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誘い

 会議室は宿舎の3階にある。ホロが案内してくれなければ確実に迷っている広さがあるロゼ部隊の宿舎だが、不思議とすれ違う人は少ない。

 そんな奇妙な感想を持ちながら部屋に入った私たちを待ち受けていたのはガンツとノイン、そして、見知らぬ妙齢の女性。


『ほな、これでワイらは無罪放免ちゅうことで解放かいな?市街地に行くタクシーとか手配してくれるとありがたいんやけど』


 開口一番にホロが言う。

 だがノインは困ったように微笑み、隣のガンツに視線を送った。


「そのはず、だったんだがな…」


 ガンツは気まずそうに咳払いを一つすると、私たちにこう切り出した。


「サーシャ・オクト君。君に我々から一つ提案がある。ロゼパイロット養成学校に特別講師として就任する気はないか?」


『なんやて?』


 ホロが弱く点滅する。相手の真意を計りかねていると、そんな感じで考え事をしているのだろうか。


「ここからは、私がご説明します」


 そう言って立ち上がったのは品の良さそうなスーツを着こなした、妙齢の女性だった。彼女は自らを「アンナ」と名乗った。


「私はこのフェルンディオ内にあるロゼパイロット養成学校にて、理事長を務めております。以後、お見知り置きを」


 彼女——アンナは、こう続けた。

 先日の戦闘におけるサーシャの実績は、素晴らしいの一言に尽きること。15歳という若さでロゼを巧みに操り、女王を討伐したその戦闘技術を、ぜひフェルンディオのロゼ部隊の育成に役立ててほしい、と。


「もちろん、サーシャさんには、操縦訓練の『講師』をお願いする一方、通常の座学は他の生徒と共に『生徒』として受けていただければと思っております」

『座学を?色々思うところはあんねんけど、なしてそんなこと言いはるん?』

「ええ、ええ。そう思うのも無理はないでしょう。そのあたりは、少し調べさせていただきました。あなた方は3年前、つまりサーシャさんは12歳のときにこの船に来た。だというのに身寄りはなく、一人……いえ、二人で暮らしているそうですわね?」


(……そうなの?ホロ)


 小声でホロに問うが、返事はない。


「もちろんあなた方が中央機関のAAA権限を持つというのは承知しております。ですが、だからといってそれを理由に働きもせず——まぁこれは年齢的なところもあるでしょうが、だからと言ってこの3年をどのように過ごしてきたのか、というのは教育者として思うところがありますのよ?聞けば、サーシャさんは汎用設備の扱いすら誰かに聞かなければ操作できないそうではありませんか」


 それは、そうだ。

 検診を受けていた時に、まさに未来の設備によってあらゆる検査を受けていた私だが、その操作方法は何一つわからず、どうすればいいのかを手取り足取りノインに聞いていた。

 ノインは驚かずに、丁寧に教えてくれていたのだけど、思えば握力を測定する時はどうすればいいのかだとか、狭い部屋で「走れ」なんて言われた時は「壁にぶつかるじゃない」なんて言って医療スタッフたちが困惑していたのを思い出す。

 だってまさか床全面が走った分だけ動くなんて思わないじゃない。

 それをアンナは見過ごせない、と言っているのだろう。

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