倉橋恵美子
人間失格を読もうと思った。
せっかく買ったのに読まないと勿体無いからという理由ではない。
だからといってネガティブな気持ちになったからというわけでもない。
うまく言葉では言い表せないが、簡単に表すとするならば「なんとなく」の一言になる。
軽い気持ちの「なんとなく」と思うならそれでもいい。
言葉にうまく置き換えることができないだけの話で、それでも「なんとなく」という言葉がなぜかピッタリと当てはまる気がする。
自分が納得したから、それでいいのだ。
そして、本を読むことに理由はなくてもいいんだ。
さて、今週も土曜日がやってきた。
楽しみな日といえば、楽しみな日だが、暇な日といえば、暇な日。
それが定着したのはいつからだっただろうか。
少なくとも高校では考えられなかった。
高校3年までは部活動をやっていたので、土曜日も毎週練習があり、とても暇ではなかった。
むしろ、暇が欲しいと願っていた日々であった。
ちなみに、どうでもいい情報のひとつとして、弓道部だった。
特に強い学校でもなく、個人としても決して強くもなかったので、結局目立つことはあまりなかった。
あまりというより、全くなかったとさえ思われる。
そして、部活を引退してからは受験勉強をする日々になった。
最初の方は受験勉強はあまりしなかった。
なにしろ、久々の休みだったので遊びに遊んだ。
これも、どうでもいい情報のひとつなんだが、この頃も友達がいなかった僕はほとんど一人で遊んでいた。
主に一人で外出であったり、昔のゲームで遊んだり、割と充実をしていたつもりではあった。
夏休みに差し掛かった頃は、さすがにそろそろ勉強を始めないとやばいと思った僕は、塾こそは通わなかったが、勉強はちゃんとした。
そこから受験までは勉強ばかりしていた。
我ながら思うことだが、高校時代は部活といい、勉強といいがんばっていたと思う。
それに比べると今の自分が情けない。
あの頃のがんばりが何も感じられない。
環境がないと、楽な道を選んでしまう人間なんだと思い知ることはできたが、嬉しい情報ではない。
というか、こんなネガティブな話をするつもりだったか?
だいぶ、話はそれてしまったが本題に戻そう。
どれが、本題でもさほど変わりはしない問題なんだが、一応語るつもりだったことを語る。
いつから暇を持て余すようになったのか
たしか、このような内容だった。
今いったように、高校時代にはあまり暇がなかった。
そして、中学時代も割と充実していた気がする。
だから本題である、「いつから暇になったのか」の答えは間違いなく大学生になってからである。
何がしたいのかを考えても特に思い浮かぶことはない。
だったら、僕の理想は何があるんだ。
理想を語ってもいいが、結局は毎度お馴染みの妄想になってしまう。
ワンパターンのつまらない話になってしまう。
考えても無駄だ。
自分で道は切り開こうと、なかなか人には言えないことを思い、家を出た。
まずは、そこからだ。
そして、とりあえず走る。
無性に走りたくなった。
家の近くの通りに出たときにちょうど、ある人物がいた。
ジャージ姿の倉橋恵美子だった。
倉橋とはそこまで関わりがない。
ただ、同じ中学だったぐらいだ。
話すこともないだろうと思い声をかけることはやめた。
本音をいうと、話す勇気がない、ただのチキン野郎なだけだ。
話しかけることもなく、その場を去ろうとしたとき意外にも、倉橋の方から話しかけてきた。
「高田だよね?」
さすがに、話しかけられては無視することもできなかった。
「そうだよ」
「走っていたけど、ランニング中?」
ランニングというよりは、家からここまでの距離わずか300mぐらいをジョギングしていただけだ。
今すぐにでも走るのをやめようとしていたところだったが、つい嘘をついてしまった。
「まぁね。ランニングさ」
ちょっと意味のわからないコミュ障な返事をしてしまった。
「私もランニングなんだよね。最近走るようにしてるんだ」
「へぇ、そうなんだ。健康的だね」
「せっかくだし、一緒に走る?」
「いいよ」
大賛成です。もちろんです。
そう言わんばかりに返事をした。
倉橋とは接点がなかったが、大学生になったからか懐かしさのお陰でこうして会話することができる。
久しぶりに会う人っていいものだな。
久しぶりの女子との会話に胸はドキドキしている。
べ、別に倉橋の揺れる胸を見てドキドキしているんじゃないんだからねっ!
こうして、2人は人生のランニングを一緒に歩んだ、いや、走ったのであった。
というのが理想かな。
結局妄想のワンパターンじゃないか
そうですよ。
ワンパターンですよ。
でも、今回はいつもと違うのだよ。
「はぁ~」の一言も喋っていないのだよ。えっへん。
進化してみせたぞ。
退化したの間違いではないか。
そう思う僕は、やはりネガティブなのであった。