56.特別な夜
どちらだろうと思って起き上がったら、ガウン姿のアルフレッド様が入った来たところだった。
「良かった。一人で待ちくたびれていました」
「そんなに待たせたのか?」
「本なども全部取り上げられてしまって、何もすることがなかったんです」
「まぁ、そうだろうな……」
少し呆れたようなアルフレッド様の返しに、
私が何か変なことでも言ったのかしらと首をかしげた。
「いや、いつも通りのルーチェだなと思って」
「いつも通りではいけませんか?」
「悪くはないが、緊張しているかと思ったんだ」
なるほど。
初夜だから、私が緊張して待っていると思われたらしい。
なのに私はいつも通り、待っていただけ。
だから驚かれてしまったようだ。
だけど……
「緊張する理由がなかったんです」
「ない?」
「ええ」
「普通は緊張するものだろう?
何をされるかわからないとか、怖いとか、そういう気持ちはないのか?」
アルフレッド様が片膝をベッドの上にのせるとぎしりと音がした。
のぞきこんでくるような顔は少し怖く見えるかもしれない。
「そう言われれば、何もわからないですし、
まったく怖くないというわけでもないんですけど」
「ないけど?」
「ずっと待っていたんです。早く大人になりたい、
早くアルフレッド様にふさわしくなりたいって。
ようやく結婚できて、アルフレッド様の妻になれるんです」
「ルーチェ……」
「やっと、やっとこの日を迎えたんです。
早く、アルフレッド様のものにしてください」
「お前な……」
「え?怒ってます?呆れたんですか?」
「違う……」
ぐるんと視界が回ったと思ったら、組み敷かれていた。
「アルフレッド様?」
「俺がどれだけ待っていたかもしらないで……。
あまり煽らないでくれ。できるだけ優しくしたいし、泣かしたくないんだ」
ああ、そういえばリマが痛いかもしれませんがとか言っていた。
痛くて泣いちゃうかもしれないって心配されている?
「大丈夫です、泣きませんから。あ、うれし泣きはするかもしれません」
「ああ、もういい、黙ってくれ」
唇がふれあったと思ったら、すぐに深いものに変わる。
熱いものが押しつけられたように温度差があったけれど、直にそれもわからなくなる。
唇が少しも離れずに気持ちいいと思っていたら、
するりとガウンの下に手が入り込んできた。
もしかしたら、ガウンが邪魔だったりする?
する前に脱ぐものだったのかしら。
慌てて自分で脱ごうとしたら、それも止められ、
アルフレッド様の手で脱がされていく。
ガウンの下には透けてしまうような夜着。
丈も短いし、身体が隠せていない。
怖くはないけれど、こんなに見つめられるとさすがに恥ずかしい。
それもそれほど長い時間ではなく、夜着にも手をかけられる。
抵抗する気はないので、されるがままになっていると、
あっという間に私だけ全部脱がされてしまった。
「アルフレッド様も……」
「あとでな」
私一人で裸なのは恥ずかしいので一緒に脱いでもらいたかったのに、
残念ながらその願いは聞いてもらえず、唇をふさがれる。
ああ、でも、何をされてもうれしいとしか思えない。
やっと女性としてアルフレッド様に見てもらえている。
ずっと怖かった。
私が大人になるのを待ちきれなくなられるのが。
アルフレッド様が誠実なのはわかっているけれど、
まわりがアルフレッド様に女性を用意しているのは知っていた。
そして、それを断っていることも。
私のために我慢させているのも申し訳なかったし、
やはり待つのは無理だとどこかで思われそうで怖かった。
そのくらいなら他の女性を……なんて、私が言えば怒られたに決まっている。
やっと結ばれることができる。
大人として、アルフレッド様にしてあげられることができる。
ぎゅっと目を閉じたら、ふわりと髪をなでられる。
目を開けたら、アルフレッド様が微笑んでいた。
「……そんなに頑張らなくてもいいんだ。
俺はルーチェが好きだから待っていたんだ。
急ごうとしなくても良かったんだよ」
「でも……」
「ありがとう。
でも、もう待たないよ。
俺の妻になったのだから」
「……はい」
やっぱり年齢差だけはどうにもならないみたい。
私の焦りも全部見透かされていた。
でも、これだけは言える。
アルフレッド様に抱かれるのはこんなにも幸せに思える。
この人に出会えて、妻になれてよかった。
「うれしい……」
「……うれし泣きなら、まぁいいか」
「はい」
何も身につけていない素肌で抱き合うのがうれしくて、
少しも離れたくない。
そんな私をアルフレッド様は優しく抱きしめたままでいてくれた。




