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P7

クラスマッチ当日。


昨日の明け方まで降っていた雨がうそみたいにきれいに晴れた。

梅雨の中休み、外の競技も予定通りできそうだ。

全校生徒、約1900名が参加するため、さすがに学校の敷地内での開催は無理で、

県の総合運動場と体育館で行われる。

クラスの女子数名が立候補してデザインしてくれたクラスのTシャツは、

真紅をベースに背中に大きく黒で必勝祈願だという梵字と、各人の名前が描かれていて、

左胸には毛筆っぽい字で「椎野組」「1-1」と入っている、シンプルだけれど目を引くものだ。

一年生の学年カラーも赤で、ハチマキともぴったり。

一年生はそれ程でもないが、2.3年生の女子は事前に聞いていたとおり、髪を派手に飾っていた。

顔や腕にペインティングをしている先輩達もいる。

普段の厳しい校則の反動もあるのだろう。

とても開放的でみんな楽しげで、わくわくしてくる。


あの放課後の練習の日の翌日、なんとなく湊と顔を合わせるのが気まずかったけれど、

朝の挨拶も、一緒にお昼を食べるのも、その後のバレーの練習も、

何事もなかったようにいつも通りに接してくれてすごくほっとした。


あれだけ練習したんだ。

手伝ってくれたみんなや先生、一緒に練習してすごく上達したクラスメイト達のためにも全力を尽くそう。

メガネを外すのも鉢巻で髪を押さえて顔を出すのも、やっぱり少し抵抗はあるけれど、

バレーをするのには邪魔だ。

思い切ってメガネを外して出場する事にして、トイレの大きな鏡の前に立ち、自分の顔を見返す。

大丈夫、誰も、気になんてしていない。


そんな風に決意して、初めはちょっとおどおどしながらトイレから外に出たけれど、委員長の雑用は多い。

遅刻者、欠席者の確認、それに伴う選手の変更、対戦順のクジを引き、

その結果や開会式の集合時間をクラスのみんなに知らせる。

一組は比較的集合時間を守ってくれる生徒ばかりけれど、

自分から見るともうちょっと早くならないかなと思うことが多い。


大会本部で、決定した対戦相手と、体育の授業でも説明されたルールの確認をしていると、

担任の椎野先生が何か言いたそうにこちらを見ている。みんなに伝えておく伝言かなにかあるんだろうか。

体育館の2階観覧席で着替えや準備をしているみんなのところへ戻る前、声をかけてみる。

先生から出た言葉は、「佐倉、鉢巻似合うなあ。」だった。

この忙しいのに、何をわけのわからないことを言っているんだろう。

「はあ、どうも。」と、半分呆気にとられて聞き流して、早足でみんなのところへ向かった。


観覧席へは一旦アリーナから通路に出て、長い階段を昇らなければいけない。

学年別、クラス別に固まって席を取ることになっていて、階段の左が3年生、右側が2年生。

1年生が指定されている場所は、2年生のさらに奥、階段からちょうど対角線の反対側で、

3年生の正面の位置。

すでにほとんどの生徒が着替えて談笑したり、靴紐を直したりしている。

色とりどりのTシャツがパッチワークのように席を埋めている。

当日は体育館に現地集合で、少し早く着いてしまって、まだ人のまばらなうちに準備を済ませ、

所在無くしていたところを実行委員の先生に捕まり、

本部の設営を手伝わされ、そのまま委員長の雑用に奔走していたので、観覧席にあがるのは今がはじめて。

一組はどのあたりに席を取っているんだろう。

2年生の席の後ろを進みながら、自分が着ているのと同じ赤のTシャツの集団を探して苦笑する。

一番奥の最前列のブロックにいる。はっきりいって、遠い。

通路に立つ数人の生徒を避けながら、観覧席の階段を小走りに降りる。

一番前、すぐ目の前の手すりから見下ろせばアリーナという場所に伊月の背中が見えた。


「おはよ、ここいい?」


前に回り込んで隣の空いていた席を視線で示してと声をかけると、


「え、ああ、うん。」


と、ちょっとぼうっとしたような返事が返ってきた。

朝早かったからまだ寝ぼけているのかな。

その様子がちょっとおかしくて、思わずくすっと笑いながら肩から提げていた荷物を座席に置いた。

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