聞いてる?
「おばちゃ~ん、タツいるよね」
馬鹿でっかい声が2階の部屋まで聞こえてきた。
辛うじてトランクスは履いているが、腰にタオルを巻き付けたままの俺は焦って、朝脱ぎ捨て丸まってるスエットを手繰り寄せる。
アイツ俺が風呂から出たのを見てやがったのかよ。
いつもながらに凄いタイミング。
スエットの裾をひっぱったと同時に開くドア。
「オッス。あれ買っただろ、超楽しみにしてたんだよ」
我がもの顔で部屋に入ってきたかと思うとベットに読みかけて伏せたままの雑誌を手に取るコイツ。
「おい、俺まだ読んでないっつうの」
頭を小突きながらそう言ってみるものの。
「痛ってえな。いいじゃん、タツはいつでも読めるんだから」
いつもの如く聞く耳はもたないみたいだ。
俺なんかお構いなしに、ベットを占領してページを捲り始めた。
「全くお前は」
その呟きはコイツの鼻歌にかき消されて。
最早俺の座るスペースの無いベットを諦めて、冷えたフローリングに腰を下ろした。
床に転がっている週遅れの雑誌を手に取りパラパラとページを捲る。
一度読んだそれは読むところなんてもう無いけれど、な。
コイツの鼻歌は毎度の事だけど、読むのに邪魔じゃないのだろうか。
歌もさることながら、微妙に音程の外れたその鼻歌。
きっと俺じゃなくちゃ何の歌だか解らないだろうな、なんて。
机の上にはコイツが『絶対お勧めだから』と何曲も勝手にインストールされた曲の入ったipod。
知らない曲ばかりだったけど、コイツが好きだというだけで、聞いているうちに覚えてしまったその曲。
だから、そこ音程外れてるって。
きっと俺の方が上手く歌える自信があったり。
そんな事言ったら、すぐさま回し蹴りが飛んでくるだろう。
――歌は心だ――
とか真顔で言いそうで怖い。
学校の違う俺達だけど、こうやって週の半ばこの雑誌が発売される日は必ずやってくる。
それは、同級生だったあの頃となんら変わらない。
お前は知らないだろ?
その雑誌に俺の好きだった漫画達、もう載ってないって事。
とっくにどれも最終回を迎えるっていうの。
俺がコイツの為にこの雑誌を買ってるって言ったらどう思うだろう。
そしたら『解った』って来週からこなくなるだろうか。
お前がここに来るのは漫画を読みたい、それだけか?
俺に会いに来てるって思うのは自惚れだろうか?
自惚れなんだろうな、きっと。
そんな事を考えていたら思い出したくない過去が蘇ってきた。
意を決して、コイツに「好きだ」と伝えた日の事。
間髪入れずに返ってきた答え。
「アタシも好きだけど」
何の感情も読みとれなかった。
少なくても俺と同じ好きの範疇じゃない事だけは理解が出来た。
だってそうだろ? こんなにもあっさり答える事じゃないだろうから。
それ以上深く突っ込む事も出来ずに、俺の告白は無きものになった。
あの日からも俺達の関係は何ら変わりがなかった事が受け止め方が間違ってなかったっていう事なのだ。
暖房の無い部屋のフローリングは氷のように冷たくて風呂で温まったはずの身体は急速に熱を失っていった。
寒さから思わず身震いした俺は、鼻歌絶好調のコイツに思わず話し掛けてしまった。
「寒くねえの?」と。
返事があるとは思わなかったのだが、意外にも
「ああ」と返事をしてきたには驚いた。
直ぐに鼻歌を再開するあたり良く聞いていないのかもしれない、条件反射ってやつ?
