ある物語の前日譚
エピソードタイトル:俺たちの、クソッタレな日常
俺はウェポン、殺し屋をしている男だ
命の危険と隣り合わせのこの世界で、生きるため人を殺している
これほどまでに弱肉強食が似合う世界があるのだろうか?
さて、今日も仕事の時間だ
感情なんか足かせだ、何も思わず、何も感じずやるべきことをやるだけだ
「おーい、ちょっと遅くないか?」
事務所の扉を開く
俺の相方であるくず兄弟が、時計を見ながら声をかける
くず兄弟は俺の先輩だ、俺と息が合って、いつも依頼を共にこなしている
「いつもの道が抗争で通れなかった」
「最近多いよな、抗争、元々治安がクソだったここも、より酷いもんになったぜ」
事務所長が来るまで、俺は粗悪なソファーに座って待つ
座り心地が絶妙に悪く、座るたびどこかが軋む
「なあウェポン、お前はどうしてここに来たんだ?」
「…分からない、分からないが俺が生き残るにはここしかないと思ったから」
「へぇ、直感で選んだのか、いいセンスしているな、俺もここに居たし」
「くず兄弟、お前は依頼された人物以外を殺すことが多いだろ」
「なんだよ、先輩に対してその口は」
「…入った年数に応じて、人間は偉くなるのか?」
「あぁ、それは確かに、働かない奴が20年勤めていたからといって、リーダーとかになったらやばいしな」
時計を見ると、7時28分
そろそろ事務所長が来る時間だ
「…くず兄弟、そろそろ事務所長が来る時間だ」
「りょーかい、やってやりますか」
ソファーから立ち上がり、ライフルを取り出す
「ウェポン、その異能だっけ?チートだろ」
異能、人間が持つ特殊能力だ
先天的に持つケースが多く、後天的に異能を持つのは相当難しいらしい
だが、異能を扱うには発現というひと手間がかかる
そして、どんな異能になるのかは分からない
最後に、俺の異能は【あらゆる武器を召喚し、それを使いこなす異能】だ
「異能を持たない人間は、異能を持つ人間より弱いとされている
あくまでされているだけで、努力や素質次第で
どうにかその差を埋められるかもしれないぞ」
「持つ者には、持たざる者の気持ちは分からんっての」
そんなことを言っていると、扉が開く
事務所長だ、何枚かの紙を持って事務所に入ってくる
「今いるのは、ウェポン君とくず兄弟君か」
「あ、事務所長、なんかいい仕事ないか?」
くず兄弟は早速事務所長に話しかける
事務所長は、待っていたかのように持っていた紙を1枚くず兄弟に差し出す
「君には、大仕事を与えよう」
「お、なんだなんだ?」
くず兄弟は紙を覗き込む
しばらく考えた後、くず兄弟はこう言った
「おいウェポン、俺は行くつもりだけどお前はどうする?」
くず兄弟は持っていた紙を俺に手渡す
その紙は依頼書、仕事内容と報酬、及び連絡先が書かれている紙だ
俺たち殺し屋、いやこの世界の住民たちはこの依頼書が唯一のライフライン
依頼書に書かれた仕事をこなせば、書かれた報酬をもらえる仕組みだ
それで、その依頼書に書かれてある仕事内容は、組織の壊滅
十数名程度の超弱小組織だが、壊滅させるとなれば難易度は跳ね上がる
だからか、くず兄弟が意見を仰いだのは
「俺も行くつもりだ」
俺は自分の意見を伝える
油断しなければこの依頼は攻略できるはずだ
「そうか、なら事務所長、俺たちは出発する」
「いってらっしゃい」
俺は立ち上がり、扉のドアノブを捻り外に出る
くず兄弟も、愛用の鉄パイプを持ち俺についていくように外に出る
「依頼書に書かれているアジトが…ここだな?」
俺たちは、アジトがある廃ビル前に居る
「警戒は怠るな」
「へいへい、それじゃあとっととぶっ潰そうぜ」
くず兄弟は乱暴に扉を蹴破り、大きな音が鳴る
「何をしている」
「俺たちが来たんだ、それ相応のもてなしをしてもらわないとな?」
やっぱり馬鹿だ、くず兄弟は時に合理的ではない判断を取る
俺は乱闘騒ぎには向いていない、暴れまわるなら一人でやってくれ
「強行突破は払うコストが多すぎる」
「いいかウェポン、俺が扉を蹴破った事実はもうどうにもできない」
