授業
「はぁ……。人生で二度も学生生活を味わう羽目になるなんて」
昼下がりの穏やかな人工の日差しが差し込む教室で、私はこっそりとため息をついた。
教室は机がない大学の講義室といった様相で、20名程度いるAクラスの面々は自由に広々とした長椅子に座っている。
初日は午後から登校し、Aクラスの生徒として参加することになった最初の座学。記念すべき科目は「人類宇宙進出史」だ。
よくわからないうちにタイムスリップしてきた私にとってはベストタイミングな授業。けどその前に現代《21世紀》と今の科学の差がすごくてそれどころではない。
生徒の周りには透過ディスプレイ型の教科書が宙に浮き、教壇に立つ歴史のガルベス先生は独特な語り口調で授業を進めては、時折腕を横に振るような動作で生徒にリアルタイムにデジタル資料を配布している。
いや、そんなことよりも私にとってもっと重要なことがある。
(なんで机がないのよ……!)
机がなければメモもできない。寝ることもできない。早弁もできない。いや、メモは宙に浮いているディスプレイにできるみたいだけど、やり方がわからない。そこまで調べてないのだ。
そして私はといえば授業が始まってからというもの、ひたすらにこの宙に浮く教科書を操作してはざっくりとした歴史を流し読みしているのだ。
以前だったらこんな読み方ではテストで赤点確実とも呼べるのだが、このアンドロイドの身体は記憶力も良いが地頭もいいので、ちゃんと理解しながらスラスラと読めてしまう。
(めっちゃチートとじゃん……!)
こんなことが許されていいのだろうか!?2000年後の世界だからいいのか!
『サーシャはん、面白くて夢中になるのはええけど、ちゃんと先生の話ききやぁ?』
「わ、わかってるわよ」
ホロの言葉に私はページをめくる手を止める。
教科書を読んでいて面白いと思ったことなんて数えるほどしかないのだけど、今日はずっと面白い。というか楽しい。
「帰ったら続き読もうっと」
『教科書を娯楽と勘違いしてないかサーシャはん。まぁええけど』
ホロのあきれ混じりの声に、授業は進んでいく。