試しに
「何か飲むか?」と聞くとまた
「ああ」と返事をした。
「何も飲まないよな」と聞くと
「ああ」と返事をしやがった。
「腹減ったよな」と聞くと
「ああ」と言い
「何にも食べたくねえよな」と聞くと
「ああ」と言う。
絶対こいつ聞いてねえ。
俺の部屋は漫画喫茶かっていうの。
冷え切った足を組み直して、こんな時なら、と思った。
手元に有る雑誌に目を落として小さく深呼吸した。
未だ機嫌良く鼻歌を鳴らすコイツに対して意地の悪い質問。
「お前、俺の事マジで好きだろ」
と言ってやった。
すると、案の定
「ああ」
と一言返ってきた。
さっきと同様直ぐに再開される鼻歌。
非常に虚しくなるのは気のせいじゃない。
馬っ鹿みてえ、俺。
はあ、とついた大きなため息は少し白く――。
情けないやら、虚しいやらで気が抜けたせいか、一つ大きなくしゃみまで出た。
「そんなに寒いんだったら、ベット上がれば」
漫画を読み始めてから、最初に出たコイツの言葉だった。
寝っ転がったまま、毛布を足で蹴っ飛ばす様はとても女らしいなんて事はカケラも無い。
とてもじゃないが、好意を見せた相手に対する行動じゃないだろう。
って言うか偉そうに言ってるけど、そこは俺のベットだ。
少しだけ、足を端に寄せたって事はそのスペースに座れって事だろうか。
うつ伏せになって俺の枕を顎の下に置くあたり、俺の理性を試そうとしているのか?
よろめきそうになりながらも立ち上がり、空いたスペースに胡坐をかいた。
近くに来たせいか、甘ったるい香りが鼻についた。
こいつも風呂上がりなのだろう。
バスケをしているせいか、体質なのか解らないが、服を着ていても無駄の肉がないのは一目瞭然。
真冬だっていうのに何でそんなに薄着でいられるのだろう。
長袖のTシャツが身体のラインを浮き上がらせて、ウエスト引き締まってるよな、なんて。
――そんな無防備でいると襲っちまうぞ――
心の中で呟いた言葉だったはずなのに
「ああ」
と返事をしてきやがった。
「お前聞こえてるの?」
内心ビクビクしていながらも、また『ああ』って返ってくるもんだと思っていたのに――
まるでスローモーションのようだった。
鼻歌が止み、パタンと雑誌を閉じる仕草。
ショートカットな癖に、少しだけあるサイドの髪を耳にかける仕草。
一度俺の枕に顔を埋め、両手をついて起き上る仕草。
いくつかの動作の後、コイツは俺の正面に俺と同じように胡坐をかいていた。
「聞こえてるって、だから返事しただろ」
ニヤっと笑いながら、俺の眼を捉えて離さない。
突然の行動に驚き慌てふためくも、視線を逸らす事なんて出来なかった。
「お前『ああ』しか言わないから」
ここで、どもっちゃ格好がつかない。
気合を入れて放った言葉は言葉足らずで、ドスの効いたぶっきらぼうになってしまった。
「だって、今日はタツが――――」
折角コイツが話し始めたところで、母さんの邪魔が入った。
「ミカちゃーん、雨降ってきたけど大丈夫? 雷も鳴ってきたから本降りになる前に帰った方がいいかもよ」
それはそれはデカイ声だった。
コイツはその声に慌てて立ち上がり、俺の『待てよ』という言葉も聞かぬままカーテンを捲ると部屋のドアを開け
「おばちゃん、ありがとう。ダッシュで帰るから」
と返事をしていた。
