24.剣技場
そうしてアルフレッド様が忙しいと言い出してから二週間。
学園から戻ってきたら、そのまま剣技場へ来るようにと言われる。
危ないから剣技場には近寄らないようにと言われていたのに、
呼ばれるなんて何があったのだろう?
侍女のメアリーは宮に戻し、ジルとルウイを連れて剣技場へ行く。
剣技場の扉を開けると、土と何か鉄のようなものが混ざった臭いがする。
土のままの剣技場をぐるりと観覧席で囲むようになっている。
その中央のあたりで剣を持って戦っている者が数名見える。
怒声や剣がぶつかる音があちこちから聞こえてくる。
「……ルーチェ様、大丈夫ですか?
令嬢によっては土の臭いや剣の音を嫌がる方もいますし、
戦っているところを見て気を失う方もいます」
「少し驚いたけれど、私は大丈夫よ」
「本当ですか?」
「ほら、旅で襲撃されたの覚えているでしょう?」
「……そうでしたね」
「あれに比べたら何も問題ないわ」
二人は私がテントの中で襲撃されたのを思い出したのか、
納得するようにうなずいた。
「じゃあ、アルフレッド様のところに案内しましょう」
「ええ、お願いね」
アルフレッド様が訓練をしているという場所まで行こうとしたら、
そちらではないところにアルフレッド様がいるのが見えた。
「ジル、あそこにいるのはアルフレッド様じゃない?」
「……ああ、本当ですね。
ですが、ルーチェ様をいつも訓練しているところに連れて来るようにと」
「後で来るのかしら」
アルフレッド様の周りには女性騎士が何人もいる。
その中にいた背の高い女性騎士がアルフレッド様に近づいて声をかけた。
アルフレッド様はいつも女性には冷たい顔しかしない。
当然、女性騎士たちにもそうだと思っていたけれど、
ほんの少しだけ笑ったように見えた。
「……今、アルフレッド様、笑った?」
「笑いましたか?私にはいつも通りに見えましたが」
「ごめん、私の気のせいかもしれない」
ううん、気のせいじゃなかった。
今、背の高い女性騎士に向かって笑ってた。
どんな話をしていたんだろう。
今までアルフレッド様が笑ってくれるのは私かアズの前だけだったのに。
アルフレッド様がほんの少しだけ人前で笑った。
それだけのことなのに、頭から離れない。
「ジル、ルウイ、行きましょう」
「あ、はい。案内します」
そちらを見ないように、二人に案内をしてもらう。
アルフレッド様がいつも訓練に使っている場所に着くと、
そこにはテーブルと椅子が用意されていた。
「このテーブルと椅子って」
「ルーチェ様がここにいらっしゃるというので、
アルフレッド様が用意させていましたよ」
「そうなんだ。庭の椅子と同じ」
どうやら私がここに来るからとわざわざ用意してくれたらしい。
座って待っていると、すぐにアルフレッド様は来た。
だが、さきほどの女性騎士たちも連れて来ている。
「もう来ていたのか。待たせて悪い」
「いえ、それほど待っていませんよ」
「そうか。今日、ここに呼んだのはルーチェの護衛を増やそうと思ったんだ」
「私の護衛ですか?」
「学園に通うようになったし、これから夜会にも出る。
女性しか入れない場所での護衛が必要になるだろう」
「……そうですね」
言われてみれば、必要だというのはわかる。
化粧直しをしに行くのにジルとルウイを連れて行くわけにはいかない。
今のところ、メアリーとカリナがいるから問題はないけれど、
二人は侍女であって、私を守れるわけではない。
「ここで一通り剣を振ってもらう。
気に入ったものを選んでくれ。
その後でアズの面接をする」
「わかりました」
いつも使用人はアズが質問をしてから精霊に確認するけれど、
護衛騎士ということで、剣の腕も見るらしい。
連れて来られた女性騎士は四人。
その中に先ほどの背の高い女性騎士もいた。
四人は一生懸命に剣を振っているけれど、
残念ながら私には良し悪しがわからない。
こそっと、ジルとルウイに聞いてみる。
「あの四人の腕前は二人から見たらどうなの?」
「悪くはないですが、良くもないですね。
全員がまだひよっこという感じです」
「女性騎士を入れたのはここ二年ほどのことなので、
まだそれほど強い者はいないでしょう」
「そうなんだ。みんな、これからなんだね」
私がアントシュからベルコヴァに来た旅には女性騎士はいなかった。
その後で女性騎士を育てるようになったらしい。
「選べと言われても、わからないわ……」
「問題なければ、全員をアズの面接させよう」
「それでいいと思います」
本当はあの背の高い女性騎士だけは少しだけ嫌だなって思ってしまった。
アルフレッド様が笑いかけたことが気になって、
どんな理由があるのかわからなくて、まだもやもやしている。
だけど、そんな理由で落とすわけにはいかない。
アズの面接は次の日に行うことになった。




