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一組は早々にほとんどの競技が敗退していたので、その後ははっきりいって暇。
ぶらぶらと他のクラスの試合を見学に行ったり、観覧席でクラスのみんなと話したりしながら過ごした。
伊月と湊と、外の競技場の隅、ちょうど初夏の日差しを避けられる木陰に座って、
遠くで行われている2年生のサッカーの試合をなんとなしにみていると、声をかけられた。
「さっきはお疲れ。富成中のエースやっていた人でしょ。」
「おー、どうも。真柴の山崎君、だよね。」
こくっとうなずきながら、7組の山崎君が3人の輪に入って芝生の上に座った。
「7組、優勝したよ。」
山崎君の言葉に、みんなで感嘆の声を上げた。
「すっげー、おめでと。」
「ありがと。1組が一番きつかったな。
いいチームだね、雰囲気がすごくいい。もうちょい技術があったら、絶対持っていかれてた。」
「うれしい事言ってくれるねえ。」
湊が照れたように笑う。
「セッター君は、どこ中?」
「ん、祥沢二中。」
僕の答えに、山崎君がきょとんとした顔をする。
「ヨシニって黒のユニフォームだったよね。
セッターって、キャプテンやっていた人じゃなかったっけ。」
「あー。」
湊が納得したように言葉を続けた。
「こいつさ、修も伊月も中学でやっていたわけじゃない。バレー未経験だよ。」
「うん、クラスマッチでやる事になったから練習したけど。」
僕の答えに伊月もうんうんうなずくと、山崎君が「まじか。」と、ぽかんとしてつぶやいた。
「クラスマッチの練習をしました、で、Aクイックのトスあげたの?ありえねー。」
自分でも、成功したのが信じられないくらいだよ。
おかしそうに笑っている山崎君に、そういいたかった。
「守備で下がっている時、ツーで返して前に落とされるの、県大会でやられたんだよね。」
少し笑いをおさめてから、そういって県の北端の市の中学名をあげた。
県外から来ている伊月はもちろん、僕も聞いた事のない中学だったけれど、
湊は良く知っているといった。バレーの強豪校で有名なんだそうだ。
そこの名司令塔といわれるセンターに、僕がやったのと同じように、
守備の穴を突かれた事があったそうだ。
「ムードつくるのがすごくうまいヤツだったんだけど、それで流れが変わって負けたと思ってる。
それが蘇っちゃってさ、実はあの時、動揺しまくり。」
そういって、自嘲気味にちょっと笑った。
「山崎君さ、なんでバレー辞めちゃったの?」
湊の言葉に、一瞬、辛そうな陰がよぎる。
そんな風にストレートに聞いて大丈夫なのかな。僕はついはらはらしてしまう。
「本当は、祥沢商業いってバレー続けたかったんだ。」
春にある大きな大会でテレビにも出ているのを見た事があるから、
男子バレーの強豪なのは僕も知っている。
商業高校としては偏差値も人気も高い県立校。
推薦が取れるほどの成績も残せず、一般受験で入学しようとしたけれど落ちてしまって、
すべり止めの蓬泉に入学した、なんとなく自棄になって、そのままバレー部にも入部しなかった、
という事だった。
「でも、1組とやった後、やっぱバレー好きだわ、おもしろいわって思ってさ。
今からでも、バレー部、入ろうかなって。」
「おお、いいねえ。」
湊の言葉に同意するように、思わず、みんなでにやっとしてしまった。
「そんじゃ、そろそろクラスのやつらのとこ行くわ。お邪魔。またね。」
「うん、またね。」
「優勝おめでと。」
手を上げて去っていく山崎君を、なんだかとても清々しい気持ちで見送った。
一組の総合成績は、1年生17クラス中14位と、正直ぱっとしなかったけれど、
閉会式で順位が発表された時、なんかおかしくて、楽しくて、
みんなで思わず笑ってしまって椎野先生に注意された。
先生も笑ってるよ、と突っ込まれていたけれど。
男子バレーボール、優勝、1年7組と発表された時は、1組も7組に負けず歓声を上げて拍手をした。
チームの代表で優勝の楯を受け取った山崎君は、こちらにも楯を掲げて挨拶してくれた。