「おい、ここで帰るのか?」
さっきの声とはまるで違う情けない声。
「帰るよ、雷嫌だって知ってるだろ。ほら、早く支度して。まさか私一人で帰らせる気?」
一人で帰らせる気? っていつも雑誌を読み終わったら一人でささっと帰るだろ。
という言葉は飲みこんだ。
「ああ」
気が付けばさっきのこいつと同じ返事。
椅子に引っかけてあるジャージを着て、既に部屋を出たアイツの後を追った。
頭の中が混乱気味で階段を下りると、楽しそうに話しをしている母さんとミカ。
「ちゃんと送っていくのよ」
と変な笑い顔の母さん。
「ちゃんとって何だよ。大した距離でもねえのに」
何で今日に限ってそんな事言うかな。
「じゃあ、おばちゃんお邪魔さま~」
開いた玄関のドアから冷たい風が吹き込んできて、目の前の背中がブルっと震えた。
靴に足を入れかけた俺は階段を駆け上がり、目の前にあったダッフルコートを手に取った。
「ターツー」
階段の下から母さんの大きな声。
だから解ってるっていうの、急いで駆けあがっただろ。
ダッフルコートを腕に引っかけるとこれを買いに行った時の事をふと思いだした。
『絶対タツには白が似合うって』
黒いダッフルを掴んだ俺に駄目だしして……
勝手にレジに持って行ったんだよな。
挙句の果てに
『それ飽きたら頂戴』って。
どんだけ俺様なんだよ。
開けかけたドアを閉めて玄関に立っているミカにダッフルを投げた。
「走って帰るから大丈夫だったのに」
そう言いながら早速袖通してる癖に。
天の邪鬼は相変わらずだな。
「じゃあ、行ってくるから」
母さんの
「ゆっくりでもいいわよ」
なんてアホらしい言葉を背中に受けて、底冷えの外気に身を包まれた。
「寒過ぎる」
無意識に呟いてしまう。
風も強くなってきて、傘の柄を持つ手にも大きい雨粒が当たる。
ミカは何が楽しいのだか、鼻歌を鳴らしながら、母さんから借りた傘をくるくると回している。
傘の先から水滴が四方に飛び散って距離を詰めた俺の顔にバシバシ跳ねてきた。
さっき風呂入ったばかりだというのに。
風邪引きそうかも。
「これ思ったより暖かいじゃん。やっとアタシにくれる気になったんだ」
傘を回しながら振り返ったミカ。
だから、それ凶器だから。
まるで連打されたみたいに、ミカの傘の先から俺の顔に水滴がぶつかった。
「タツそれギャグだから」
びしょびしょになった俺の顔を見て笑い始める始末。
「お前のせいだって言うの。それでもって、それやんねえから」
確かに、俺より良く似合ってはいるけれど。
袖口で顔を拭いながら、俺達ってこんな関係にしかなれないのかもしれないと思った。
こうやって、いつかコイツの隣を歩く奴が出てくるかもしれない。
こうやって、いつかコイツの……
「なあ、タツ」
ネガティブな思考の俺にミカの声がダイレクトに響く。
「ああ」
「タツにとってアタシって何?」
ミカの言葉の本質が何処にあるのか解らなかった。
いろいろな事が一気に駆け巡る。
強くなってきた風も、頬に当たる雨粒も、段々近づいてくる雷もまるで気にならないくらい、俺の頭はてんぱっていた。
どう答えたらいいのか、何が正解なのか。
俺の中ではもうずっと……卒業を期に一度は諦めようとした思い。
でもミカはどんな答えを求めているのか。
男友達のような関係?
親友?
幼馴染?
