40.シンディ様の入場
入場したら自由に楽しんでいていいと言われているので、
ダイアナとアラベルを探そうとする。
きょろきょろと見回していたら、ダイアナたちのほうから来てくれた。
「ダイアナ、アラベル。探していたところだったのよ」
「絶対に挨拶しようと思っていたので、入場されるのを待っていたんです。
ドレス姿のルーチェ様、本当にお綺麗です……」
「ええ、夢の中の住人のように美しいですわ」
ぼうっとしているような二人に慌ててしまう。
「もう、褒めてくれるのはうれしいけど、言い過ぎよ。
二人のドレス姿もとっても綺麗ね!
あ、アルフレッド様、この二人は友人のダイアナとアナベルです」
「ダ、ダイアナ・リリールと申します」
「……アラベル・ラリットと申します」
アルフレッド様が相手だと緊張するのか、
なんとか名乗った二人にアルフレッド様は軽く微笑んだ。
「話は聞いている。ルーチェと仲がいいと」
「光栄です!」
「ありがとうございます!」
二人に向けて笑ったことに驚いて、何も言えなくなってしまう。
「王弟殿下、ルーチェ様。私の婚約者を紹介してもよろしいでしょうか?」
「あ、そうよね。婚約者と来ているのよね。
ええ、紹介してほしいわ」
「ああ、かまわない」
私たちから許可が出るまで離れていたのか、
ダイアナは近くにいた令息に視線を向けた。
それに気がついた令息はこちらに急ぎ足で来る。
やはり緊張しているのか、顔がひきつりそうになっている。
薄茶色の髪に精悍な顔立ちの令息はダイアナの隣に立つと、
アルフレッド様にむかって臣下の礼をした。
そういえば婚約者が騎士だと言っていた。
「こちらが私の婚約者のコームです」
「コーム・バロワンと申します」
「バロワン侯爵家の方なのね」
聞けば、侯爵家の二男で今は騎士をしているけれど、
後々はバロワン侯爵家が持つ伯爵位を二人で継ぐことになるらしい。
「騎士になるのは夢でしたので、あきらめられなかったのです。
両親を説得して爵位を継ぐまでの間だけ許してもらいました」
「……コームが訓練しているところをよく見る。
剣筋も悪くないし、騎士として申し分ないだろう」
「ありがとうございます!!」
そういえばアルフレッド様にあこがれている騎士が多いと聞いた。
コームもそうなのか、褒められて涙目になっている。
それを見たダイアナがよかったねとハンカチを差し出した。
ダイアナとコームも仲が良さそう。
そういえば、婚約者のためにアントシュ語を習おうとしていたのだった。
今のダイアナの話し方はアントシュに近くなっている。
柔らかい発音はこういうときに役にたっているのかもしれない。
その時、シンディ様の入場が告げられた。
アルフレッド様と私が先に入場すれば騒がしくなるので、
その隙にこっそり入場させようとしていたのだけど、
残念ながらそれは無理だったようだ。
入場が告げらえた途端、大広間は静まり返り、
誰もがシンディ様のほうに注目している。
そんな中、シンディ様は一人で入場してきた。
青いドレスに髪と首元に黒いリボン。
まるで私とおそろいのようなドレス……。
ほんの少し嫌だなと思ってしまった。
シンディ様も青い目だから青いドレスは仕方ないけれど、
黒を身にまとっていいのは私だけなのに。
これではまるでアルフレッド様の婚約者が二人いるみたいに見える。
「大丈夫か?顔色が悪い」
「いえ……少しだけ嫌だなって思ってしまって」
「シンディに何かされたのか?」
「そうではなくて……黒を身につけるのは私だけがよかったなって」
「……ああ、そういうことか。
俺が贈ったのはルーチェだけだ。機嫌を直してくれないか?」
「……ええ。もう大丈夫です」
優しく頬をなでられて、嫌だった思いなんてどこかに行ってしまった。
アルフレッド様が贈ったのは私だけなのに、気にしても仕方ない。
微笑み合っていたら、シンディ様に見つかってしまった。
「どうしてっ」
シンディ様の声が少し大きくて、また注目されている。
私たちも驚いてシンディ様を見る。
シンディ様は私たちを見ていた。
「どうしてなのよっ」
もう一度大きな声で叫ぶと、つかつかとこちらへ来る。
アルフレッド様が私を庇おうとしたけれど、どうしても背中は見せなくないのか、
後ろから抱きしめられるようにして隠された。
「離れなさいよ!アル兄様がエスコートするなんて、どうして!?」
「どうしてと言われても……婚約者だから」
「たとえ婚約者でも!ただの政略結婚で形だけの婚約者じゃない!
アル兄様が優しくするわけなんてないのに!」
それが悲痛な叫びに聞こえた。
きっとシンディ様はそう思うことで無理に納得させていた。
私も形だけの婚約だと思っていたのだから、わからないでもない。
でも、今はもう違う。
気持ちを確かめ合ったのだから、自信を持って言える。
「私とアルフレッド様は政略結婚でも形だけの婚約でもないわ。
お互いに望んだから婚約したのよ」
「嘘よ!絶対に嘘だわ!」
どうしても信じたくないのか、シンディ様は耳をふさぐ。
「アル兄様は誰からも愛されないのよ。だから、私だけは見捨てないであげるの!」
「え……」
「だって、アル兄様は冷酷王子なのよ。
女嫌いで、誰にも優しくなくて、誰のことも愛せないの。
結婚しても、まともな結婚生活なんて送れるわけないんだから!」
「そんなことないわ。だって、アルフレッド様は優しいもの。
出会ってからずっと、私には優しかったわ!」
「嘘つかないで!」
ああ、だめだ。私が何を言っても聞いてくれない。
この騒ぎに貴族たちが興味を持ってしまった。
誰もが耳をすませて私たちの争いの結果を気にしている。
私たちが争っていることに耐えられなくなったのか、アルフレッド様が口を開いた。
「まったく……誰が女嫌いだと言ったんだ」




