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蓬泉学園高等部。


私立高校としては県内トップの進学校で、海外有名校や国立大学への進学者も多い。

一方で運動、文化活動にも力をいれていて、

学業の成績が低めでも特待生としての入学が認められやすい。

生徒数も多い時では一学年で20クラスを超える年があるという。

反面、多めの寄付を支払えば入学できるという、拝金主義的な、経営重視の噂もあり、

それを裏付けるように、生徒の成績や学業に対する姿勢はピンキリで、

クラスは成績順に厳密にわけられる。

そのシビアさは近隣でも有名で、

新入生はまず入学式当日、最初の洗礼を受ける。

式が終わって保護者のみ帰宅後、昼食を挟んで実力テストが行われ、

その成績順にクラスがわけられるのだ。

今年の新入生のクラス数は17組。特別進学コースが1~5組、

普通進学コースが6~17組で、両者は教科書も授業数も違う。

基本的に15組以降は部活動に力を入れている者が多く、

授業内容も緩いようだ。

2年、3年と進学すると、理系、文系など授業内容の特化に伴い、

さらにカリキュラムは細分化していく。


この学園で特にシビアな点は、夏、冬休み前に行われる実力テストの結果如何で、

学年の途中であってもクラス替えが行われる点だろう。

さらに、春休み前の学年末のテストの成績で、翌年のクラスが決定する。

学年途中の特別進学コースから普通進学コースへのクラス替えは、

よほどでない限りない、とはいうものの、絶対にないわけではない。

中間、期末テストは上位者しか発表されないが、

この年3回の実力テストは、全員の氏名、成績が公表される。


気が抜けないのは生徒だけではない。

自分の担当域内での成績の上下はそのまま教師の指導力の評価になる。

生徒ひとりひとりの適性を見抜き、適切に指導できなかった者は、

翌年学園から姿を消す。


入学式の翌日は一日休みで、さらに翌日の今日が初登校。

昇降口前に貼り出されていたクラス分けの一覧をみると、

自分の名前は一組に書かれていた。

教室は新館四階。

四階、か。その遠さに、小さくうんざりしたため息が漏れる。

教室の入り口には、席順表が貼られていた。

気分はすっかりオリエンテーリングだ。

自分の名前は、あっさりみつかった。

教卓側が紙の上部、左側が校庭に面した窓側で、右が廊下側。

左列の最前列に、佐倉修輔(祥沢二)と、自分の名前があった。


「副委員長は、神崎。」


「え。」


隣の席ではっと顔を上げる気配がして、驚きの声が漏れる。


「え、じゃない。2人は前に出てきて。ほら急ぐ。」


有無を言わせぬ調子で両手をあげ、おいでおいでと手招きをする。

ちらりとこちらを振り向いた神崎君と視線が合い、

軽く肩をすくめて立ち上がり、教壇へ向かった。


「すでに説明してあるとおり、この学校は学年の途中でクラスが変わる可能性がある。

 一組は下がる事はあってもここから上はない。

 というわけで、とりあえずクラスが変わる可能性が低いと思われる、

 今回の成績トップの佐倉と二位の神崎に、一年間委員長、副委員長を務めてもらう。

 もし二人がこのクラスから移動する事になったら、

 その時また考えるって事で、いいな。」


教壇に立つ自分達2人とクラス全体に交互に視線を送りながらそういう担任を、

半ば唖然としながらみていた。

クラス編成表に書いてあった出席番号は、あいうえお順で11番。

なのに、なぜ左角の席なんだろう。

それで、自分の右隣が「こ」で始まる苗字の神崎君なんだ?という疑問が解けた。


「佐倉、中学で生徒会長だったんだよな、ちょうどいいだろ。」


何がちょうどいいんだ。生徒会長だって、なりたくてなったわけじゃない。

クラス全体からの視線が痛い。


「早速だが初仕事だ。クラスの係を決めてもらう。

 これが係りの一覧な。係はそれぞれ二人ずつ。」


はいよろしく、と数枚のプリントを自分に手渡し、さっさと教室角、

僕の席の前に置かれたパイプ椅子に行き、ファイルを広げて何か書き込み始めてる。

すっかり、我関せずのスタイルだ。

先生に期待するのは諦めて、プリントの種類と書かれている内容に目を通す数秒の間、

神崎君が気遣わしげにこちらをみている。

ふう、と息を吐いて、係名が書かれたプリントを彼に渡す。


「これ、黒板に書いてもらえるかな。

 先生、すいません、各係の仕事の内容を教えてもらえますか。」


ふ、と軽く笑ってから、パイプ椅子から立ち上がり、

係の仕事内容、いくつかの注意点について話してくれた。

その間、神崎君の手元のプリントを覗き込む。


係の数は、全部で14。クラスの人数は、目算すると縦横6列×6行と、

最後列は2席少ないから34名、自分と神崎君を抜くと、

係になる可能性がある人数は32名。ほぼ全員が何らかの係になる計算、か。


「こんなところかな。質問があったら、後で聞いてくれ。」


そうしめた先生に、ありがとうございました、と頭を下げる。

黒板には2名分の名前が書けるスペースを空けて、

係名がきちんとした字で書かれている。

さすが、というべきか。

神崎君は成績がいいだけじゃなく、しっかりした人らしい。

パンパンと、手についたチョークを落とす音を背後に聞きながら、クラス全体を見渡す。


「佐倉修輔です。祥沢二中卒。一年間よろしくおねがいします。」


「神崎伊月、リュシオル学院中学からです。よろしく。」


一瞬、教室の空気がざわっとした。

リュシオル学院。

他県の事情に詳しくない自分ですら、その名前と評判は聞いたことがある。

熾烈な幼稚園お受験で有名な、幼稚舎から小中高大一貫の、

俗にいうおぼっちゃま学校。

中等部にいたのなら、比較的有利にそのまま高等部に進学できたはず。

ここで一組になるくらいだから、成績でひっかかったわけでもないだろうに、

なぜ、こんな他県の高校に?

一瞬よぎった疑問を振り払って、平静を努めて言葉を続ける。


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