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圧倒

 管制室のスピーカーが、悲鳴に近い報告を叩きつける。

「アーネス機、右脚部スラスター大破! ジェイ機、シー機、衝撃により背部スラスターの性能が低下します!」

「サーシャ機、第二種電磁砲発射!——命中!ジェイ機、右脚部大破!」


 ざわめく管制室。

 その報告を聞きながら、長く黒いポニーテールを揺らし、一人の少女がアンナの隣に立った。

「母上」

「どうしたの、ユイナ」


 アンナの娘——ユイナは、信じられないといった目でメインモニターを見つめていた。


「……サーシャ講師が使用しているあの第二種電磁砲は、先日の戦闘で我々が緊急出動要請で使用していたもののはず。つまり、ほぼ未整備の状態です。そのような機材で、あの距離から移動目標を正確に撃ち抜ける人間など、いるのでしょうか」


 ユイナの問いに、アンナは楽しそうに、ただ静かに笑うだけだった。


「目の前に、いるではないですか」

「しかしっ……!」

「——人類は、幾度となく強大な敵と対峙してきました」


 それはユイナだけでなく、ここにいるすべての生徒聞こえるような、はっきりとした声。


「そのすべての敵が、我々の想定を超え、多大なる被害を及ぼし——けれど人類は最終的に勝利を掴み取ってきました」

「……けれど、それは多大なる犠牲の上であった。母上の理念の礎ですね」


 そう、とアンナは頷く。

 人類は常に後手に回ってきたのだ。圧倒的な敵が存在すると分かっていながらも、その対応に割く予算がない、人がいないと言い訳を言い。

 上位層の者たちは、自分たちの生存が脅かされそうになってようやく対策に本腰をいれるのだ。

 その下に多くの命が犠牲になっていることも知らず。

 だからこそ、サーシャの存在はアンナにとって天啓でもあったのだ。人類は、次のステップに進む足がかりを得たのだと。

 彼女のロゼ操舵技術は、全宇宙を探しても誰にも勝るとも劣らぬものだとアンナは確信している。それが味方として現れたのだ。

 母の珍しい笑みに、ユイナは内心で驚きながら、再びモニターに映る絶望的な戦況へと視線を戻した。


 ◇


「各機、連結を解除! 散開しろ!」

「やれるもんなら、とっくにやってるわ!」


 激しい回転Gに耐えながら、ロジャーの怒声が響く。

 ジェイの悲鳴のような声が返る。凄まじい慣性で、連結部のロックが固着してしまったのだ。

 さらにジェイの機体は右脚部が膝下からなくなっており、アーネス機と合わせて全体のスラスター制御に多大な負荷をかけていた。


「——やるしかない」


 その時、ミラが冷静に言い放った。

 彼女は躊躇なく、自機の左腕を肩の関節部から強制的にパージした。爆砕ボルトが作動し、衝撃と共にミラ機だけが錐揉み状態から離脱する。


「ジェイ、シー! 腕を切り離しなさい! シーはアーネスの補助! ジェイは敵を探して!」


 体勢を立て直したミラが、即座に指示を飛ばす。敵はまだ、こちらの索敵範囲に姿を見せていない。このままでは、ただの的だ。

 ミラの指示で、ジェイとシーも腕をパージし、ようやく陣形は分解された。


「ぐっ…! 全機、アーネスを中心に防御円陣を組む! 体勢を立て直すぞ!」


 ロジャーが叫ぶ。混乱の極みから、即座に陣形を再構築する。各機の練度の高さ、そしてロジャーの指揮能力の高さを証明する動きだった。

 だが——あいにくと、サーシャには通用しなかった。


『——はい、大将撃破』


 その声は、ロジャーの頭上から聞こえた。同時、全身を強打する衝撃とともにモニタがすべて沈黙。

 ロジャーのコックピットは非常用ランプだけが灯る。


 (何が起きた!?いや、まずは機体の復旧を——)


 モニタは沈黙したままだが、システムの復旧を試みる。

 敵前で悠長なことはしていられないが、それでも戦場に復帰することを諦めてはいない。

 迅速かつ正確な手つきで最小限のシステム復旧を終え、モニタの一部が復活する。

 歯抜けのようになるが、周囲の状況と機体状況が表示される。


 「——なんだ、これは」


 ◇

 

 ミラはみていた。

 ロジャーの直上から教習機が出せる最高速度でサーシャ機が飛来してきたのを。通常であれば気付いたかもしれないが、直前まで振り回されていたのでわからなかった。

 しかもサーシャ機が飛来した方向は1等星が輝く。このわずかな時間でこちらの索敵を警戒して位置どりまでして。

 単機で出せる最高速度で接近したサーシャのロゼは、ロジャー機とすれ違い様、その頭部と胴体を一閃のもとに切り離した。

 続けざま、ロジャー機の下に回り込み、手にした電磁砲を連射する。

 蒼い閃光がジェイ機、シー機、そしてアーネス機の脚部・腰部を次々と撃ち抜いていく。


「くっ…!」


 唯一、ミラ機だけがその連射を回避した。

 だが、回避した先。そこには、音もなく待ち構える、漆黒のロゼがいた。

 その手には、先ほどロジャー機を斬り捨てた長剣が、静かに握られている。


『——貴女で、最後』


 無情な声が響くと同時。

 ミラ機の右腕と両足が、閃光と共に宙を舞った。

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