51.お父様の判断
「この国に保護されてからも大変だったのよ。
私の存在を気に入らない人に暗殺されかかって……」
「それは大丈夫なのか!?」
「もう犯人は捕まっているから心配しないで。
でも、捕まったのはついこの間のことなの。
私を守るためにアルフレッド様は一緒に部屋にいてくれただけ。
もちろん、何もやましいことはなかったわ」
「本当だな?」
「ええ、もちろん」
一昨日、求婚するまでくちづけすらされなかったのだから、
これは本当だと言っても許されるよね。
しかも、くちづけ以上のことは結婚するまでしないとも言っていたし。
「だが、このことが知られてしまったら、お前は傷物になる。
そのことはどう思っていたんだ」
「傷物に?ならないわ」
「何を言っているんだ。なってしまうだろう」
「ルーチェ、ここからは俺に話させてほしい」
「……わかりました」
もう言ってしまおうかと思ったけれど、
真剣な目をしたアルフレッド様に止められる。
「ダニエル国王、俺とルーチェの結婚を認めてもらえないでしょうか」
「何を……二人の婚約はルーチェを守るための形だけのもので」
「最初はそのつもりでした。
だけど、ルーチェが国に帰るとわかり、求婚して受け入れてもらいました。
俺をルーチェの王配として認めてください」
「アルフレッド殿をルーチェの王配に!?
しかも受け入れてもらったと言ったな?
ルーチェ、本当なのか?」
「ええ、私からもエッカルト様にお願いしたの。
アルフレッド様を私にくださいって」
「……なんと」
「認めてくれないのなら……」
「ちょっと待て!認めないわけないだろう!
いろいろと急に話すから理解が追いつかないだけだ!」
まだ体調が万全でないお父様に急に話し過ぎてしまったらしい。
めまいがするのか椅子に座ったお父様に、慌ててリマが水を持ってくる。
その水を受け取って一気に飲み干したお父様は、リマにも確認している。
「……リマ、本当にこの二人は恋仲に?」
「ええ、ルーチェ様を保護していただいてから、
私もそばにおりましたが、本当にやましいことはなさそうでした。
ですが、お二人がひかれあっているのはわかっていましたので、
使用人一同は早く告白してしまえばいいのにと思っていたくらいです」
「……そうなのか。
リマは賛成なのだな?」
「ええ、もちろんです。
大変な思いをしたルーチェ様がご自分で選んだ未来です。
もっと早く幸せになってほしいと思っていたくらいです」
「そうか……そうだな。
アルフレッド殿……いや、アルフレッド。
これからは娘の婚約者としてよろしく頼む。
一緒にアントシュに帰ってくれ」
「はい!ありがとうございます」
「お父様、ありがとう」
お父様の許可もおりて、もうこれで問題はなくなった。
アルフレッド様を見ると、うれしそうに微笑み返してくれる。
お父様に認めてもらった話は、その日のうちにエッカルト様にも報告が行き、
五日後に正式に婚約を調えることになった。
今の私はエッカルト様の養女としてアルフレッド様と婚約していた。
そのため、アントシュの王女に籍を戻した後、再度婚約しなくてはならない。
アルフレッド様と謁見室に入ると、もうすでにお父様とエッカルト様がいた。
私たちを待っていたというよりは二人で話し込んでいたようだ。
「ああ、来たのか」
「ごめんなさい、待たせてしまった?」
「いや、大丈夫だ。さ、書類は用意されている。
早く署名してしまおう」
「そうだな、邪魔が入らないうちに」
今、エッカルト様は邪魔が入らないうちにって言った?
疑問ではあったけれど、差し出された書類に目を通す。
うん、何も問題はない。
まずはベルコヴァから私の籍を抜いて、アントシュの王女に戻る。
そして、アルフレッド様と婚約する書類にルーチェ・アントシュと署名した。
……ああ、もう四年近くもこの名前から離れていた。
でも、やはり私はアントシュの王女なのだと感じる。
ベルコヴァも嫌いじゃないけれど、馴染んではいなかった気がする。
「これで二人の婚約は成立したな。おめでとう」
「エッカルト、すまないな。
アルフレッドはいただいていく」
「本人たちの希望ですからね、仕方ありません。
大事な弟ですから、どうか頼みましたよ」
「ああ、もちろんだ」
本当にエッカルト様には感謝しかない。
エッカルト様が兵を派遣すると決めなかったら、
アルフレッド様が助けに来ることもなかった。
隣にいるアルフレッド様を見上げたら、
なぜか照れくさそうに笑っている。
「婚約しているのは昨日までと変わらないのだが、
何となく気分が違うな」
「そうですか?」
「ああ。本当の意味で婚約できた気がする。
最初の婚約は少しルーチェを騙した気がしていたから」
「ふふふ。私はあの時もちゃんと理解していましたよ。
アルフレッド様が私を女性として見ていなかったことも」
「いや、今は違うから」
「ええ、わかっています。ですが、私はまだ十六歳ですからね。
あと二年は待たせてしまいます。
あ……もしかして、離れ離れになってしまいますか?」
そうだ。それも考えていなかった。
私はすぐにでもアントシュに帰らなくていけないだろうけど、
アルフレッド様と結婚できるのは二年後。
それまでお互いの国で生活するのなら離れてしまう。
「いや、俺はルーチェと一緒にアントシュに行くよ」
「いいのですか?」
「これまでアントシュを管理していたのは俺だし、
ダニエル国王と一緒にアントシュに行ったほうがいいだろう。
それに……離れていたら、ルーチェがどうしているか不安で死んでしまいそうだ」
「ふふ。アルフレッド様がいてくれるなら安心ですね」
笑い合っていたら、扉の向こうからもめている声が聞こえて来た。
「いいから開けなさい!」
「今は無理です!お下がりください!」
「どきなさい!命令よ!」
あの声はシンディ様?
どうして……
「扉の外で騒いでいるのはシンディか。
……中に入れてやれ」
眉間にしわをよせたエッカルト様が騎士に命じる。
扉を開けて外にいる騎士に伝えると、謁見室にシンディ様が入って来た。
しばらく部屋に閉じこもっていると聞いていたが、
元気そうなシンディ様がつかつかとエッカルト様の前に来る。
「お父様、ルーチェ様がアントシュの王女に戻って、
アル兄様と婚約するという噂を聞いたのだけど、本当?」
「ああ、本当だ」




