46.お父様の手紙
執務室に到着すると、陛下のほかに見知らぬ男性がいた。
服装を見ると、他国の使者のようだ。
陛下は読んでいた手紙の他にもう一通手にしていた。
「私宛にも手紙があったが、ルーチェ姫宛にもあった。
確認してくれ」
「わかりました」
手渡された手紙を読んでみると、間違いなくお父様の書かれた字だ。
「お父様……本当に」
よかった……本当に生きていた。
もう三年半も見つからずにいたから、あきらめかけていた。
手紙を読み進めていくうちに事情がわかってきた。
お父様とお兄様は元貴族として売られたらしい。
保護してくれた国はアントシュと二つ離れたリーガリア国で、
奴隷の売買は禁止していないが、貴族や王族の奴隷は禁止されているらしい。
貴族の血の流出を心配しているのだろうけど、
他国からの奴隷に関しても見つけ次第保護される。
お父様とお兄様もリーガリア国に入ってすぐに保護され、
体調が戻るまで王宮内に滞在することになった。
お父様はすぐにアントシュがどうなったか調べてもらい、
半年後にはベルコヴァの管理下になったことも知った。
そこでベルコヴァに使者を送り、迎えに来てもらおうとしたが、
問題が起きた。
お兄様が同じ年の王女様に気に入られ、
帰国を渋られたのだという。
その王女様は一人娘で、将来は女王になることが決まっていた。
お兄様をその王配にしたいと王女が言い出したことで、
お父様とお兄様は軟禁されてしまった。
最初はアントシュに帰りたいと言っていたお兄様も、
三年も王女と一緒に過ごすうちに考えが変わり、
恋仲になった上、王女が身ごもってしまった。
「……え?お兄様に子が!?」
「ルーチェ、何が書いてあったんだ?」
「えっと……読んでみてください」
アルフレッド様に手紙を渡して読んでもらうと、
同じように驚いた顔をしている。
手紙の続きには、王女と結婚するためにお兄様はリーガリア国に残るとあった。
だが、お兄様の身分が平民だと王配になるのが難しいため、
お父様はアントシュに帰されることになった。
お父様がアントシュ国王に戻れば、
お兄様はアントシュの第一王子の身分で、
王女の王配になるらしい。
「これ、王女が身ごもらなかったら、
国王も帰すつもりなかったんだろうな……」
「そうですよね……そんなところの王配になって、
お兄様は大丈夫なのでしょうか」
「それはアントシュ国王に聞くしかないな。
手紙でどうなんだと聞いたところで正直には書けまい」
「そうですね……」
ちらりと使者を見たが、顔色ひとつ変えていない。
「アルフレッド、ルーチェ姫、
すぐにでもダニエル殿を迎えに行かせようと思う。
それで問題ないな?」
「はい。やはりお兄様は戻っては来られないのでしょうか」
「この手紙の様子だと難しいだろうな。
とりあえず、無事だったことだけでも喜ぼう」
「はい」
それはその通りだ。
リーガリア国の王家に保護されなければ、
お父様とお兄様は奴隷として売られていた。
そうなれば戻って来られないだけでなく、
命の保障すらなかった。
どちらも生きていて、お父様は戻って来られる。
感謝しなければいけないのだろう。
その日の話し合いはそれで終わり、
アルフレッド様と私は宮に戻った。
いろんなことがありすぎて、眠れそうにない。
湯あみを終えた時にはもう深夜になっていたけれど、
ぼんやりとベッドに座っていた。
「眠れないのか?」
「はい……シンディ様のこと、お父様とお兄様のこと、
王妃様のこと……考えることが多すぎて」
「そうだな。
眠らなくてもいいから、横になっていよう」
「はい」
素直に毛布の中にもぐりこむと、
同じようにアルフレッド様ももぐりこんでくる。
そのまま私を抱きしめてくれたので、
アルフレッド様の胸に頬をあてる。
「お疲れ……今日は頑張ったな」
頑張ったのだろうか。よくわからない。
自分が声をあげたことで変わってしまったこともある。
その責任もちゃんと考えなくてはいけないと思う。
王妃様の処罰はどうなるのだろうか。
残されたラウレンツ様は……。
考えれば考えるほど眠れなくなっていく。
アルフレッド様は私が眠るのを待っているのか、
ずっと髪や背中を撫でてくれている。
気持ちが少しずつ落ち着いて行って、
眠りにつけたのはもう朝になってからだった。
夜会の二日後、いつものように学園に向かったが、
そこにはシンディ様はいなかった。
通えなくなって当然かもしれない。
シンディ様の宮にいた者たちの半数以上も、
王妃様の罪に加担していたらしく捕らえられた。
中でも侍女は全員がそうだったようで、
シンディ様の侍女は一人もいなくなってしまった。
王妃様とアキムに裏切られて人間不信になっていたシンディ様は、
宮の人間たちにも裏切られていたことを知って、
部屋に閉じこもり食事も拒否しているらしい。
学園に通うのにはまだ時間がかかりそうだ。
一方のラウレンツ様はそのまま王子として残されることになった。
あの夜会で王妃様を糾弾したことが評価されたそうだ。
アルフレッド様が前王妃様を糾弾して幽閉したのと同じだ。
これも宰相が狙った結果なのだろう。
ラウレンツ様まで処罰に巻き込まれなくて良かったとは思う。
そして、夜会から一か月半。
ようやくリーガリア国からお父様が到着した。




