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世界が静かに分かれはじめた日ー先に高く積み上げた者と、静かに深く根を張った者ー  作者: suu369


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誰もが羨んだ男

これは、


外側に答えを探していた人たちと、

自分の内側を静かに見つめた人たちの物語です。


世界が変わるとき、


本当に変わるのは、


私たちの生き方なのかもしれません。

「本当に、すごい人生ですよね」


目の前の若い男が、少し興奮したように言った。


「俺も、いつかあなたみたいになりたいです」


俺は、笑った。


いつもの笑顔だった。


「ありがとう」


周囲から拍手が起こる。


眩しい照明。

整えられた会場。


こちらを見つめる何十もの視線。


誰もが、俺を成功者だと思っていた。


それは、


間違いではなかった。


会社を大きくした。

収入も増えた。


名前も知られるようになった。


昔の俺なら、間違いなく喜んだだろう。


いや。


きっと、今の俺を見たら羨ましがったはずだ。


ーーやっと成功したな。


そんな声が聞こえてくるようだった。


「成功の秘訣は何ですか?」


別の誰かが聞いた。


俺は、少しだけ考えた。


そして、


期待されている答えを口にした。


「諦めないことですね」


会場から感心したような声が聞こえた。


「それから、自分を信じることです」


また、拍手が起こった。


俺は、笑った。


成功者らしく。

自信に満ちているように。

何も迷っていない人間のように。


けれど、


心の中では、

別の言葉が浮かんでいた。


ーー違う。


俺は、自分を信じていたわけじゃない。


俺が信じていたのは、

人からどう見られているかだった。


評価されている自分。

成功している自分。

失敗しない自分。

誰かに羨ましがられる自分。


それを、失わないように、

ここまで来た。


拍手が鳴り続けている。


俺は、笑顔のまま、

ほんの少しだけ思った。


ーーいつからだろう。


こんなに褒められているのに。

少しも嬉しくなくなったのは。


会場を出ると、

急に世界が静かになった。


「本日は、ありがとうございました」


スタッフに声をかけられる。


「ああ。こちらこそ」


俺は、笑った。


まだ、仮面を外せなかった。


車に乗る。

扉が閉まる。


窓の外から見える景色が、

ゆっくりと後ろへ流れていく。


そこで、ようやく、

俺は、深く息を吐いた。


「……疲れた」


誰に聞かせるでもなく、

小さくつぶやいた。


運転手は、何も言わなかった。


たぶん、


聞こえなかったことにしてくれたのだろう。


俺は、窓の外を見た。

高いビル。

広告。

巨大なスクリーン。


そこには、


誰かの成功者が映し出されていた。


年収。

資産。

人気。

会社の規模。

登録者数。

ランキング。

数字。

数字。

数字。


昔から、


世界は、数字を見せてくれた。


そして、


俺たちは、その数字で人の人生を判断した。


多い人。

少ない人。

勝っている人。

負けている人。

成功した人。

まだ、成功していない人。


俺も、


ずっとそうだった。


だから。


数字が増えるたびに、

自分の価値も増えているのだと思っていた。


けれど。


いつからか、


数字が増えても、

何も増えなくなった。


むしろ。


失いたくないものだけが増えていった。


「……」


スマートフォンが震えた。


画面を見る。


メッセージが何件も届いている。


仕事の依頼。

次の企画。

取材。

会食。

新しい話。


誰かから見れば、

羨ましいほど忙しい人生だろう。


俺は、画面を閉じた。


そのときだった。


また、


スマートフォンが震えた。


今度は、知らない番号からの通知だった。


短いメッセージ。


そこには、


こう書かれていた。


「あなたは、本当にその人生でいいんですか?」


俺は、眉をひそめた。


迷惑メッセージかと思った。


すぐに消そうとした。

指を止めた。


「......」


なぜだろう。


たったそれだけの言葉が、

妙に胸に残った。


本当に。


その人生でいいのか。


俺は、

答えられなかった。


その頃。


街から少し離れた場所で、

一人の男が土を触っていた。


手には、泥がついていた。

服も少し汚れている。


誰も彼の名前を知らない。

年収も知らない。


どんな仕事をしているのか、

気にする人もほとんどいなかった。


男は、


ゆっくりと土をならしていた。

何かを急いでいるようには見えない。

誰かに見せるためでもない。

写真を撮るわけでもない。

誰かに褒められるわけでもない。


ただ。


自分の手で、

そこに何かを築いていた。


「まだ、時間がかかるな」


男は、そう言って、

小さく笑った。


空を見上げる。


雲が、

ゆっくりと流れていた。


その男は、

知らなかった。


もうすぐ、


世界が大きく変わることを。


いや。


正確には、

変わるのではない。


今まで見えなかったものが、

見えるようになるだけだった。


嘘を重ねてきた者。

仮面をかぶり続けてきた者。


誰かの評価の上に、

自分の人生を築いてきた者。


そして、


誰にも見えない場所で、

静かに自分の内側を築いてきた者。


先に高く積み上げた者と。

先に深く根を張った者。


その違いが、

これから少しずつ、

誰の目にも見えるようになる。


世界は、まだ、

何も変わっていない。


ニュースも。

街も。

人々の暮らしも。

昨日と同じだった。


けれど。


静かに。

本当に静かに。


時代は、

もう反転を始めていた。

世界は、まだ変わっていないように見えます。


けれど、


静かに何かが始まっているのかもしれません。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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