50.お父様の訪問
お父様と会えたのはそれから二日後だった。
やはり長旅で疲れていたのか、熱が下がらなかったらしい。
婚約の話をするためにお父様がいる客室へ行こうとしたが、
お父様からアルフレッド様の宮に来たいと要望があった。
私が過ごしている場所を見てみたいとのことで、
それを聞いたアルフレッド様の顔が少しだけ引きつっていた。
「……叱られるだろうな」
「話せばわかってもらえると思います」
「そうだろうか……いや、叱られる覚悟はしておこう」
「私も一緒に叱られましょう」
「アズまで……」
私を保護するためだったのだから仕方ないと思うのに、
アルフレッド様とアズはそう考えないようだった。
午後になって、お父様が宮に訪ねて来た。
宮に入って、出迎えた中にリマがいるのに気がついて、
駆け寄って喜び合う。
「リマ‼」
「陛下!よくぞご無事で!」
「ああ、なんとかここまで戻って来られた。
リマはルーチェのそばにいて支えてくれたんだな……ありがとう」
「いいえ、私は逆にルーチェ様に支えていただきました。
ルーチェ様がいなかったら、私もどうなっていたことか」
リマは私の世話役として残されていた。
私が殺されていたら、リマも奴隷として売られていたに違いない。
そのことを言っているのだと思うけれど、
私はリマがいてくれたからさみしくなかった。
「お父様、リマと私は塔に閉じ込められていたのよ。
半年間、つらかったけれど、リマがいたから耐えられたの」
「ああ、そうなのか。塔に……。
二人ともよく無事でいてくれた……」
「アルフレッド様がアントシュまで助けに来てくれたの。
それからずっとそばにいてくれたのよ」
「アルフレッド殿、本当にありがとう。
ルーチェを守り育ててくれて」
「いえ、俺はできることをしただけです」
お礼を言われたアルフレッド様がぎこちない笑顔を見せる。
そこまで緊張しなくてもいいのに。
「それで、ベルコヴァに来てからはここにいたんだよな。
ルーチェの部屋はどこだ?」
「部屋は向こうよ」
一応、私のために用意された部屋へお父様を案内する。
中に入るとお父様は眉をひそめた。
お父様に見せるために部屋の中を片づけたりはしていない。
ベッドの上には毛布もないのに、部屋のあちこちに贈られた物が置かれている。
どうみてもここで暮らしているとは思えない。
「……なんだか物が多い部屋だな」
「ええ、物置として使っていたから」
「物置……?では、ルーチェはどこで寝ていたんだ?」
「えっと……こっちの部屋?」
私が素直に案内するからかアズが頭を抱えていたけれど、
お父様をアルフレッド様の部屋へ連れて行く。
そこには私がいつも使っているお気に入りの物がたくさん置いてある。
一目で私がここで暮らしていたのがわかる。
「ここで……だが、この部屋は構造的には主人の部屋、
アルフレッド様の部屋になるのではないか?」
「ええ、そうよ。ここアルフレッド様の部屋だもの」
「は……?」
言葉を失ったお父様がアルフレッド様の両肩をがっしりと掴んだ。
そのままの状態で壁際まで詰め寄っていく。
「アルフレッド殿……どういうことかな?」
「え……いや、その」
「ルーチェを保護したのは十三歳の時だと聞いていたが、
まさかその時からずっと一緒の部屋で?」
「いえ、それは……その」
「……ルーチェによこしまな想いを?」
「……」
「ルーチェに何をしたんだ!言え!」
ついには首をしめられて何も言えなくなっている。
ちゃんと言い訳すればいいのに。
アルフレッド様らしいと言えば、らしいけれど。
だが、このままではどうしようもないので、
私が助け舟を出そうとする。
「お父様、仕方なかったのよ」
「仕方なかったとはなんだ!?」
「私は命を狙われていたんだもの」
「それはアントシュでのことだろう?」
「いいえ、保護されてからの話よ」
「それはどうして……」
「とにかく、一度アルフレッド様を放して」
「あ、ああ」
アルフレッド様のほうが背が高いし強いのだから、
無理やりお父様の手を放すことだってできただろうに。
限界まで我慢していたのか、手を放されて咳き込んでいる。
「この国に保護されてからも大変だったのよ。
私の存在を気に入らない人に暗殺されかかって……」
「それは大丈夫なのか!?」
「もう犯人は捕まっているから心配しないで。
でも、捕まったのはついこの間のことなの。
私を守るためにアルフレッド様は一緒に部屋にいてくれただけ。
もちろん、何もやましいことはなかったわ」
「本当だな?」
「ええ、もちろん」
一昨日、求婚するまでくちづけすらされなかったのだから、
これは本当だと言っても許されるよね。
しかも、くちづけ以上のことは結婚するまでしないとも言っていたし。
「だが、このことが知られてしまったら、お前は傷物になる。
そのことはどう思っていたんだ」
「傷物に?ならないわ」
「何を言っているんだ。なってしまうだろう」
「ルーチェ、ここからは俺に話させてほしい」
「……わかりました」
もう全部言ってしまおうかと思ったけれど、
真剣な目をしたアルフレッド様に止められる。
「ダニエル国王、俺とルーチェの結婚を認めてもらえないでしょうか」