あの時のように『好きだ』と言ったらこの関係、変わるのだろうか。
試験の時よりも頭を使って考えているっていうのに
「答えられないんじゃいいや」
そう言って何事も無かったかのようにまた傘を回し始めたミカ。
俺は結局ミカに掛ける言葉も見つからないまま、ミカの家の前まで辿り着いてしまった。
走って一分、歩いて三分。
コイツの家がもう少し遠かったら、俺はその先の言葉が見つかったのだろうか。
「傘とダッフル、乾かして後で返しにいく」
そう言ったミカに手を伸ばす。
「明日も雨だろうし、それに、ダッフル明日俺学校に着ていくからそのままでいいし」
何でこんなにぶっきらぼう何だかな。
不器用すぎるだろ俺。
「タツならそう言うと思った。本当は面倒くさいって思ったりして」
そう言いながら、傘を畳んだミカはダッフルから袖を抜いた。
「じゃあな」
「おう」
ミカが玄関のドアを閉めた瞬間に雨音と雷が耳に入ってきた。
こんなに激しかった雨が気にならなかったなんて。
相当なテンパリだっつうの。
ほんのちょっとの距離しか歩いていないのに、俺の靴は水を吸い込んで、足取りを重くする。
足取りが重たいのはきっと水を吸い込んだせいだと思いたかった。
翌週。
いつものように雑誌を買って家に戻った。
風呂に入って手早く着替えて。
読みたくも無い雑誌のページを捲る。
いつもにも増して、面白く感じない。
結局その日、ミカは家にやってこなかった。
中学を卒業して初めての事だった。
ミカの顔を見ない日がこんなに続くなんて初めてだった。
あれから丁度2週間。
高校が違うから、会う目的が無いと偶然なんてそうそう無いんだと解っていたけれど、こんなにぽっかりと穴があいたような気分になるなんて。
そして今週もまたコンビニに寄ってしまう俺がいた。
読むあてもない雑誌を。
ミカが来るとは思えなかった。
でも買わずにはいられなかった。
こんなちっぽけな雑誌一冊の関係。
俺達って何だったのだろうな。
ミカの言葉が胸に突き刺さる。
あの時俺が――。
店員が釣り銭を俺の手のひらに落とした時、自動ドアが開いて、見知った顔が入ってきた。
俺の手元にある雑誌に視線を向けると
「久し振り、タツもか。俺もだよ」
ちょっと待ってろよ、という言葉と共に俺がさっきまでいた雑誌コーナーへ向かうと迷うことなく俺と同じ雑誌を手にレジへと戻ってきた。
毎週変わらないその金額を店員に渡しながら俺の方を向き
「ラーメンでも食ってこうぜ。驕るからよ」
と昔っから変わらない笑顔。
でも俺は返事も出来ないくらい固まっていた。
だってあれだろ、それ――。
「なあ、兄ちゃん。もしかして、それ毎週買ってたりする?」
俺の声は震えていた。
寒さからじゃない、緊張からくる震え。
俺と同じようにビニール袋に入れられた雑誌を見つめながら、兄ちゃんの言葉を待つ。
「おお、俺もタツみたいな弟が欲しかったよ。ミカなんて見向きもしねぇでやんの」
これってそういう事だよな。
既にラーメンモードに入っている兄ちゃんは、早く行こうぜと俺の肩を叩きコンビニの自動ドアを通り抜ける。
俺ってすげー情けねえ。
はっきりしてないのは俺の方じゃないか。
ミカはいつだって返事をくれてたじゃないか。
ミカはいつだって俺のとこに来てくれてたじゃないか。
「兄ちゃん、悪いラーメン食えねえ。ちょっと先行くから」
俺と違って地元の高校へ通うミカはもう家にいるはず。
雑誌の入ったビニール袋を大きく振って俺は兄ちゃんを追い越して自転車置き場へと猛ダッシュ。
何からどう言えばいいのか解らないけれど、あの時のミカの質問に答えなければ。
あの雨の日以来、俺は後悔しっぱなしだった。
もしかしたら、もっとずっと前から後悔は始まっていたのかもしれない。
俺は大馬鹿者だ。
体裁とばかりにだけチャイムを押すと、返事も待たずに玄関のノブを引いた。
「おばちゃーん。こんちは、ミカいるー?」
靴の踵を反対の踵で踏みつけながら、おばちゃんの返事を今かと逸る心臓。
台所のドアを開き俺の顔を確認すると、ニッと笑って人差し指を天井に向けた。
どうも、っと軽く会釈をして俺は階段を駆け上がる。
ミカの部屋のドアをノックしたが返事は無かった。
もしかして、無視されてる?
