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疲れた。クラスマッチ、楽しかったけれど、すごく疲れた。
早くも猛暑の片鱗を見せている気候。
体育館の中は、人いきれもあって湿度が高く、まるでサウナの中のようにじっとりと蒸し暑い。
腕がだるいし、ふくらはぎが痛い。早くお風呂に入ってさっぱりして、横になりたい。
でも、学級委員長と副委員長、実行委員など数名は後片付けに残された。
生徒会役員は生徒会本部、実行委員は大会本部などの椅子やテーブルの片付け。
僕らはモップがけと、観覧席のごみ拾い、その他の雑用などを命ぜられた。
ぶーぶー文句を言っている伊月をなだめながら、折りたたみの椅子を片手に2個ずつ、
同時に4個運んでいると、
片手分の2個に、誰かが手をかけた。
軽くなった右側をみると、クラスの女子だ。
「あれ、実行委員じゃなかったよね、手伝わないで帰っていいんだよ?」
連絡がちゃんと伝わらなかったんだろうか。
椅子を渡すのを拒もうとしていると、ほぼ強引に引かれてしまった。
「佐倉君、調子悪いんでしょう?
前に、私が教科係で荷物持ちきれなかった時手伝ってくれたし。おあいこ、おあいこ。」
調子悪い?ああ、そうか、朝おなかを壊した事になっていたんだっけ。
教科係を手伝ったって、あの時はもう一人の教科係が休みでいなくて、彼女一人で。
その日に限って、返却用のワークとプリントの他、
資料室に寄って大きな世界地図を持っていくように先生に言われていて。
たまたま職員室に居合わせたから、自分も教室に戻るついでに地図を運んだだけで。
そんな、些細な。
「無理しないで片付けるフリとか、していたらいいよ。
みんなでやったら、早く終わるしね。」
彼女の言葉に広い体育館を見回すと、真紅のTシャツを着た生徒がやたら多い。
ざっとみて、一年一組のほぼ全員が帰らずに片付けを手伝っているようだ。
状況に気付いたらしい伊月のうれしそうな笑顔と目が合った。
「これってさ、修効果だよね。」
え、僕?
「なにいってんの。」
「いや本当だって。言ったでしょ、こういうのが、修のすごいところなんだって。」
祭の後の、どこか心地いい虚無感。
慌しげな中に、穏やかに終焉へ向かうゆるゆるとした空気。
傾きかけてやわらかくなった陽射しが、西側の窓を輝かせながら体育館の中を金色に染める。
(修輔、情けは他人の為ならず、だなあ。)
おじいちゃんが、目を細めてそう言う光景が浮かぶ。
本当だね。おじいちゃん。ありがたいね。
クラスマッチが終わると、もう夏休みも目前。
翌日のHRで、このクラスのみんなが自主的に残って後片付けを手伝ってくれた事を大変ほめられた、と、
椎野先生がちょっと興奮気味に話してくれた事と、教室の後方の黒板の上に、
クラスの旗が誇らしげに貼られた事以外、
あっという間にクラスマッチは過去の事になっていた。
それでも、効果は絶大だったと思う。あの日以降、一気にクラスが打ち解けた雰囲気になった。