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P10

再びドアが開いて、廊下の喧騒が流れてくる。


「ここだったか、って、どうした。」


やはり、しゃがんで顔をのぞき込む湊にちらりと視線を送る。

走り回っていたんだろうか、息が弾んでいる。

今度は伊月がドアを閉め、「すごく具合が悪いみたい。」といってくれた。


「立てるか?とりあえず救護室に行こう。」


湊の言葉にも首を横に振る。


「嫌だっていうんだよ。しゅうが、治まるからって。」


二人のそのやり取りの間、襲ってきたのと同じように、唐突に、

すう、と痛みが引いていった。

大きく息を吐くと、ぐったりと力が抜ける。


「ごめん、もう、大丈夫だから。」


「一応、救護室いっておいた方がよくないか?」


湊の心配そうな声に、少しだけ口角を上げて首を横に振る事ができた。

伊月の肩から離れ、壁に背中を預けた。


「大丈夫だから、二人は先に開会式に行って。」


「何、言ってるんだよ、具合悪い修、一人置いていけないよ。」


伊月の言葉に続いて湊も何か言いかけた時、開会式の集合を促すアナウンスが遮った。


「先に行って先生にうまく言っておく。いっち、修を頼む。」


眉間にしわを寄せてアナウンスを聞き終えた湊は、そう言うと、

自分の首にかけていたタオルを外して僕の手の上に置き、立ち上がってドアの向こうへ行った。

乾いたやわらかいタオルの感触は、いつも自分を救ってくれる。

汚してしまいそうでちょっと戸惑ったけれど、そうすると楽になるのはわかっていた。

折り畳んだタオルを顔に押し当ててゆっくり息をする。


「修、あの、よくあるの?」


動かないまま、何て答えるか考える。


「たまに。本当に、たまに。」


「ごめん。」


謝られる意味がわからなくて、タオルを外して伊月をみると、うな垂れて泣きそうな顔をしている。

アリーナを急いで去ろうとした時、必死で気が付かなかったけれど、

ちょうど席に戻ろうとしていた湊とすれ違っていたんだそうだ。


「しゅうの様子がおかしかったけれど、なにがあったんだって聞かれて。」


その前にあったやり取り、自分が言った言葉を伝えたら、急いでしゅうを探すぞ、と連れ出された。

たまたま、先に自分が見つけた、ということだった。


「僕が、気に障ること言っちゃったせい?」


ああ、そういう事か。笑って小さく首を横に振る。


「伊月が悪いんじゃないよ。

 褒めようとしてくれたんでしょ?戸川君にも怒ってくれて。ありがとう。

 こっちこそごめん。びっくりしたでしょ。」


これは、本心。問題は、自分の中にある。

伊月は、相変わらず泣きそうな表情でううん、といった。


「無理しないで、立てそうになったら行こう。」


「いや。やっぱり、伊月だけ先に行って。」


「遅れたって大丈夫だよ。みーが先生に言ってくれているし。」


「そうじゃ、なくて。」


言っちゃだめだ、と、自分の中の別な声が警告する。


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