2.異能と扉
焼けつくような赤光の中、亡霊剣士が一歩、また一歩と迫ってくる。
そのたびに床石が軋み、空気がひずんだ。
俺は構える。右手の中で、黒の剣が重く鳴った。
冷たい汗が掌を伝い、柄が滑る。
「お前は誰なんだよ。試練ってなんだよ!」
叫んでも、返事はない。
兜の奥から覗く眼窩の奥で、淡い蒼光がただ揺れているだけだった。
「くそっ……!」
体が震える。真剣なんて、当然振ったこともない。ただの高校生だ。
それでも、逃げるわけにはいかない。
剣士が一閃。赤い残光が視界を裂いた。
紙一重で躱す――が、頬をかすめた熱線が肌を焼く。
痛みに息が詰まり、視界が揺れた。
「……はぁ、はぁ……!」
受け流そうとした瞬間、腕に衝撃。
鈍い音とともに、黒の剣が砕け散った。
(折れた!?)
思考が止まる。だが、次の瞬間――右手の指輪が再び脈動した。
“武装錬金”
頭の奥に、知らない言葉が響く。
身体が勝手に動く。掌をかざすと、砕けた破片が光に変わり、渦を巻いた。
音もなく再構成され、再び剣の形を取る。
「……っ、マジかよ」
できた。
けれど剣は揺れている。刃の表面に微細な亀裂が走り、制御が甘い。力を出しすぎればまた壊れる。
亡霊が滑るように距離を詰める。
その剣速、目で追うのもやっとだった。
「うおおおおおッ!」
力任せに振るう。
衝撃波のような音とともにぶつかり合うが、受け流される。
足元の石畳が割れ、膝が崩れた。
――強い。まるで、何百戦も戦い抜いてきた剣士のようだ。
(こんなの……本当に倒せるのか?)
その時だった、視界の隅で何かを捉えたのだ。
そこには、人間がいた。全身ボロボロの服。
酷く疲れた顔。その顔には、どこか哀しみが宿っていた気がした。
「……お前……」
言葉を続ける間もなく、亡霊が剣を振り下ろす。
反射的に受ける。鋭い衝突音――腕に衝撃が走り、骨がきしみ、膝が折れた。
(駄目だ、受けきれない!)
瞬間、亡霊の剣が爆ぜた。
炎の奔流が天井を舐め、空気が焼ける。
熱風に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「……っがはっ!」
肺から空気が抜ける。視界が白く滲む。
立ち上がらなければ。頭では分かっているのに、体が動かない。
(終わって、たまるかよ…!)
再び、右手の指輪が光る。
焦げた床を拳で叩きつける。
「――武装錬金!」
空気が震える。地面から黒い粒子が巻き上がり、再び刃が形成される。
前よりも荒削りで、歪んでいる。それでも、確かな“重み”があった。
(これでいい。俺の剣は、綺麗じゃなくていい)
亡霊が再び構える。先ほどまでいた人間の影はもうない。
もしかすると、あれは――かつて人だったころの…
「……お前の無念、俺が継ぐ」
気づけばそんな言葉を言っていた。これは俺の想像でしかない。しかしどうしても伝えたくなったのだ。
瞬間、亡霊の瞳がかすかに揺れた。
まるで、何かを“思い出した”ように。
炎が再び吹き荒れる。
亡霊の剣が空気を裂き、俺の剣がそれを受け止める。
黒と紅、ふたつの閃光が絡み合い、中心で炸裂した。
世界が赤く染まった。
耳が焼けるほどの轟音の中、俺は叫んだ。
「俺は――創馬優人だッ!!」
剣が折れる音。
同時に、亡霊の胸元から光が溢れ出す。
亡霊の顔は人間のものになっていた。
男は微笑む。
「……良い、名前だな…………」
光が、すべてを包み込む。
「……後は託す」
――最後に見えたのは、無数の影だった。
黒いゲートの向こうで、誰かがこちらを見ていた。
その目は、懺悔と祈りのように、淡く光っていた。
気づけば、静寂だけがあった。
さっきまで焼けるように熱かった空気は消え、代わりに冷たい夜風が頬を撫でていた。
「……ここは……」
視界を開くと、神社の境内だった。
見慣れた石段。鳥居の赤。けれど、どこか違う。世界の輪郭がわずかに歪んで見えた。
「……おい、優人!」
声のほうを振り向くと、社の影から隼人と雪菜が駆け寄ってきた。
二人とも、どこか様子がおかしい。
「お前ら無事だったのか、って…何だそれ…!」
言葉が詰まる。
隼人の腕から頬にかけて、黒い稲妻のような刺青が走っていた。
皮膚の下で線が淡く脈打ち、指先で触れると微かに痺れを感じた。
一方、雪菜の黒かった髪は根元から銀へと変わり、風に揺れるたびに針金のような冷たい光を放つ。
彼女が一本の髪をつまんで引けば、その毛先が月光を反射し、まるで水銀が躍るように瞬く。
「……は? お前の目も、それ……」
隼人が指差す。
優人は無意識に右目を押さえた。指先が熱い。
反射的に手を離し、スマホで確認しようとした。そして驚愕した。
「……マジかよ、これ……」
優人が息をのむ。
自分の目が燃えるような深紅の瞳になっていたのだ。
「どうなってんだ……俺たち、何されたんだ?」
隼人の声には、わずかな震えがあった。
その震えが、場の空気を一段冷たくする。
雪花もまた戸惑ったように自分の髪を掬い上げ、
指先にまとわりつく水滴を見つめていた。
「気づいたら、光に包まれて……それから、一面の氷の世界に飛ばされてたの。
