異物の帰投
「ソラバチ、宙域より離脱し始めました!」
「アルファ3より入電!敵、逃亡を開始!」
「座標198-A-48にて爆発を確認!アンノウン機が向かったと思われる場所です!」
オペレーター達の慌ただしい報告が響く。
「爆発した場所を最大望遠で主モニターに回せ!戦闘はまだ続いている!しかし深追いはするな、各機、船の防衛を最優先としろ!」
ガンツの指示が終わるか終わらないか。副艦橋正面のモニターに、粗い画像の爆発映像が表示される。
「あれが、女王のいるところなのか?」
「アンノウン機からのデータと、こちらのデータを照合しても、その可能性が高いと」
唸るガンツ。あれだけ敵陣の奥深くまで単機で突撃し、そして今の状況を鑑みるに女王撃破まで成し遂げたアンノウン機。
「……ノイン。あれをどう見る」
徐々にオペレーターの声が静まり始め、別のモニターではロゼを示す緑色の点がフェルンディオ周辺へと集結し始めていた。
戦闘は、終わったのだ。
「どう、とは?」
「敵か味方か。いや、そんな大雑把に括ることはできないな。我々はあれと、友好的に接するべきか、否か」
「少なくとも今は、助けてくれたことは事実かと——アンノウン機からオープンチャンネルで入電あり!」
「……繋げ」
戦闘が終わって一息つけるかと思っていた矢先、なんともタイミングがいいことだ、とガンツは頭を乱暴に撫ぜる。
副艦橋のスピーカーから聞き覚えのある呑気な声が響いた。
『やーお疲れさん。いやー、ワイら大手柄やない? ま、そういう訳で借りてたもん、返しに行きたいんやけど、ええかな?』
「借りてたものだと?」
『機体や、キ・タ・イ。このロゼ——コールサインはデルタ2やったか。非常時とはいえ借りたもんはきっちり返とかんと性に合わんのや』
「——ノイン、第2ハンガーを解放しろ」
「よろしいのですか?」とノインから目配せされるが、「開けてやれ」と顎で返す。
「聞いての通りだアンノウン」
『おおきに!』
短い通信が切れる。
ガンツは席を立ち、ノインと数人のクルーに目配せをして、足早に副艦橋を後にした。
◇
第2ハンガー横の、普段は作戦司令室と使っている大部屋は、異様な熱気に包まれていた。
ガンツやノインだけでなく、噂を聞きつけた整備士や非番から叩き起こされて戦闘に加わっていたクルーたちが集まっており、皆窓からハンガー内を凝視している。
『ゲート、開きます』
誰ともとれない無機質な音声と共に、ゆっくりとゲートが開く。
深蒼の宇宙空間が見え、その中に漂う一体のロゼが宙に浮かぶ誘導灯に従って、ゆっくりとハンガーに入ってくる。
「なんだ、あの姿」
「あれがロゼだっていうのか?」
クルー達から漏れる声。
その反応も当然だろう。ガンツさえも、あまりの異様さに固唾を吞むほどだ。
それは紛れもなくデルタ2の機体だったが、装甲の至る所に、応急処置であろう見慣れないパーツが当てがわれ、痛々しくも異様な姿へと変貌していた。
ロゼがハンガー内に着艦すると、その外部スピーカーからホロの声が響いた。
『お嬢ちゃん、パイロットスーツ着とらんからなー。悪いけど、ハンガー内、与圧して気密保ってやー』
その言葉に、ガンツはヘルメットを被ろうとしていた手を止め、小さく笑った。
「……この歳になると、ヘルムの締め付けはきつくてな。助かる」




