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P3

「やりたい係の立候補があれば優先的に埋めて行きたいと思うんですが。」


言葉を区切って見回しても、予想通り戸惑うような表情ばかり。


「では、決めるのに何か案があったらお願いします。」


前から2列目の窓際から3番目の席で手が上がる。秘かにほっとして、指名する。


「高城君。」


「クジで決めるってのどう?」


だよね。

少なくとも教科係は、授業数の違いで仕事の拘束時間が大きく変わってくるだろう。

委員長同様、現状では誰が適当かなんてわかるはずもない。

誰がなっても大差なければ、クジなら恨みっこなし、妥当な方法だ。


「他に案がなければ、」


彼の案に心の中で同意しつつ、そこまで言った時、廊下側奥の方から遮るように声がした。


「成績順でいいんじゃないの。」


ピリっと嫌な刺激を含んだ声。

後ろから2列目、廊下側から2番目。席順表で確認する。戸川拓実、真柴中。


「戸川君、かな。成績順ってどういう。」


「クラスが変わる可能性の低い、前のヤツから入れていけばいいだろ。」


チリン。

鈴の音が発する警告に、胸に暗雲のように広がろうとする苛立ちを秘かに息と共に吐き出す。

なんであからさまに突っかかるような言い方をするのかな。

軽く瞠目した時、ふと違和感が過った。


「先生、すいません。係の任期っていつまでですか。」


パイプ椅子に座ってレジメに視線を落としていた先生に声を掛ける。

一年じゃないの、という小さな女子生徒のつぶやきが聞こえたけれど、そっちは振り向かなかった。


「ああ、言い忘れたな、係は夏休みまで、だ。係は学期ごとに変わる。」


「任期が一年続くのは、委員長と副委員長だけ。」


「そういう事です。」


満足気に、ご名答という表情でそう答える。

やっぱり。まさか、わざと黙っていたわけじゃ。

うんざりする気分を押し殺して、クラス全体へ向き直る。


「夏休み明けには係を決めなおすそうです。今出ている案は、クジと成績順。

他になければどちらがいいか多数決をとります。」


ああ、戸川君、そんなに睨まないでよ。別に君に恥をかかせるつもりじゃ。

僕のせい?僕のせいなのか?

挙手を頼むと、クジが大多数、成績順が教室後方の席で数名。


「では、クジで決めたいと思います。今作るから、ちょっと待ってください。」


いい終えて、自分の席に戻り、ペンケースと一枚抜いたルーズリーフを持って教壇へ戻る。

縦に32本の線を引き、その下に適当に係名を並べていく。

書き終えて隣で覗き込んでいた神崎君の表情をうかがうと、いいんじゃない?という風にこくっと頷く。


「ここから順番に前に出て、好きなところに自分の名前を書いてください。」


最前列窓際、といっても自分と神崎君の隣から廊下側に向かって、と視線で指示する。

机と机の間は、広く通路がとってあり、充分にスペースがある。

みんなスムーズに並んで名前を書き込み、自分の席へ戻っていく。

クジの空欄がほぼ埋まった頃、なぜか、ふん、と見下すように、戸川君が自分の名前を書きなぐる。


「低成績者は後回しかよ。」


そんなに大きな声ではなかったけれど、比較的シンとしたクラス全体に響いたはずだ。

ざわ、とみんながこちらに意識を集中するのがわかった。


チリン。

こんな時に。治まりかけていた警告が、さっきより強く響く。

これは、鎮められないかもしれない。その予感に焦り、思考が混乱する。


「戸川君って、低成績者なの。」


自分で押さえる間もなく、思わず言葉が漏れる。

教室全体に緊張が走る。やば、やっちゃった。

戸川君をみると、今にも殴りかかってきそうな表情でこっちを睨んでいる。


「自分と神崎君以外の順位は知らないんだ。

 クジを引く順番は、前からの方がスムーズそうだと思っただけ。

 ひく順番で損得もなさそうだったから。

 他意はないんだけど、嫌な思いさせちゃっていたら、ほんと、ごめん。」


そういって、深めに頭を下げる。

緊張の糸がわずかに弛んで、一気にクラス全体がざわめく。

多分、席順は前列窓際から成績順なのだろう。

予測はつくけれど、あくまで予測。確定事項じゃない。

戸川君は目を見開いて硬直したように数秒その場に立っていたけれど、

踵を返して自分の席へと戻っていった。

まだクジを引いていない数名は、困ったような恥ずかしそうな表情を浮かべ、

そそくさと名前を書き込んだ。

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