そこで銀色の鹿と戦ったのよ」
「鹿?」
「うん。でも、敵意は感じなかった。むしろ――私に何かを訴えかけてた。
“乗り越えてみせて”って。そんなふうに聞こえたの」
隼人が眉を寄せる。
炎の残り香のように、その目の奥が揺れていた。
「俺の方は雷の鳥だった。
信じられねぇほど速くて、でも……なぜか戦えた。
あの化け物も、何かを伝えようとしてた気がする」
優人は二人の言葉を静かに聞いていた。
それぞれが異なる“試練”を受けた――偶然とは思えない。
沈黙が落ちる。
森を渡る風が、枝葉をわずかに揺らした。
「……俺たちは、“選ばれた”んじゃないか?」
雪花が目を瞬かせる。
「選ばれた?」
「俺が戦ったのは亡霊の剣士だったんだけど、最後に言ったんだ。
『後は託す』って。何を託すのかまでは分からないけど……やつらが、試練をこえた俺たちの中に、何か残していった気がする」
隼人が舌打ちをした。
「わけわかんねえな……俺たちにどうしろっていうんだ」
「ねぇ、あれ見て…」
雪花に言われ、見た先には、先ほど光っていた場所に3つのアクセサリーがあった。
金のピアス
銀のネックレス
黒の指輪
「…これは神器…?」
自然と手が伸びる。それは他の2人も同じだった。
そして指輪に手を振れたとき、優人の視界に淡い光が走った。
半透明のウィンドウが、まるで空気から浮かび上がるように出現する。
「……な、何だこれ……?」
雪菜と隼人も目を見開く。どうやら優人だけの現象ではない。
ウィンドウには、見慣れぬ文字が並んでいる。
本来理解できないはずの記号の羅列なのに、不思議と意味が頭に流れ込んできた。
《STATUS OPEN》
【創馬優人】
レベル:3
体力:68 / 100
マナ:64 / 100
パワー:8
スピード:6
ディフェンス:7
通常スキル :
武装錬金
武器の構築、破損・喪失した武器の再構築
固有スキル :
エンチャント・コア
武器に属性を付与する(発動時、精神力を消費)
「……これは……」
優人が息をのむ。まるで自分がよく遊ぶRPGのステータス画面が現実に現れたかのようだった。
隼人が手をかざすと光が反応し、別のウィンドウが開く。
【高坂隼人】
レベル:3
体力:81 / 100
マナ:38 / 100
パワー:9
スピード:10
ディフェンス:4
通常スキル:
雷翔
体内に雷を流し、短時間の加速
固有スキル :
ボルト・インパクト
拳に電撃を纏い、一撃の威力を増幅
「うわ、マジでゲームみてぇ……」
隼人が思わず苦笑する。しかし、目の奥はわずかに興奮で光っていた。
雪菜もゆっくり自分の前の光に触れる。
【冬月雪花】
レベル:3
体力:51 / 100
マナ:7 / 100
パワー:9
スピード:3
ディフェンス:9
通常スキル:
氷浄
周囲の温度を制御し、氷結現象を自在に操る
固有スキル :
ミラー・ブレイク
氷面を媒介に、敵の攻撃を一度だけ反射
雪菜が眉をひそめる。
「……もう、何がなんだか分からないわね」
優人は自分の右目に触れ、赤く燃える瞳を肌で感じる。
「でも、これ……俺たちに何かさせようとしてるみたいだな」
「何かって?」
雪菜は首をかしげる。
「この見た目の変化もそうだけど、異能やステータスなんて突飛なものが現れた。
それにあの試練、これから何かに立ち向かうための前触れに思えてくるんだ」
お互いのステータス画面を見せ合いながら情報を少しでも得ようとする。
そんなときだった。
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<<Mission>>
各地に現れた9つのゲートを攻略せよ
Limit 6:39:52:15
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隼人が目を丸くした。
「おい、ちょっと待て……これ、今出たのか?なんだよ“攻略せよ”って」
雪菜が指を伸ばして光に触れる。
「ゲートを攻略ってあの扉を…?どうやって?私たちだけで?」
ミッション…?あの巨大な扉のなかには何があるっていうんだ?
次から次へと疑問が湧いてくる。キリがない。
「色々思うことはあるけどさ、一度、落ち着いた方がいいかもな。今日は一旦解散して、状況整理した方がいいんじゃないか?」
「だな、みんな疲れてるし、無理に動くもんでもねぇ」
雪菜はステータス画面をじっと見つめながら頷いた。
「そうね。じゃあ、明日一度集まるっていうのはどう?」
「いいけどよ、場所と時間はどうする?」
「優人の家に1時にしよ、これ決定ね。」
「強引だなおい…まあいいよ明日の1時に俺の家に来てくれ。そこでまた話し合おう。」
「「了解」」
こうして俺たちはそれぞれの帰路についた。
帰宅したときには午前5時になろうとしていた。
色々考えなくてはいけないことがあるが、今日は疲れた。
ベッドに入った途端、意識はすぐに薄れていく。
薄れゆく意識の中、あの亡霊の言葉が響いた。
「後は託す」
あの言葉に、異能、扉これらがどんな意味を持つのか……ま……………い……………