「…ならば仕方ない、計画より時間が大事だ」
ここでくず兄弟を非難したって、意味がない
効率的に、仕事をこなそう
「さっそく組織の奴らがお出ましだな?」
少し進んだ先には2人の人間が居た
2人ともナイフを片手に持っている
「なんだお前ら!殺しちまうぞ!」
「そ、そうだそうだ!」
そいつらは持っていたナイフを突きつける
今すぐに襲い掛かるつもりがないなら、そこまで好戦的ではないな
「くず兄弟、ここは俺がやる」
俺は持っていたライフルで、片方の足を撃ち抜く
中心を狙った、骨は折れ神経は切れただろう
「ぐあああぁぁぁ!?な、なにしやがる!?」
「お、おい、本当に戦うのか!?」
「ここの世界でそんな考えか…
この裏世界は弱肉強食、分かったら死ね」
銃声が二回鳴る、俺たちの前には、倒れた人型の肉塊がある
「…死んでいるな」
「先に進んでどんどんぶっ壊そうぜ」
俺たちは廃ビルの奥に進んでいく
歩みを進めると、1人の人間が居た
短剣を持ち、俺たちを睨みつける
「お前らが侵入者か、組織の人間を殺した罪は重いぞ」
短剣を突き出し、くず兄弟に向け体当たりを仕掛ける
しかし、くず兄弟は避けるそぶりを見せない
「依頼だよ、恨むなら依頼主でも恨んでおけ」
くず兄弟は持っていた鉄パイプを振り下ろし短剣を地面に向けさせる
短剣は深く地面に刺さる、持ち手をくず兄弟は踏みつける
「お前は武器を失った、諦めて死ね!!」
くず兄弟は拳を固め、相手の顔面に叩きつける
ふらついた隙を見逃さず、くず兄弟は蹴りを放ち相手の体勢を崩す
姿勢が乱れ、立ち直す力も起きず相手は倒れてしまう
そして馬乗りになり顔面を執拗に殴りつける
殴るたび血が飛び散りうめき声を上げる
気づけば相手は物言わぬ死体となっていた
「さて、もう死んじまったか」
「行くぞ」
俺たちはさらに廃ビルの奥へ進んでいく
途中何度も組織の奴らが邪魔をしてくるが、難なく突破していく
身を隠し射撃する者には、俺の精密な射撃で殺害し
後ろから奇襲を仕掛ける者には、くず兄弟の圧倒的な近接戦闘能力で殺害した
「ここが大将の居る部屋だな?」
いつの間にやら、組織のリーダーの居るであろう部屋にたどり着いていた
既に作戦はある、まずくず兄弟が荒々しく扉を蹴破る
直後、俺が召喚してあるライフルで頭を撃ち抜く
「打ち合わせ通り、行くぞ!」
くず兄弟は素早く足を上げ、扉目掛けて力強く伸ばす
扉は大きな音を鳴らし乱暴に開けられる
部屋には3人、ライフルより拳銃の方が早い
俺はライフルを捨て、異能を用いて拳銃を取り出し撃つ
しかし、遅かった、左右二人には当たり戦闘能力を奪ったが
中央の人間は横に飛び、弾丸の軌道から逸れていた
「…貴様らか、俺の仲間を皆殺しにしたのは」
組織のリーダーと思われる中央の人間は、釘が刺されたバットを取り出す
「そうだ、俺たちがお前の組織をぶっ壊しに来た」
「組織は俺が生きる限り続く、組織を壊すなら、俺を殺してみろ!」
リーダーはくず兄弟目掛け走る
くず兄弟は、姿勢を低くし、鉄パイプを前に持つ
振り下ろされるバット、それを鉄パイプを前に押し出し勢いを相殺する
隙あり、俺は拳銃でリーダーの頭を狙い撃つ
しかし、相殺された勢いを使ってか、リーダーは後ろに飛ぶ
拳銃の弾は壁に穴を開けただけだった
「一筋縄ではいかないことなぞ分かっていた」
リーダーはバットから一本釘を引っこ抜く
「貴様らの連携を今乱してやろう!」
釘は俺に向かって投げられる、最小限の動きで避けるが、壁に深く刺さる
もしもそのまま当たれば今後の動きに多大な影響を与えるだろう
続けてリーダーは釘をさらに3本引っこ抜く
「近づけば、額に釘が刺さるぞ!」
近づけば即死、ならば簡単な話だ
相手が気づくより先に拳銃を撃てばいい、しかし今の状態ではそれは不可能
「同期……開放!」
ならばそれを可能にすればいい、必殺技の一つ【同期開放】を放つ
これを利用すれば、異能がさらに強化される
相手が釘を投げるより先に、俺は拳銃でリーダーの手を撃ち抜く
