彼女
今度こそ、クラスメイト一同があんぐりと口を開けて固まる。
そんな彼らの反応など気にも留めず、ロジャーは掴んだ私の手をぶんぶんと振りながら、興奮したように捲し立て始めた。
「最初の超長距離狙撃! 未整備の機材でどうやってあの精度を出したのですか師匠!? それに強襲時のポジショニング! 恒星を背にして、こちらの死角を完璧に突いていた! 教習機とはいえあの急加速と急制動に耐えうる身体能力も尋常じゃない! あの圧倒的な戦闘技術……! 一体どうすれば俺は取得できますか!?」
「え、えっと、いやあの……それに師匠って」
ロジャーの捲し立てる口調に、私は若干引き気味になる。
見かねたミラが、ロジャーを止めに入った。
「ロジャー、少し落ち着きなさい。サーシャさんが困っているわ」
「これが落ち着いていられ——いやまてミラ、落ち着こう。落ち着くからその手にもつものを下げるんだ」
「あら残念」
ロジャーが我に返って手を離す。こちらからは見えなかったが、ミラは何かを手にもってロジャーを止めてくれたようだ。
ほっとしたのも束の間、今度はそのミラが、真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「でも、彼の言う通りね。貴女についていけば私たちは確実に強くなれる。そう確信した。——私も弟子にしてもらおうかな」
収集がつかなくなってきた。
助けを求めるようにアンナ理事長を見ると、彼女はただ、楽しそうに微笑んでいるだけだった。
「さっそく皆さんと仲良くなったようでなによりです。——そうね、サーシャさんの編入は明日からですが、みなさん待ちきれないようですから、今日はこのままサーシャさんの歓迎会としましょうか」
その言葉が、堰を切った合図になった。
「なあ、あの射撃ってどうやったんだ!?あ、俺ジェイっていうんだ。よろしくな!」
「私はシー。ねえねえ急加速Gに耐えるコツとかあるの!?」
「師匠、是非とも教えてくれ!どうして俺たちの位置が分かったんだ」
クラスメイトたち、主にAチームの面々が一斉に私を取り囲み、質問攻めにしてくる。
『いやー、人気者はつらいのぉ』
「人気になんてなりたくないわよ私は!」
先ほどとは違うトーンでホロが蒸し返す。
その騒がしい輪の中心で、私が為すすべなく生徒に詰め寄られている様子を、少し離れた場所から、一人の女子生徒が静かに見つめていた。
ユイナだ。
「——」
一瞬だけ、彼女と目が合った、気がした。視力と記憶力がいい今の私なら、勘違いではないだろう。
けれどその瞳に宿る感情が何なのかは、私にはわからない。
彼女だけは、騒ぐクラスメイトの輪に加わろうとはしない。
やがて彼女は、誰にも気づかれることなく、一人静かに、管制室を後にするのだった。




