33.隠したかった事実
「国王に選ばれ、俺は後見人を選ぶ前に王命を出した。
母上とその侍女たちを捕らえろと」
「命じたのはアルフレッド様だったのですか?」
「そうだ。実の母親を捕まえろと言ったんだ。
ひどいだろう?」
「それは……」
「母上は何を言われたのか理解できていないようだった。
あんな表情の母上を見たのはあれが初めてだったよ」
その時のことを思い出したのか、悲しそうな顔をした。
「でも……命じたからと言って、周りは動いたのですか?
いくら国王になったからとはいえ、議会の者たちは王妃の味方だったのでは?」
「議会の者たちはそうかもしれないが、実行力は騎士団にある。
当時の騎士団長はとてもとても頭の固い男で、
国王が命じれば冤罪だとしても即座に処刑するような性格をしていた。
だから、六歳とはいえ、国王になった俺が出した王命に従った。
騎士団長に指示された騎士たちが動き、逃げようとする母上たちを捕らえた」
横顔しか見えないけれど、アルフレッド様の眉間のしわが深くなったように感じた。
「母上は俺をののしっていた。裏切者、誰にそそのかされたのか、と」
「アルフレッド様は自分で決めたのですよね?」
「そうだよ。俺が国王になるのは間違っているのだから。
他国の言いなりになる母上が後見人になったら、この国は終わる。
だから、俺は国王として邪魔な者たちを片づけ、
留学から兄上が戻って来るのを待って譲位した」
「それでは、エッカルト様がアルフレッド様を国王にしたいのは」
「俺に国王の座を返したいんだよ。
そんなことせずに、ラウレンツに継がせていいって言っているんだが」
「そういうことだったのですね」
おかしいと思っていた二人の関係がやっとわかった気がした。
息子よりも弟を優先するエッカルト様と、
どこか遠慮しているようなアルフレッド様。
そして、あの塔にはアルフレッド様のお母様たちが閉じ込められている。
もう十五年もの間、ずっと外にも出られずに……。
「失望しただろう」
「え?」
「ルーチェは塔に閉じ込められていた。
母上たちの気持ちがわかるんじゃないか?」
「……どうでしょう」
「軽蔑されても当然のことだと思う。
俺がしたことはルーチェの叔父と同じことだ」
「そんな!アルフレッド様は叔父様とは違います!」
「そう言ってくれるのはうれしいけれど、
嫌いになったのなら正直に言ってくれてかまわない。
俺は……いつでも婚約解消に応じるから」
そう言うけれど、アルフレッド様の表情はそうしたくないように見える。
きつく叱られた後の子どものような、途方に暮れた顔。
甘えたいのに、また叱られるかもしれないと思って、しょんぼりしている。
考えるよりも先に手が伸びていた。
「……? どうして」
「えっと、なぜか頭を撫でたくなったような?」
気がついたら、頭を撫でていた。
アルフレッド様が落ち込んでいるような気がして、
頭を撫でたら少しは元気が出るんじゃないかと思った。
「俺を嫌いになったんじゃないのか?」
「いいえ?少しも嫌いになっていないですよ」
「どうして」
「どうしてって、アルフレッド様はこの国のことを考えて、
エッカルト様が王になるのが正しいと思ったから、
そのように行動しただけですよね?」
「そうだが……」
「お母様が閉じ込められたのは、議会の貴族を脅すようなことをして、
自分が権力を持とうとしたからですよね?」
「ああ、そうだ……」
「では、悪いのはお母様たちのほうですよね?
この国をルーデンガ国のいいようにさせるわけにはいきませんもの」
事情はわかったし、ずっと塔に閉じ込められているのは可哀そうだとも思う。
だけど、それは自分たちが悪いことをしようと企んだのが悪い。
実行したのが実の息子だということに、ショックを受けたかもしれないけれど。
それでも他国から来た王妃に実権を握らせるわけにはいかない。
アルフレッド様がしたのは正しい行いだ。
「もしかして、今までそのことを隠そうとしていましたか?」
「……ああ」
「それは私が塔に閉じ込められていたから、
その怒りをアルフレッド様にぶつけると思って?」
「ああ」
「まさか、お茶会などに行かせなかったのも?」
「いや、それは違う。ルーチェを狙うものがいたからだ」
「え?私を?まさかあの襲撃のようなことがここでも?」
「……黙っていて悪い。お茶会に行けば間違いなく毒を入れられていた。
精霊を連れて行けばわかるのだろうけど、確実とは限らない。
襲撃が重なれば、俺が守るのも限界になる」
「だから、この宮にいさせたんですね。
ここなら入り口が一か所だから守りやすいと」
「その通りだ」
私が幼かったから知らせなかったのか、
今まで不思議だと思っていたことがわかってくる。
「……私に嫌われたくないですか?
ここから、いなくなってほしくないですか?」
「……ああ」
「じゃあ、ここにいます。ずっと。
アルフレッド様が私を嫌いになるまで」
「そんなことはありえない」
「では、一生ここに置いてください。
いえ、ここではなく、アルフレッド様の隣にいさせてください」
「いいのか?今なら逃がすこともできる……」
「逃げていいのですか?」
「……」
逃がすこともできるといいながら、表情は嫌だと言っている。
この人は愛情をどうしていいかわからないんだ。
なら、私がその分も素直に言えばいい。
「アルフレッド様が好きです。
だから、私を逃がさないでください」
「……ああ。ありがとう」
振り向いたアルフレッド様にぎゅっと抱きしめられる。
子どものように抱き上げられていた時と同じ距離なのに、
こんなにも伝わってくる気持ちが違っている。
ようやく……婚約者になれた気がした。




