穏やかな午後
本日の授業が終わり、私たちはロジャーたちクラスメイトたちに連れられるまま、食堂へと来ていた。 授業後のこの時間は軽食(いわゆる、おやつだ)が振る舞われるらしい。
「それにしても師匠! 先ほどのガルベス先生の質問、見事でした!」 「いや、温故知新って言っただけなんだけど……」 「あの状況で、即座にあの一言が出てくるのが素晴らしい! やはり師匠は座学も!」 「ロジャー、サーシャさん、また困ってるわよ」
私の隣で興奮気味に語るロジャーを、ミラがやれやれといった様子でいなしている。 そんな賑やかな食堂だが、私はあることに気づいて首を傾げた。メニューや券売機のようなものが、どこにも見当たらない。
生徒たちは、カウンターで当たり前のように、全員が同じ皿を受け取っている。今日のメニューは、どうやらショートケーキとお茶らしい。
「メニューは選べないの?」
私が尋ねると、ミラが苦笑しながら教えてくれた。
「ええ。表向きは、『いつ、いかなる時も、どんな食事でも摂取できるようにする』っていう、ロゼパイロットの精神訓練の一環、ということになってるわ」
「へぇー、本格的なのね」
「……まぁ、本当の理由は経費削減のためらしいけど」
「……だろうね」
お昼だけでなく、おやつにまでそのルールが適用されるとは。感心半分、呆れ半分で頷きながら、私もショートケーキを受け取り、ロジャーたちと同じテーブルについた。
しばらくは、ロジャーの「どうすればロゼの操縦が上手くなるのか」という質問(というか尋問)が延々と続いて私含む5人は辟易していたのだが、不意に噂好きのシーが話題を変えた。
「ていうかさー、サーシャさんって、昨日まで何食べて生きてたの? アンドロイドって、ご飯とかどうしてるわけ?」
「え? 私?」
いきなり話を振られて、私はフォークを止める。 そういえば、元のサーシャは、何を食べていたんだろう。私は自分の記憶……いや、この身体に残された記憶を探る。
(えーっと、確か……)
思い浮かんだのは、殺風景な部屋。そして湯気が漏れるプラスチックの容器。
箸を前に正座した私は、3分後きっかりにその蓋をとっていた。
「——カップ麺、かな」
『それも三食ぜんぶ、一週間ぶっ通しやったな』
ホロが、ご丁寧に補足する。
私のつぶやきを聞いて、ミラが眉をひそめた。
「ずいぶんと偏った食事をしていたのね」
「そ、そうだったかもしれない」
私としても、それは完全に同意だった。
「——はっ、まさか! カップ麺こそがあの強さの秘密だったというのか!」
「んなわけあるか! お前キャラ変わりすぎだろ!」
ロジャーが、何か重大な真理にたどり着いたかのように叫ぶが、すかさず、ジェイがツッコミを入れた。
その時だった。 今まで黙々とケーキを食べていたアーネスが、ぽつりと、一言だけ呟いた。
「……カップ麺、おいしい」
一瞬、テーブルが静まり返る。 全員の視線が、アーネスに集まった。彼女は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「「「ええええええええ!?」」」
ジェイとシー、さらにはミラまでも、驚く声が食堂に響き渡る。
そんな、他愛もない時間が、穏やかに過ぎていく。




