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そのお店は、駅前の繁華街を少し離れたところにあった。
レンガとアイアンの塀の向こう、漆喰みたいな白い壁、テラコッタ風の瓦屋根。
門にフランスの国旗が飾ってあって、
girouetteという文字と雄鶏らしいシルエットが描かれたプレートがはめ込まれている。
アーチから玄関までのアプローチには暖かい光のライトが灯してある。
外でも食事ができるのだろうか、涼しげな木々や草花がよく手入れされている庭の一角に、
大きなパラソルとガーデニングテーブルが置かれていて、
庭に面した建物の大きな窓から漏れる光に浮かび上がっている。
すべてが、なんとなくしっくりしていて、新建材のきれいなだけの建物とはどこかが違う。
ゆったりした雰囲気の、広々とした庭を持つ一軒家のレストラン。
こんなお店でご飯を食べるって考えただけで、なんだかわくわくうれしくなる。
伊月は、タクシーを降りる5分くらい前まで、いつもより饒舌だった。
なのに、いきなりぱたっと黙り込んでしまって、話しかけても曖昧な返事を返すばかり。
お店の前に立っても、なかなか入ろうとしない。無言のまま伊月の次の行動を待つ。
少し戸惑う時間があって、やっと店内へ続くドアを開けた。
「いらっしゃいませ。」
20代後半か、30代前半くらいの少しだけ勝気そうな印象の男性が近付いてきて、
そう声をかけてくれた。
素早く僕たちに視線を走らせた後、彼の頬になにか冷たい表情が浮かんで、
子供の来る店じゃない、と、言われた気がした。
「ご予約はいただいておりますか?」
「ないよ。」
店員さんの言い方も少し尊大な感じがしたけれど、伊月の憮然とした返事にぎょっとする。
「大変失礼ですが、ご予約をいただいておりませんお客様は」
「席あけて。」
遮る伊月の言葉に、僕も店員さんも息をのむ。
「しかし、」
「いいから。席、空いてるだろ。」
時間のせいだろうか、奥の方のテーブルに50代くらいの女性2人連れのお客さん一組だけ。
こちらの様子を気にして心配そうにちらちら様子をうかがっている。
「伊月さん。」
でようよ、と声をかけようとすると、奥から男性の声がした。
声の方を見ると、60代くらいの落ち着いた雰囲気の男性が驚いたような表情をしながら、
ゆっくりこちらに近付いてくるところだった。
僕たちのそばに立つと、穏やかに微笑んで、いらっしゃいませ、と頭を下げてくれて、
その微笑のまま、店員さんに、どうした?と聞いた。
「ごはん食べに来たんだけど。」
店員さんが答える前に、伊月がそういう。なんでキレ気味なんだ。
こんなに不機嫌な理由はわからないけれど、伊月の態度はひどすぎる。
「そうでしたか。では、こちらへ。」
「ディレクトール。」
60代くらいの男性、ディレクトールと呼ばれた人が、そういって案内しようとするのを、
最初の店員が抗議の響を込めて呼び止めようとする。
いいから、と、目で合図するのを不安な気持ちで見ているしかない。