「さすがだなウェポン、心置きなく殴り合えるぜ!」
同期開放は強力な代わり、短時間しか効果が持続しない
地面に赤い液体が滴り、落ちた釘が音を立てた瞬間くず兄弟は飛び出す
持っている鉄パイプを、リーダーの頭に振り下ろそうとする
「砕けて死ねぇ!!」
「クソッ!」
リーダーはバットを前に出し攻撃を防ぐ
しかし、甘かった
「地獄に落ちろ!!」
くず兄弟は即座にリーダーの腹を蹴る
強く吹き飛ばされリーダーは壁に当たる
それを見たくず兄弟は鉄パイプを投げる
勢いよく何かが潰れる音がしてリーダーは頭を失った死体となる
「さて、依頼は終わりだ、帰るぞ」
くず兄弟は調子がよさそうに鉄パイプを手に持ち帰宅を急かす
「分かった、達成連絡は忘れるなよ」
俺は異能で取り出した拳銃を捨てる
捨てられた武器はすぐに消滅するから証拠も残らない
「誰が忘れるかよ、忘れたら金貰えねーよ」
俺たちは誰もいなくなった廃ビルを後にする
命がけの仕事ばかりだが、俺たちが生きていくには依頼をこなすしかない
「お疲れ様、今日はもう帰っていいよ」
事務所長に依頼を無事達成してきたことを伝える
帰宅許可が出たので俺は報酬金が入っているバッグを手に取る
「一体何百万なんだ?」
「1000万らしい、まぁ、この金額じゃあすぐぼったくられてなくなりそうだな」
俺たちの居る世界は治安がひどく悪い
あらゆる犯罪が横行し、ギャングやマフィアも当たり前に存在する
1つや2つじゃない、数えきれないくらいの組織がいる
「畜生、国は何を思ってこんなところ作りやがった」
ここは裏世界と呼ばれ、あらゆる負の側面を押し込まれている
国から人権をはく奪され、まともな生活が出来なくなった者が多い
一方で表世界と呼ばれる所もある、人権を持つ者のための世界だ
法律が整っており、裏世界より表世界のほうが非常に生活しやすい
「分からない、だが、俺たちが変に表世界で活動すれば警察にマークされる」
この世界ははっきりいってクソだ
本当にどうしようもなく、人権が無いものはひどい扱いを受ける
くず兄弟はそんなことを言っていた
「あーあ、国から人権をもう一度もらうことは出来ないのか?」
「…海外からの渡航者のふりをすれば入国手続きで人権をもらえそうだが、入国審査場は厳重な警備をしている、俺たちだけでは突破するのは不可能だ」
俺たちは人権を持たない、無人権者だ
表世界で生きている人間は、人権者と呼ばれ、普通に就労し、生活できる
だが無人権者は表世界では爪弾きにされ、裏世界へ落ちていく
「マジこの国はクソだよ、裏世界じゃあまともにインフラも整っていない」
「地域によっては水資源が原因の抗争もあるらしい」
「畜生、この辺りじゃあ製造元もわからんファッキン栄養食しかないし」
「あれは非常に効率的な栄養食だ、裏世界で格安で売られているのがおかしいレベルの代物、製造者のアル先生とやらには感謝せねばならん」
「…やっぱりお前味覚死んでないか?あれマズ過ぎて食べるたび吐きかけるんだけど、まぁお前があのアル先生とやらに感謝するなら俺は中指を立てるけどな」
「お前は甘味にとらわれ過ぎだ」
「好物を追い求めて何が悪い」
…俺は何かを踏んだようだ
それは紙の様、手に取ると…
「…入国審査場の警備員に賄賂を渡せば人権をもらえるかもしれない」
「まじかよ、どこにそんな金が?」
「これだ」
俺は持っていた紙をくず兄弟に見せる
それは依頼書だった
内容は、私有地を持つ子供を海外行の船に乗せる事
報酬は……8000万
「…」
くず兄弟は絶句している
夢に見た人権を持つ者の生活を送れるんだ
だが、うまい話には裏がある、こんな簡単な依頼で8000万も稼げるだろうか
「怪しさは満点だが行くしかない、もし捨てれば誰かが達成するかもしれない」
「…だな、俺たちならやれる」
俺たちはこの依頼を受けることにした
なぜか連絡先がないが、情報屋を頼ろう
「さて、気合入れて攫っていくか!」
…この選択が、あの大騒動を引き起こす最初の選択だなんて誰が思っただろうか




