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P24

「おわびだけ、させていただこうと思って来ました。

 お騒がせしてしまって、本当にごめんなさい。」


失礼します、と、伊月と退室しようとすると、ちょっと待って、と止められた。


「夕食は?まだ食べていないのでしょう?」


確かにそうだけど、もう食欲は吹き飛んでしまっていた。

どう答えていいか戸惑っていると、食べてお行きなさい、と客席へ案内された。

まだ少し困ったような表情をしている伊月を促がして、彼の後に続いた。


ざっとみてホールに4人掛けのテーブルが6、7個、ゆったりとした間隔で置いてある。

グランドピアノの向こう側の扉が開いていて、

その部屋の中にも同じようなテーブルがあるのが見えた。

どの席もきれいに整えられて、明日のお客様を迎えるために静かに眠っているようだ。

その内の一席、先のメートルが椅子の背もたれに手をかけて、こちらを見て待っているところに、

ディレクトールが先導してくれる。

このまま進んでいいものかと迷う素振りを見せると、彼自身、テーブルの反対側の椅子を引いて、

どうぞ、と勧めてくれる。

無碍にするのも申し訳なく、僕はディレクトールの、伊月はメートルのひいてくれた席についた。

早速、メートルが手に持ったボトルから、グラスに水を注いでくれる。

ディレクトールは、ごゆっくり、とその場を去ろうとした。


「細倉さん。」


伊月が、鼻にかかった声で呼びかけると、ディレクトールが振り向いて、首をかしげる。


「細倉さんは、その、ごはん、もう食べたの。」


いいえ、と応えるのを聞くと、もじもじと言葉を選ぶように、よかったら、一緒に食べない?

といって、口をつぐんでしまう。


「名乗るのが遅くなりました。私、この店のディレクトール、

 そうですね、店長といったところでしょうか、務めております、細倉と申します。」


それではよろこんでご相伴いたしましょう、と笑顔で言って席に着くと、

そう自己紹介してくれた。

ここ、ジルエットは、伊月のおじいさんが社長だった頃に作った、神崎グループのお店で、

自分は雇われ店長なんですよ、と教えてくれた。

話している間、メートルによっててきぱきと彼のテーブルセッティングがされる。


「佐倉修輔といいます。伊月君の高校の同級生です。」


伊月は、さっきこの店を出た後、修に謝って来いと怒られた、と恥ずかしそうに告げた。

そうでしたか、と、細倉さんがうなずく。


「伊月さん、いいお友達をお持ちになりましたね。」


そういわれると、僕はすっかり照れてしまったけれど、伊月はすごく元気になって、

修は学年で一番成績がいいんだよ、それで、2番は誰だと思う?と身を乗り出して聞いた。

細倉さんが、わざとらしく惚けて、

はて、蓬泉高校のような優秀な学校で2番を取るような方に心当たりがないのですが、

と首をひねると、大げさに、ええーと頬を膨らます。

微笑ましくて、思わず僕まで笑ってしまった。

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