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P30

普段は日付が変わるまで起きていることなんて滅多にない。

今日、実際はもう昨日、は、それでなくても濃密で、長い一日だった。

ワインの酔いも手伝って、伊月の声が遠くなる。

数度、かくんと頭が落ちて、寝ようか、と、笑いながらいわれた。

伊月のベッドは二人で寝ても十分な大きさがあった。

一緒でいいよね、というので、ぼんやりした頭で、うん、と答える。

横たわると気持ちよく体が沈んで。記憶にあるのは、そこまで。


目が覚めると、カーテンの裾から白い光が漏れている。

ああ、朝だと思って時計を見ると、9時過ぎだったので、驚いて2度見してしまった。

伊月は、まだぐっすり寝ている。

いつもは5時半頃起きているから、具合が悪かったわけでもないのに、

こんなに遅くまで寝ていた事は初めてかもしれない。

動揺したけれど、よく考えたら今日は特に用事があるわけでもない。

まあ、いいか、と気を取り直して仰向けに寝なおして天井をみあげた。

そうしながら昨日あった事を思い起こしていると、隣で伊月がもぞもぞと動く気配がした。


「しゅう?」


「起きた?おはよう。」


夜更かしのせいか、ワインのせいか、少し腫れたまぶたで何度かまばたきして、

なんかたくさん夢を見た気がする、といいながら目をこする。


「こすっちゃだめだよ。」


「なんだっけなあ、全然思い出せない、まあ、いいか。」


ぼんやりした言葉に、つい笑ってしまう。

借りた服はクリーニングして返すといったけれど、いいからと断られて、甘える事にした。

なんとなく別れ難い気がしたけど、帰らないと祖母が怖い。

実際、電話口で、突然夕食は要りません、友人宅に泊まります、

で、連絡もなく朝食にも戻らないとはなんですか、もうお昼前ですよ、と怒られた。

昨日あった事をざっと説明し、細倉さんの話をすると、あっさり機嫌がよくなったので助かった。

それから数日後、

僕が講習で学校に行っている間、細倉さんがお線香をあげにきてくれました、

修輔さんに会えなくて残念がっていました、と、祖母がうれしそうに話してくれた。


お盆が過ぎて、夏休みも終盤になると、学校の夏期講習の予定はもうなかった。

伊月はほぼ毎日メールをくれて、2~3度やり取りをするのが日課のようになっていた。

週に2回くらいは家に誘われて、そこで湊とも会った。

その日もでかけようとしていると、祖母から、

細倉さんのところに寄って、渡してもらいたい物があります、とお使いを頼まれた。

僕の家と学校に近い伊月のマンションは、2駅分離れている。

ジルエットはその間にある駅に近い。途中下車をして寄れば、そんなに遠いわけではない。

了承すると、キュウリやトマト、パプリカがぎっしり入った、大きなエコバッグを渡された。

あまりの量に唖然として、こんなに、と、ついつぶやくと、家で採れた野菜のおすそ分けです、

よろしくおねがいしますね、と当然のように言われた。

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