30.学園での話題
その日はいつもよりも少しだけ学園に早くついた。
まだ人の少ない教室で、二人の令嬢がドロテの話をしていた。
「本当にシンディ様は何を考えていたのかしら」
「本当ですわ。護衛騎士の面接に落ちたというのなら、
何かしらドロテに問題があったと思うのが普通ですもの」
「そうよね。それなのに自分の護衛にしてまで学園に連れて来て、
ルーチェ様に無理やりお願いするように仕向けるなんて」
話している令嬢の一人は入学初日に私に質問してきた、
薄茶色の髪に水色のリボンをつけている令嬢だった。
もう一人は金髪をゆるく巻いた令嬢。
こちらは話したことはないが、この二人はいつも一緒にいる。
二人ともシンディ様の取り巻きだと思っていたけれど、
この言い様では違うのかもしれない。
「もしかして、ルーチェ様への嫌がらせだったのでは?」
「それはありえるわね。
王弟殿下をルーチェ様に取られたと思っているのでしょう?」
「ルーチェ様が取ったわけではないと思うけれど。
婚約したのはアントシュ国との政治的な取引の結果だと思うわ。
ルーチェ様に嫌がらせしても仕方ないのに……気の毒だわ」
意外にも私に好意的な考えをしているようだ。
これ以上立ち聞きするのはよくないと、教室の中に入る。
二人は私の姿を見て、慌てだした。
「ルーチェ様!?」
「あ、あの、今の聞いて……」
「途中からだと思うけれど、聞いていたわ」
「え、申し訳ありません!」
「大丈夫よ、気にしないで」
本当に気にしなくていいと思っていたからか、
こんなところで話している二人のうっかりさが面白かったからか、
知らずに笑顔になっていたらしい。
「ルーチェ様が笑ってる……」
「あら、笑ってた?ごめんなさいね、馬鹿にしたわけじゃないのよ?」
「あ、あの……私、ずっとルーチェ様に謝ろうと思っていたんです。
初日に変なことを言ってしまって……申し訳ありませんでした」
あの時は気が強い令嬢だと感じたけれど、そこまで悪い気はしなかった。
本当に悪かったと思っているらしく、しっかり目を合わせて謝られる。
「あのことはもういいわ。気にしないで」
「それで……あの、実は私もアントシュの話し方を真似しようと思って……。
今、練習しているんです」
「まぁ……もしかして、騎士に知り合いが?」
「婚約者が騎士なんです」
騎士の間でアントシュの話し方が流行っていると聞いていた。
そして、その恋人たちも真似していると。この令嬢もそうらしい。
「アントシュの話し方は難しいんじゃない?」
「そうなんです。思っていた以上に難しくて……」
「私でよければ教えるわよ?」
「本当ですか!お願いします!」
「私も、お願いします!」
隣にいた令嬢も好きな人が騎士らしい。
二人でアントシュの話し方をこっそり練習していたそうで、
今日も早くから教室にいたらしい。
「ダイアナ・リリールと申します」
「アラベル・ラリットと申します」
「二人とも侯爵家だったわよね。これからよろしくね」
「「はい!」」
薄茶色の髪に水色のリボンを結んでいるのがダイアナ。
金髪の髪をゆるく巻いているのがアラベル。
どちらも侯爵家で議会でも力を持っている家だったと思う。
この国に来て令嬢と話すのは初めてだったけれど、
この二人は嘘をつかずにはっきりと話すからか、
仲良くなるのはあっという間だった。
「それにしても、ルーチェ様はシンディ様に怒らないのですか?」
「怒る?もしかして、ドロテのこと?」
「そうです。あのやり方はないと思ってみていました。
あんな風に周りから言われ続けたら、
護衛騎士にしないほうが悪者みたいじゃないですか」
「そうですよ。一度護衛騎士の試験を落ちたというのなら、
何かしら欠点があったと思うのが普通ですのに」
「あれを見て私たちはシンディ様のそばにいるのをやめたのです」
「そういうことだったのね」
入学当初はシンディ様と一緒にいたはずの二人が、
どうしてシンディ様を責めるようなことを言っているのかと思ったが、
ドロテが護衛騎士になる少し前に仲違いしたらしい。
「何も言わなくていいんですか?」
「私が言わなくても、学園中から非難されているわよね?
シンディ様と一緒に応援していた令嬢たちも」
「何人かは学園を休んでいますね。
おそらく親に叱られたのでしょう」
「まぁ、そうなのね」
少し可哀想だと思ったけれど、そうでもないかもしれない。
王女の護衛騎士を選ぶのに口出しして、王弟を危険にさらしたのだ。
あれが夜這いをかけたのではなく、暗殺だったとしたら。
シンディ様と令嬢たちにも何かしらの処罰があっただろう。
二人と話していたら、シンディ様が教室に入って来た。
いつもたくさんの取り巻きを連れていたのに、今日は誰もいないようだ。
私たち三人が話しているのを見て、驚いた顔になった後、きっとにらまれる。
「ルーチェ様、見ました?今の」
「シンディ様、こちらを見てにらみましたよね?」
「そうみたい。私のこと、嫌いなのかしら」
「ですが、ルーチェ様は何もしていませんよね」
「ええ。入学前はシンディ様の話を信じてしまっていましたけど、
ルーチェ様がシンディ様に嫌がらせしているところは一度も見ていませんし」
「もしかして、シンディ様は私に嫌がらせされていると言っていたの?」
「はい」
「お茶会のたびに言っていましたわ」
シンディ様に嫌われているのはなんとなくわかるけれど、
まともに話したことすらないんだけどな……。
きっとアルフレッド様と婚約したのが気に入らないのだと思うけど、
こればかりは譲るわけにもいかない。
たとえ、本当の妹だとしても。




