新居
「ここが、女子寮よ!」
妙にテンションの高いシーに連れられ、私は学校の横に立つ寮の敷地へと入っていく。
学校は、例えればおしゃれば豆腐ハウスという印象だったが、寮は打って変わっておしゃれな構造となっている。3階建の建屋が放射状に並び、中央にホールがあるブロッサムタイプと呼ばれる作りだ。
周囲は柵などの囲いはないが、侵入者を検知する不可視の障壁が展開されているということで、SFで出てきたような技術に感嘆する。
正面から見て右側3棟が男子寮、左側3棟が女子寮、中央のホールは食堂も兼ねているという。
「サーシャさんは教員区画でしたね。割り当てられた棟は……あ、私と一緒ですね。一番手前の1号棟です」
「あーいいなぁ。私は一番奥の3号棟なんだよね。いっつも遠くて大変なの」
ここでシーとアーネスとは一旦別れる。夕食は一緒にと約束しているが、基本的には違う棟との交流はそこまでないのだとミラが教えてくれる。これも学校の方針らしい。
寮に入るとすぐに階段を登る。
侵入者検知対策は万全なので、受付や寮母さんがいるような部屋はないようだ。
「教員区画は3階です。生徒の区画は1階と2階で、私は202号室なの。何かあったらいつでもきてくださいね」
「うん、ありがと。わからないことが多いと思うから頼りにしてる」
「そ・の・か・わ・り、ロゼの操縦技術の特別授業、期待してますから。もちろん個別授業も待ってますからね!」
「あ、あはは……」
やばい。どうしよう。
何も考えてない。
ミラと別れて一人3階に向かう。いや、一人と一匹か。
『だれが匹やねん、だれが』
「ちょ、心の中まで読まないでよ」
割り当てられた部屋は312号室。一番奥の角部屋だ。
「南部屋だといいなぁ」
『いやお嬢ちゃん、フェルンディオに北も南もないで』
「なん、だと……」
『——2000年前のネタ出してくるのやめーや。ワイでも検索に2.8秒かかったで』
広い廊下を歩いていく。部屋は廊下の左右にあり、ホテルのような佇まいで少し気分が高揚する。
「あ、引っ越しのご挨拶しなきゃ。でもなにも準備してない、しまったなぁ」
『へんなとこでまめやなぁお嬢ちゃん。まぁ急がなくてもええんとちゃう?』
それもそうだ。正直今日は着の身着のまま来ているので、本当に寝起きしかできないのだ。
いや、元のサーシャは半分引きこもり生活をしていたので、持っていた生活雑貨も少なく、引っ越しするようなほどでもないのもあるのだけど。
312号室に入る。
鍵は生体認証なのでドアノブを握れば勝手に開く。すごい。
「……ひっろ」
『そうかぁ?こんなもんやろ』
「いやいや、広すぎるって」
建屋の大きさと部屋数が合っていないような気はしていたのだけど、すごく理解した。
一部屋が大きいのだ。
私が住んでいたアパートが1DKで16畳くらいだったと思う。ロゼ部隊の宿舎は広めのホテルといった感じだったので10畳くらい。
しかしここは1LDKで30畳ほどはあるのではないか。
アンナ理事長から最低限のものは揃えておいたと聞いていたのだが、これもまたすごい。
6人がけのダイニングテーブルセットに3人がけのソファ。ソファ向かいの壁はそのままディスプレイになるのだろう。
部屋の照明は間接照明や天井全面が点灯したりと、これまた見たことがない。
寝室にはキングサイズのベッドとサイドテーブル。
キッチンには流石に調理道具はないが、そもそも食堂が別であるのにアイランドキッチンだ。
「……こういっちゃ悪いけど、サーシャだったら絶対に持て余したよね」
『……ノーコメントや』
しばし新居を堪能した私は、夕食の集合時間ぎりぎりになって慌ててホールに向かうので合った。




