覚悟なき搭乗
目の前に晒された、血まみれのコックピット。
ホロの「乗るんや」という言葉が、頭の中で反響する。
死にたくない。あんな化け物と戦うなんて、冗談じゃない。
恐怖が足をすくませる。
けれど、心の奥底で燻る黒い感情が、それを許さない。
(あいつは、私を殺した。あんな理不尽なものが、のさばっていていいはずがない)
相反する感情が渦巻いて、一歩も動けずにいる私に、ホロが畳みかけた。
『ぐずぐずしとる暇はないで、お嬢ちゃん。まずは知恵をつけんと、話にならん』
ホロの光が、せかすように点滅する。
『ええか、よう聞くんやで。こいつは第七世代探査用機械人『ロストテクノロジーオブゼウス』。通称ロゼや』
「ろ、ぜ……」
『ほんで、外にいるんはソラバチ。星々を渡り歩いて、生命体を喰らう厄介な捕食者や』
ソラバチ。その名前を聞いた瞬間、身体に残る「私じゃない私」の記憶が、激しい憎悪を訴えかけた。
『理由は知らん。けど理屈はどうでもええ。一番大事なことはな、お嬢ちゃん』
ホロの声が、一段と低くなる。
『あいつらはアンタを「喰う」ために、血眼で探しとるんや!』
その言葉が、現実を突きつけてきた。
私は、狩られる獲物。そしてここは、逃げ場のない檻の中。
——ガリ、ガリリッ。
その時、不快な音が響いた。巨大な爪が、私たちを覆うロゼの残骸を掻き分け始めたのだ。金属の装甲がたわみ、軋む。見つかるのは、時間の問題。
『……ったく、先方さんももうちょい待ってくれてもええのにな。時間切れや!』
ホロが叫ぶ。
『お前に死なれちゃ計画もパーやし、ワイも困るんや! ちょっと失礼するで!』
次の瞬間、ふわり、と身体が浮いた。いや、ホロが私の身体を操り、私自ら驚異的な脚力で跳躍したのだ。
「ちょ、な…!」
(いやだ、やめて、でも、でも——!)
抵抗しようとする私の意志を、私じゃない私の記憶から流れ込む敵意が鈍らせる。なされるがまま、私の身体は宙を飛び、血の匂いがこびりついたロゼの中へと放り込まれた。
「きゃっ……!」
硬いシートに背中を打ち付ける。
反動で起き上がるより早く、無慈悲な金属音と共にハッチが閉まり、私の視界は完全な暗闇に閉ざされた。




