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お昼休み、急いで昼食をとってバレーの練習をするようになって2週間くらいが過ぎた。

もう一人の経験者もすぐに参加してくれるようになった。

初めはそれこそ、まともにボールも返せなくて、情けなさに挫けそうにもなったけれど、

さすがにコツが掴めてきた。

2人とも、特に湊は教えるのがとてもうまい。

いい感じに返せた時は、喜んでくれるだけじゃなく、どこが特によかったかも一言付け加えてくれるし、

失敗した時は逆に、よくなかった所を丁寧に教えてくれる。

時に椎野先生も練習を見に来てくれて、その時は湊たちもコーチ役から練習生になってしごかれている。


「修はさ、レシーブより、トスがすごくいい。

 欲しいところに欲しいタイミングで、正確で気持ちのいいトスが来る。」


我ながら単純だなって思うけど、そんな風に褒められて、ついバレーに夢中になる。

図書館で本を手にとってみたり、家では上達のコツが書かれているHPをネットで検索したりもした。

少しずつ練習に参加してくれるクラスメイトが増えてきて、今は登録選手全員が昼休みの練習に参加するようになった。

いつの間にか、周りには一年一組以外の練習の輪ができていた。


ゼミのない日は放課後も、家から持ってきたTシャツに着替えて練習した。

夏至が近くなってずい分陽が伸びて、夕方遅くまで明るいのがうれしい。

さすがに放課後まで練習に参加する人は少なかった。

伊月も家庭教師と塾を掛け持ちしていて、しぶしぶと名残惜しげに帰る日がほとんどだ。

ちょっと心配になって湊に勉強の事を聞くと、テストが近くなったら教えろ、とあっけらかんと言う。

思わず笑って、自分でよかったら、と了承した。


何人かで練習するのも楽しいけれど、今日みたいに湊と二人だけだとやっぱり気楽で、

ゆったりリラックスして練習ができる。

西日の差す校庭の隅でパスが続くようになると、体がほぐれて汗をかくようになった。

以前の、失敗ばかりしていた時のひやっとした汗とはまるで違う、

今まで経験したことのない気持ちのいい汗だった。

陽も傾きかけて練習を切り上げる事にして、顔を洗いたくなった。

いつも身につけている黒縁のメガネを外して、用意しておいたタオルと一緒に水道のコンクリートの上に置き、

数度、ぱしゃぱしゃと顔を洗ってタオルで水気を拭う。

乾いたタオルの、あたたかな香り、程よい疲労感。

まだ水滴の伝う髪に、湿気の残る肌に、初夏の夕暮れの風が心地いい。

いつもは顔にかかるようにおろしている長めの髪も、

後ろに撫でつけるようにかきあげて肌全体で風の通り過ぎる感触を楽しんだ。

全身がコトコトと脈打っているのが、少しくすぐったい。


ふと気が付くと、湊がじっと自分を見ている。

急に居心地悪くなって、視線を避けようと、それとなく違う方向を見るフリで俯いて背中を向けると、

ぐ、と、左肩が引かれた。

驚いてとっさに振り返ると、思っていた以上に近く、湊の顔があった。


「今まで気が付かなかったけど、修ってめっちゃきれいな顔してるのな。」


きれいなかお。

いきなり胸が詰まって、いろんな光景がフラッシュバックする。

細いあごの、左右対称の美しい女性の唇が笑みの形に口角を上げていく。

パシ。

その音と、左手の甲の痺れるような痛みにはっと我に返る。

目を見開いて自分を見る級友の手首辺りが、ほんのりと赤い。

無意識に手の甲で払ってしまっていたようだ。


「ごめん。」


やっとそれだけ言って、メガネに手を伸ばす。

掛ける指先が、冷たく、かすかに震える。


「いや、こっちこそ。大丈夫か?」


髪を両手で梳いて、いつものように顔にかかるように伸ばしながら、ぎこちなく2、3度頷く。

数秒、戸惑うような空気があって、


「立ち入るようだけどさ、なんか、あった?」


と、遠慮がちに聞かれた。


「顔、きらい、だから。」


嫌いなのは、顔だろうか。この顔を持つ、自分自身だろうか。

さわ、と、また夕暮れの風が吹いて木立を通り過ぎていく。

遠く、運動部が練習する声が聞こえる。


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