だけど今日は怯む訳には行かない。
「入るぞ」
と意気込んで、ドアを開くと予想外事にミカはベットで寝ていた。
いや正確に言うと狸寝入りだ。
ミカがこんなに寝相が良い訳ないと断言できる。
ベットの淵に腰かけて、布団を被ったままのミカに話し掛けた。
「ミカが来ないから俺が来た」
「……」
「雑誌持ってきた」
「……」
「嘘、ミカに会いにきた」
「……」
ミカは何も言わなかったけど、聞こえているはず。
俺が本当に言いたい事はこんな事じゃない。
一人で空回りしていたのは俺の方。
もうそんなのごめんだ。
「悪かった。この前返事が出来なかったのは怖かったからだ。俺が好きだと言ってお前に否定されるのが怖かったんだ。お前なんか対象じゃないって言われるのが。俺はずっと――ずっと前から親友なんて思った事はないから。俺にとっちゃお前しか」
くそっ、言葉が思いつかない。
なんて現わしたらいいんだ。
もどかしいっていうのはこの事なんだろう。
きつく握った手の平が汗ばんできた。
未だ何の音沙汰もないミカだけど、きっと聞いているはず。
間違えちゃいけない。
それだけを思い、膨らんだ布団に手を置いた。
「お前しか考えられないんだよ。この先俺がするだろう、キスもその先もミカ相手じゃなくちゃ駄目なんだよ」
んっ? 失敗したか? 思わず勢いで言っちまったけど些か言いすぎた?
「ミカ、聞いてる?」
「ああ」
ミカらしいというか何と言うか。
やっと聞けたミカの声に胸が締め付けられそうだった。
「答えになった?」
そうあの時の答え。
私の事どう思うと聞いたミカの問い。
「ああ」
ああってそれだけかよ。
でも何だか嬉しくって、顔がみたくってミカの潜った布団を引っ張った――のだか。
思わぬ抵抗にあう。
布団を掴んでいるミカの力は結構なもんで、俺も負けじと破れない程度に布団を引っ張り返した。
「顔見せないとここで襲う。もう遠慮はしない事にしたから」
掴んでいた布団を放して、ミカの言葉を待った。
「タツ、飛躍しすぎだからそれ」
そういいながら、布団から顔を出したミカの眼は真っ赤だった。
長い間一緒に時を過ごしてきたけど、こんなミカの顔は初めてだった。
俺の指は勝手にミカの顔に流れた涙を掬い、そのままゆっくりと耳を撫で後頭部へ動いていた。
でもって気がついたら、キスしてた。
ほんの数秒の出来ごとが中断されたのは、俺のこめかみをミカの半端ないパンチが飛んできたからで。
「襲わないって言っただろ」
男前の口調でそう言いながら真っ赤になって俺を突き飛ばすミカに言ってやった。
「遠慮しないって言ったよな」
とニッと笑ってやった。
「フンっ」
と鼻を鳴らすミカが今まで以上に可愛くて。
肝心なことを言うのを忘れるとこだった。
「ずっと好きだった。誰にも負けねえ。俺と付き合ってくれ」
顔を横に向けたまま、こくりと頷いたミカ。
言霊は取れなかったけど、良しとするか。
これ以上ここにいたら、俺どうにかなりそうだった。
結構がまん強いはずだったんだけど、そうでもないらしい。
下におばちゃんと、きっと兄ちゃんも帰ってきてるはず。
今日はここで退散しますか。
俺がベットの淵から立ち上がるとミカは何だか俺を睨んでいるようで。
そんな事はお構いなしに「今日は帰るよ」と部屋のドアに手を掛けた。
振り向き様に
「あっ家に来るは毎週水曜日だけなんて言うなよな。まるで本だけが目当てみたいで俺泣くから」
ビニール袋を持ちあげて、またなっと部屋を出た。
それから、俺達の関係は進んだような、後退したような。
相変わらずの関係だけど、一つだけ変わった事。
それは、毎週水曜日は俺がミカの家に通うようになった事。
兄ちゃんの思惑というか何というか、毎週交互に雑誌を買うはめに。
「これってエコだろ」なんて兄ちゃんは言うけれど、ミカを手に入れた今はこの雑誌が必要なくなっただなんて言えるはずも無く。
でもまあ、ミカとこうやって一緒にいられるようになったのは兄ちゃんのお陰でもあるのから、それはそれでいいのかな、と。
何だかんだで俺は今日もミカの家へと雑誌を持って自転車に跨ったのだった。
おしまい。