私って重い?と聞かれて堂々と重いだなんて言えるはずがない
家族に晩御飯はいらない、とだけ連絡して、目線を真横にいる棚月さんへと向ける。
普段からあんまり人を見ることなんてなかったからこう見るとなんだ。めっちゃ綺麗だな、この人。それなりに背も高いし。確か160、とか言ってたか。
「うん、私160だよ」
「えっ」
ちょっと待った。なんでこの人普通に思考盗聴してきてるの?? 怖いよ?? お兄さん怖いよ?? とまぁ、それはさておき。
それなりに身長もあるし、だいぶ体も細い。そして、だいぶ胸もある。それでもってフレンドリーな性格をしているんだ。そりゃクラスでも人気になるわな、と。
そして適当なファストフード店に入り、席に腰を掛けてゆっくりと話し始める。
「ちなみにだけどさ。e……はいつから俺ってことに気がついてたんだ? 」
「え? んー、つい最近だよ。それこそまだ四月ちょっとの時。それから無那でいいよ、羽羅」
「は、そんな前だったのか!? 」
今が五月半ばだから、もう気づかれてから一ヶ月位は経つ訳だ。じゃあ無那はずっと俺に気づいていたわけだ。言ってくれればよかったのに、意地悪だな。
「言ったらつまんなくない? ほら、一方的に弱みを握れるのってすごい楽しいし」
「うわ意地悪っ! というかさっきから心を読むな! エスパーかなんかか!? 」
「長年の付き合いってやつだよ~」
「まだ言って二年とかそこらだろ」
「二年は充分長いと思うよ? ってことで」
無那は満面の笑みでしばらくこっちを見つめている。なんだろう。物凄く嫌な予感がする。というよりも、嫌な予感しかしない。
「君の弱みはたっくさん握らせてもらいました」
的中。思い出していく、色々と無那に話していたことを。好みのタイプとか、性癖とか、日々の愚痴とか、その他諸々。確か……名前は伏せたが無那の事を可愛い、と言ったこともあったな。
途端俺の中に溢れる羞恥心とそれから希死念慮。なんだろう。なんていえばいいんだろう。まぁ、その、うん。物凄く死にたい気分だ。
「殺してくれ」
「え、嫌だよ。なんで旦那様を殺さないといけないの」
「えっ」
「あっ違うよ。ほら、なんで私が手を汚さないといけないの? 」
なんか今この子凄いこと言わなかったか? ん、俺の聞き間違いじゃなければ未来の旦那様って聞こえたんだが。いや、さすがに気のせいだな。
「そ、そうだ。それで、結局あのボイスメッセージはなんだったんだ? もちろん言うつもりは無いが」
「じゃあ。教えてあげるからさ、私を手伝ってくれないかな」
「まぁ、わかった。手伝えることがあるならな」
ここで敢えて予防線を張っておく。無那からはボイメのことを聞く。そしてお願いが無理だと思ったら無理だと断る。正直最低だとは思うが、保身に走ることも時として大切なのだ。
話し始めるタイミングで頼んでたハンバーガーとポテトが来たので、ゆっくり食べながら話を続ける。
「ありがとう! それでね、えっと……ボイメの件なんだけど。多分わかってるよね」
「あぁ。好きなんだろ、田中のこと」
「うん」
即答だった。確かに即答だった、けど。顔が少しだけ笑っていないように感じた。背筋が一瞬だけゾッと冷えた。な、なんだこれは。
そしてとりあえず予想通りまぁ田中のことだったな、あれは。にしても重くないか??
「協力して欲しいっていうのは、男の子の視点から色々教えて欲しいの。春樹にたっくさん尽くしたいから」
「それくらいならまぁ、全然構わないが。いいのか? 俺がそれを知ってしまって」
「君ならいいんだよ、全然。あ、ちなみにわかると思うけどあれは誤送信だからね。ピスコのボイメってワンタップで始まっちゃうからポッケとかに入れてると勝手にやっちゃって嫌なんだよね」
それは聞いた時に思ったよ。普通あんな内容のものを自分から好き好んで送ろうとはしないだろうしな。しかも俺がharaってわかっているんだったら尚更の話だ。
「あのさ。重いかな? 私」
「ぶっ!! 」
完全に唐突だった。頼んでたジュースを飲みながら聞いていると、急にそんな質問をされて少しだけジュースを吹いてしまった。いかん、はしたない。幸い無那にはかかってないな、よし。
「ちょっと汚い! 急にどうしたの? 」
「悪い、変なところに入ってな。かかってなくて良かったよ」
で。この質問どう答えるのが正解なんだ!! 明らかに重い、が! もしそういうのをめちゃくちゃ気にするタイプだったら傷つけてしまうことになる! いやでもここは、正直に──
「質問の答えだったな。俺は重いとは思わないぞ。他がどう思うかはともかく。好きな人の声が急に聞きたくなる、だなんてよくある話だしな」
言えませんでした。いや言えるわけないだろうが。あんな捨てられる子犬かのようなうるうるした目で不安そうに見つめられてみろよ、重いだなんて言えるわけないだろ。
「そ、そっか! だよね! 私重くないよね! 良かった! 」
結果として、花が咲いた。ほんの数秒前まで捨てられそうな子犬だったのが嘘みたいに晴れた。どっからどう見ても本心でしかない満開の笑顔だ。
何だこの子、可愛いかよ。
「ま、まぁ! こんな感じで色んな質問してくからよろしくね。これで、いつかははーくんと……」
「俺なんかで良ければいつでもいいぞ。応援してる。付き合えるといいな、田中と」
♢♢♢
飯を食べ終えて会計を済ませ、帰り道。 無那が何か用事を思い出したらしく、すぐに解散となった。ただ、一個気になることが俺にはあった。
別れ際の事だ。店の前で無那と手を振って別れた時。何か言って、少しだけ無那の表情が曇ったような気がした。どこか寂しそうな、そんな顔だった。何を言ったのかは聞き取れなかった。
『e:今日は急なことにも付き合ってくれてありがとね。改めてこれからよろしく』
『hara:おう、改めてよろしく。というか聞きそびれたんだが、他の三人もクラスメイトとかそういうオチは無いよな? 』
無那が作ったグループには五人いる。俺こと『hara』と無那こと『e』、それから『はるクン』
『ハミハミ』『限界社畜星人』の五人だ。もしかしたら他もこの学校にいるかもしれないからな。念の為の確認だ。
『e:だいじょぶだいじょぶ! 他はみんな私も知らない人だから』
『hara:なら良かったよ。それから……今日、別れ際に何か言ってたか? 』
『e:いや、何も? え何、幻聴? 怖いんだけど』
『hara:多分そうみたいだな。悪い、気にしないでくれ。そんじゃ俺風呂行ってくっから』
『e:あっ質問いい? あのさ、お弁当に入ってたら嬉しいおかずって何かな』
唐突だなおい。しかもこれ関係あるか? 俺、田中の好き嫌いとか知らないんだが。まぁ普通に答えるだけ答えておこうか。
『hara:そうだな、無難だけどたこさんウィンナーとかだな。あれは普通に美味しい』
『e:意外と子供っぽいんだね。ありがと、行ってらっしゃい』
『hara:うっせ』
スマホの電源を閉じて俺は風呂場に向かう。
途中、パシャッというカメラの音が聞こえたような気がした、が多分気の所為だろう。我ながらだいぶ疲れてしまったみたいだ。
早いこと寝てゆっくり休もう。




