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7.開戦の夜明け

趣味で始めた物語ですが、ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

読んでくださる皆さんに、これからも少しでも「面白い」と思ってもらえる作品を届けられるよう、精一杯頑張ります!

──目を覚ますと、洞窟の奥には赤い光が差し込んでいた。


外に見えるのは、この扉の中に浮かぶ太陽のような光だ。ゆっくりと沈み、森全体を赤く染めていく。鳥の声も風のざわめきも消え、時間が止まったかのような静寂が洞窟に満ちていた。


「……沈んでる……この世界にも夜はあるってことか……」

隼人が小さくつぶやく。声にはまだ戸惑いと、恐怖にも似た感情が滲んでいた。


洞窟内には、炎の魔法で焚き火を灯した明かりが柔らかく揺れている。俺は目を凝らして周囲を見渡した。どうやら、俺が仮眠を取っている間に、他の参加者三十人も合流したようだ。最初に戦闘を経験した二十人と合わせ、総勢は五十人になっている。しかし、全員が戦闘に参加できるわけではない。戦闘向きでないスキルを持つ者、合流までに負傷した者、そしてボスへの恐怖で精神的に萎縮してしまった者もいる。


洞窟の奥に目をやると、昼間の戦闘で火傷や切り傷を負った者たちが、毛布や簡易の布で包帯を巻き、震えて座っている。中には顔を手で覆い、視線を床に落としたまま動けない者もいる。


「……本当にもう一度あの化物と戦うのか……」

小声でつぶやく者がいた。


その声に、近くの別の参加者が無言でうなずく。手の震えを必死に抑え、恐怖と戦っているのが伝わってくる。


本郷さんは焚き火の火を見つめていたが、覚悟が決まったように立ち上がり、声をあげる。


「……よし、休息はここまでだ。全員、集まってくれ。作戦を考えよう」


呼びかけに応じ、洞窟内の参加者たちが次々と集まる。ざわつく声、戸惑いの声、恐怖に押しつぶされそうな声——その全てが洞窟内の静寂に波紋のように広がる。負傷者は補助の仲間に支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。


本郷さんは冷静な声で皆にウィンドウを開くよう指示した。マップには赤い“BOSS”の印が浮かぶ。その少し離れた位置に、参加者五十人の位置が点滅している。


「ボスの位置は固定っぽいな……多分、縄張り意識が強いんだろう」

本郷さんの言葉には確信はない。あくまで予想に近い説明だ。


「夜の間に奇襲とか……無理ですかね?」

不安げに誰かが尋ねる。


「無理です。暗闇であの巨体に挑むのは自殺行為です」

昼間の戦闘を経験している俺が答えた。


本郷さんは真剣な表情で口を開く。

「夜明けと同時に全員で叩く。太陽の沈む動きから考えると、現実世界とそう変わらないだろう……あと、9時間くらいだ」


近接班、魔法班、治癒班——それぞれの役割を簡潔に指示する本郷さんの声に、参加者たちの表情は固くなる。


「近接武器使いは左右から。魔法が使える異能者は同時発動で焼く。遠距離武器はダメージが通らない。状況を見て近接のサポートをしてやれ。雪菜、お前の《ミラーブレイク》はヤバくなったときの切り札だ」


「はい……わかりました」

雪菜も戸惑いながらも、覚悟を決めた表情を見せる。


「治癒班は三名。負傷者優先、過剰回復は禁止だ。……お前も、それでいいな?」

本郷さんの視線が治癒少女に向けられる。


「ええ。余計な回復はマナを無駄にするだけです。戦闘不能者の蘇生を優先します。私以外の二人のスキルは、私ほど治癒力があるわけではありません」


冷静な声が洞窟内に響く。参加者たちは、その口調に驚く者もいたが、俺は少し安心感を覚えた。


「……わかった。よしお前ら、夜明けまでに、できる限りマナを回復しろ!解散!」


本郷さんは簡潔に指示をまとめた。


焚き火が小さく弾ける。洞窟に緊張と疲労が漂う中、参加者たちは思い思いに体を休め始めた。負傷者は座り込み、包帯を確かめる。恐怖に震える者は小声で仲間と声を掛け合っていた。


夜が更ける頃、俺は目を覚ました。仮眠は取れたものの、深く眠ることはできなかった。気晴らしに外へ出ると、森の奥から冷たい風と虫の音が届く。その音に紛れるように、微かな光が揺れていた。霧のように立ち込める空気の中、森の輪郭が赤く浮かび上がる。


