆっこ姉が発見したということは、真実の目の額飾りホルスアイ・サークレットの力を使ったのだろうともすぐに予測が付いた。一方で、風音にとって予想外だったのは天帝の塔が場所を動いていなかったということであった。


「さすが姉貴。察しがいいな。そういうことだ。で、今ジンライ師匠たちがシュミ山の麓に向かってる。ケイローンに乗ってな」

『ジンライさんたちが?』

「ああ。俺たちは、今はルイーズさんの悪魔狩りに所属しててさ。シュミ山の麓に今悪魔狩りのベースがあるんだよ」

『んー、よく分からないんだけどさ。ジンライさんたちが行かなくても、帰還の楔リターナーズ・ステイカーの刻印を悪魔狩りの人に運んでもらえば早いんじゃないの?』


 その風音の問いに、直樹は首を横に振る。


「ビーコンや俺の刻印を刻んだアイテムをあっちに運べればいいんだけどな。途中で悪魔にそれを奪われて転移先で待ち伏せでもされたら終わりだから、師匠たちには陸路で向かってもらってるんだよ。で、俺はジンライ師匠に預けた刻印入りアイテムを使って帰還の楔リターナーズ・ステイカーで後から合流する予定だったんだ。師匠たちなら刻印を奪われるってこともないだろうしな」

『なるほど。まあ、そうだね。で、ということは次の目的地はシュミ山?』

『いや……』


 風音の言葉にナーガが口を挟んだ。


『その前に魔法温泉街に戻るが良いカザネ』

『旦那様、それはつまりマッカさんたちに謝ってこいと?』

『そういうわけではないのだが……』


 ナーガは温泉街にいるマッカのことはほとんど知らない。だが別の存在は知っていた。そして、その者ならば今の風音の力になれるはずだと確信していた。


『鷲獅子竜ライ……グリグリに会うのだカザネよ。あれならば必ずそなたの力になってくれるだろう』

>圏外です


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