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P11

団体行動を乱すような行動をとってしまった事、こんな場所で痛みに襲われてしまった事、

それをみられた事、知られた事で、動揺し、心の深い場所の闇が力を増していた。

抗えない。


「好きでこんな顔に生まれたんじゃない。

 ここ最近、クラスの雰囲気がいいなって、なんか明るくて、仲間になったみたいに思ってた。

 けど、そうじゃなかった。

 うるさく指示するばっかりで、邪魔って思われて。

 僕がいかなくたって、誰も気にしないし、必要でもないだろ。」


逆に喜ばれるくらいだ、という言葉はさすがに飲み込んだ。


「何、言ってんの。そんなわけないよ。」


むっとした口調で言い返される。


「さっき、クラスのみんな、僕の事、笑ってたでしょ。

メガネ外したり、ばかみたいって、」


「違うよ。それはさ、修が格好いいからだよ。」


驚いて思わず見返す。


「びっくりしたんだよ。普段は、地味っていうか、あんまり目立たない感じで。ええと、ごめん。

 だけど、すごく格好いいと思ったんだ。あっと、こういうのだめなんだっけ…?

 でも、えっと、何ていえばいいんだろ。」


「いや、うん、大丈夫。」


必死で言葉を探す様子に、ぽかんとしてしまう。


「さっき、最近クラスの雰囲気がすごくよくなってたって言ったろ?

 あれ、修のおかげだと思う。

 みんな、バレーうまくいかなくて、どうにかしたいって思ってて。

 だけど、練習しようなんて、なかなか言い出せないよ。

 少なくとも、僕はそう。そういうの、勇気いると思う。続くかわからないし、辞めたくなるかもだし、

 真面目ぶってるとか、思われたらやだなっていうのもちょっとあった。

 でもさ、練習するようになって、みんな誘ってもないのに、自分からやるって言ってくれたんだよ。

 うちのクラスだけじゃないよ。2年だって3年だって練習するようになって。

 みんな、すっごく楽しそうにやってただろ。」


他のクラスが練習を始めたのは知っていたけれど、自分の事で精一杯で、様子なんて見ていなかった。

伊月は、ちょっとだけ言葉を切ってから続けた。


「みーもさ、しゅうの事、根性あるって言ってた。

 修は、すごいんだよ。

 そんなつもりはなかっただろうけど、誰かの思い切った一歩が道になって続いていくって事あると思う。

 その最初の一歩を作って、迷わないでどんどん先に行って、みんな、追いかけていったんだよ。

 いろんなやつがいるけどさ、邪魔なんて思ってるわけないだろ。」


ネガティブな気持ちはまだまだくすぶっていて、伊月の言葉をすぐに素直に受け入れられなかったけれど。

感謝しないといけない、これ以上ぐずぐずいっちゃいけないっていうのは、わかっている。

迷って揺れる目を、見抜かれたんだと思う。


「修がいかなくちゃ、一組まとまんないよ、行こう!」


腕をつかまれて、力を加減しながら、だけどほとんど強引に立ち上がらされた。


開会式には大分遅れてしまったと思ったけれど、廊下に戻るとまだ数名、

急ぐ風でもなくだるそうに歩いている生徒がいた。

どこかのクラスのTシャツにジャージのズボンという姿の先生が「早く集合しろー。」と声を上げている。

その脇を小走りに通り抜けて、自分たちのクラスの集合場所へ急いだ。


1年生はさすがに全員そろって整列して床に座っていた。

一番奥の端、一組の列の前に立つ椎野先生が、走り寄る僕らに気付いて声をかけてきた。


「おまえら最後だぞ。2人は一番前な。早く座れ。神崎、もう下痢は大丈夫なのか。」


「はああ?」


すいません、と小さく頭を下げてしゃがもうとしていたけれど、そう言われて伊月が立ったまま硬直した。

並んで座っている生徒数名が、小さく噴出す。

さらに視線を移すと、列の真ん中あたりで湊がわざとらしくそっぽを向いて座っている。

いっちが下痢しました、とか言っている湊の姿が脳裏に浮かんで、思わず笑いそうになるのを必死でこらえた。


「あの、おなか壊したのは僕です。」


「ん、佐倉か?まあ、便所くらい一人で行け。委員長と副で一緒にいなくなってどうする。」


小さく目礼して、みーのヤツめ、なんてぶつぶつ言っている伊月に、座ろうと合図を送った。


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