中に戻ると、治癒の少女が焚き火のそばに座り、ウィンドウを見つめていた。


「まだ起きていたんですか」

「マナは回復しました。今はステータスの割り振りや、明日の戦闘の作戦を考えなければなりません」


淡々とした声。横顔には緊張や疲労の影は感じられない。


「無理したら意味ないですよ」

「倒れる前に治せます」

「便利ですね」

「……皮肉ですか?」

「違います。率直な感想です」


沈黙が続く。焚き火の火が小さく弾け、翡翠色のブレスレットが淡く光を返す。火の揺らぎが二人の影を壁に映す。

ふと、彼女は俺の指を見た。そして口を開く。


「あなたのその指輪、一体化してるようですね。もしかして、試練を受けて手に入れたのですか?」


彼女の発言に、俺は驚いた。自分たち以外から試練の話が出るのは初めてだったからだ。


「ああ…はい、俺と雷を纏ってたやつ、それに氷魔法を使ってたやつが試練を受けています。もしかしてあなたも…?」


「ええ、私も試練を受けました。……他の異能者にも軽く聞きましたが、試練を受けた人はいないようです」


(……そうか、俺たちだけじゃなかったのか……)


彼女は指先でブレスレットを撫でながら、言葉を切る。焚き火の赤い光が揺れ、影が彼女の顔に映る。静かな空気の中、微かに息をつく音だけが響いた。


俺はその沈黙に少し気まずさを覚え、何か言うべきか迷った。しばらく互いに黙ったまま時間が流れる。少女は視線をブレスレットから少し上げ、赤く染まる森の奥をじっと見つめていた。その横顔に、微かだが覚悟の色が見える。


俺はふと、聞いていなかったことを思い出し、口を開いた。


「……あの、名前を聞いてもいいですか?」


彼女はしばらくこちらを見つめ、やや間を置いてから答えた。


「名前を聞くのなら、まずは自分から言うべきです」


俺は軽く肩をすくめる。


「わかりました。じゃあ、まず俺から」

「はい」

「俺は創馬優人です。高校1年生で16歳です」


彼女はあまり興味がなさそうに聞いているが、視線を完全には外さない。


「で、あなたは……?」


今度はあなたの番だと問いかけたが、彼女は静かに首を振った。


「言いたくありません」


(なんて理不尽な……)

俺は心の中で嘆く。


しかし、少女は小さく息を吐き、一人言のように話を続けた。

「でも……戦いが終わったら、教えてあげてもいいです」


俺は少し驚いた。

「……そうか、生き残ったら教えてくれるのか」


少女はゆっくりと頷き、立ち上がる。


「では、私は寝ます」


彼女は言葉を残し、洞窟の壁にもたれかかって静かに座る。


彼女がいなくなった空間で、俺は一人つぶやいた。


「生きて帰らなきゃな……」


静かに、でも確かな決意を込めて。恐怖はある。だが、立ち止まっていても何も始まらない。胸の奥で、緊張と決意が混じり合う。


「よし、俺もステータスの確認をするか」


最初の試練に加え、ここでの戦闘で得たステータスポイントを割り振ることを決める。夜明けまで時間は限られている。

ボスとの戦いまで、残り四時間


──────────────


「お前ら起きろ! そろそろ出発だ!」

本郷さんの声に、俺は目を開いた。


眠気の残るまぶたを擦りながら、参加者たちはそれぞれ武器や魔法の準備を始める。包帯を巻き直す者、マナを確認する者、静かに深呼吸を繰り返す者。洞窟の入り口から差し込む朝日が、赤みを帯びた影を壁に落とす。異世界の洞窟だが、朝の光はどこか日常を思い出させる。


後ろを見ると、治癒の少女は昨日と変わらず冷静な表情で準備をしていた。しかし、明るい光の中で見るその顔には、微かに緊張が感じられた。


俺も準備を終え、マップに目をやる。そこであるアイコンに気付く。

「…あれ、この人たちのアイコンは…」

洞窟から少し離れた場所に、三人の異能者のアイコンが浮かんでいた。


「逃げ出したんだろう」

本郷さんが淡々と声をかけてくる。


「まぁ、しょうがねぇ。あんな化物を見ちまったやつは、心が折れて戦えなくなっても当然だ。幸運なことに、雑魚モンスターはボスが現れてからは沸いてない。逃げたやつらが死ぬこともないだろう」


(そうだよな……俺たちは、またあの化物と戦うんだ……)

胸の奥に恐怖がわずかに芽生える。だが、それ以上に、覚悟が静かに生まれていることも感じた。


「優人、絶対に勝とうぜ」

隣で隼人が震える声で言う。自分も怖いはずなのに、俺を鼓舞するその言葉に、背筋が少し伸びた。


「戻ったら向こうで打ち上げしましょ」

雪菜の微笑みは緊張を消す力はない。それでも、その前向きな言葉に、胸が少しだけ軽くなる。


2人を見て、俺も気合を入れ直す。恐怖も不安もある。それでも、ここで立ち止まるわけにはいかない——そう自分に言い聞かせる。


「お前ら、覚悟はいいな? 出陣だ!」

本郷さんの声が洞窟に響いた。



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