23.流行
学園が始まって一か月。
初日はどうしようかと思っていたが、意外にも学園生活は穏やかだった。
時折、シンディ様がにらんできていたけれど、声をかけてくることはない。
それ以外の令嬢は私にからんでくることはなかった。
そして、私が発言したことで意外なところに影響が出ていた。
馬車に乗って学園から帰る間、侍女のカリナからそのことを聞いて驚く。
「え?アントシュの話し方が流行っている?」
「そうみたいですよ。女官たちの間で流行り始めて、
学園の令嬢たちの間でも流行り始めてるのだとか」
「どうしてそんなことに?」
令嬢たちにはかなり感じの悪いことを言ったと思うのに、
アントシュの話し方が流行る理由がわからない。
「王弟殿下の影響だと思います」
「アルフレッド様の?」
どうしてここにアルフレッドが出てくるのだろう。
首をかしげていたら、ジルとルウイが教えてくれる。
「騎士たちの間ではアルフレッド様の人気が高いんです」
「だから、アルフレッド様がアントシュの話し方が気に入ったと言えば、
騎士たちが真似してアントシュの話し方がいいと言い出します。
それで、騎士の恋人たちがアントシュの話し方をし始めたんです」
「騎士たちが……なるほどね」
そんなことでも真似したいほどアルフレッド様の人気があるってことなんだ。
「ねぇ、カリナ。令嬢たちがアルフレッド様にあこがれて、ということはないの?」
「……それはないと思います。
残念ながら令嬢たちの間では王弟殿下の人気はあまりないので」
「不思議ね。どうして人気がないのかしら」
学園に通うようになって、いろんな令息に会ったけれど、
どの令息よりもアルフレッド様のほうが素敵に見える。
王宮にいる文官や騎士たちと比べてもそう。
アルフレッド様よりも素敵な人は見たことがない。
それなのに、シンディ様以外で、
アルフレッド様を好きだと言っている令嬢に会ったことがない。
「もともと、黒髪はこの国ではあまり見かけないですからね」
「そういえば、王妃様は他国の人だったわね。
人気がないのは黒髪が原因なんだ……あんなに素敵なのに」
思わずそう言ってしまったら、三人ともにやついてこちらを見ている。
「……何?」
「いえ、ちゃんとアルフレッド様と愛しあっているのだなと」
「愛し……!?」
「俺は心配していませんでしたよ。だって、お二人はいつも仲いいですしね」
「仲は……いいと思うけど」
「あと三年もすれば結婚式になりますしね。楽しみですわ」
「結婚……」
本当に結婚するのかしら。
そう思ったけれど、ここでは言わないでおいた。
お父様とお兄様の行方はわからないまま。
陛下とアルフレッド様はあきらめずに探してくれているそうだけど。
もうあきらめてもいい頃なのかもしれない……。
そうなれば、このままアルフレッド様と結婚して、
王弟妃になって……この国で生きていくことに。
でも、まだ……それでいいと納得できていない。
城に馬車がついて、アルフレッド様の宮へと戻る。
だが、出迎えてくれたのはアズだけで、
アルフレッド様は剣技場から戻っていなかった。
いつもなら私が帰る時間には戻って来ているのにめずらしい。
「もう少しで戻ると思いますが」
「忙しいの?」
「そうですね……しばらくは忙しいかもしれません」
「そうなんだ」
何か事情があるのかなと思いながら庭の花の世話をする。
この宮にいる使用人は増えたけれど、
ここだけは私とアルフレッド様とアズだけで世話をしている。
精霊が懐いている者だけしか入れないようにしたからだ。
「……ねぇ、アズ。精霊の数がまた増えた気がするわ」
「おや、そうですか。ベルコヴァの緑が増えたのかもしれませんね」
「森が増えたわけじゃないわよね?」
「この宮で花を育てているという噂が広まったので、
売るために王都内で花を育てている商人が増えたせいでしょう」
「城でのことが王都にも影響するのね」
アントシュの話し方と同じかな。
影響力のあるものの行動が他の者へと広まっていく。
「まぁ、悪いことではないですからね。
精霊が増えているのなら、いいことでしょう」
「それもそうね」
たとえ精霊が見えなくても、作物の育ちや空気の清浄にも役に立っている。
この国のためには良いことに違いない。
そうしてアルフレッド様が忙しいと言い出してから二週間後。
学園から戻ってきたら、そのまま剣技場へ来るようにと言われる。
危ないから近寄らないようにと言われていたのに、
剣技場に呼ぶなんて何があるのだろう。
侍女のメアリーは宮に戻し、ジルとルウイを連れて剣技場へ行く。
剣技場の扉を開けると、土に何かが混ざったような匂い。
周りを観覧席に囲まれた中央は土のまま。
その土の上ではあちこちで剣を持って戦っている者が見える。
「……ルーチェ様、大丈夫ですか?」




