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苔むしたコンクリートの板が、湿って固い土の地面に飛び石代わりに無造作に並べられ、
紫陽花や山茶花、木犀の木などが体育館の外壁に沿って数本植えられ木蔭を作っている。
3メートルほど先を身長より高く生い茂った手入れされていない木が生垣になって囲んでいて、
その向こうはアスファルトの通路、誰かが話しながら通り過ぎる気配がするけれど、
この位置は死角になっているようだ。
壁に体重を預けてしゃがみこみ、喘ぐように日陰の湿った空気を吸い込もうとしたけれど、
胸が詰まって思うように入ってこない。
右手でシャツの胸元を掴む。
差し込むような痛みに、く、と、声が出そうになって、咄嗟に左手で自分の口を押さえる。
かみさま、ごめんなさい。
この痛みが訪れる時、いつも、小さな子供が泣いている。
謝るばかりで、許してくれとはいわない。
ごめんなさい。
何に対しての謝罪なんだろう。
生まれてきてしまった事、生き続けている事、受ける資格のない愛を与えられている事。
嗚咽が喉の奥を震わせ、口元を押さえる左手の甲を、涙が伝う。
いたいよ。
むねがくるしいよ。
おかあさん。
次に訪れた痛みに、体をくの字に折り、押さえきれず小さく声が漏れる。
ガチャ、という音に、全身が小さく跳ね上がる。
「修!」
いつき。
ちらりと顔をあげると、真紅のTシャツの上、驚きと不安で目を見開いた友人の顔が見えた。
「どうしたの、待って、すぐ誰か呼んで…」
隣にしゃがみ込んで様子をうかがい、すぐ立ち上がろうとする彼の腕を必死で掴んだ。
左手を伸ばして這うように膝で少し進み、開け放たれたままのドアを閉める。
「なんで、だって、病院に。」
頭を激しく横に振って言葉と行動を止めようとする。
ふ。
ふいにこぼれてしまった声を、再び左手で抑え込む。
つい、彼の腕を掴む右手にも力が入ってしまう。
「しゅう…。」
呼びかける、泣きそうな声。
説明しようにも言葉が出ない。
少しだけ遠のいた痛みの間。
「…さ、まる、から。お、さまる、から。」
だから、大げさにしないで。誰にも言わないで。
彼は、自分の左腕を掴む僕の右手をそっと外し、そのまま、背中を撫でてくれた。
「痛いの?大丈夫?」
いたいし、だいじょうぶじゃない。
そんなひねくれた言葉がよぎるけれど、彼の肩に額をあてて力を抜こうとする。
徐々に、痛みが去っていきそうな気配がし始めていた。